50、「サウナにて」
私は昔から
「もしかして
サウナで汗をかいて体調がよくなる度合いと、
中でうわさ話を聞いて具合が悪くなる度合いでは、
わずかに後者のほうが大きいような気がする」
と思っていました。
そのくらい、女のサウナ室はうわさ話の宝庫なのです。
あんな熱いところでいやな話ができる、
その熱意と根性と体力があれば、
やせるくらいのことは簡単に
成し遂げられそうな気がするんだけれど、
みんなどうもやせている様子はないようだ・・・。
でもためになる話も聞けます。
このあいだ歯の移植の話をしている人たちがいて、
聞くともなく聞いていたら、
自分の歯を自分に移植する手術を受けた人が、
それがどれだけ痛かったか、
しかしちゃんと移植が成功してよかったよ、
という話をしていました。
そうしたらそこにいたもうひとりの人が
「実は私は、
いろいろなところに歯が生えてくる体質で、
今も口の中の関係ないところに歯が生えている、
じゃまになるまでは抜かなくていいと
医者に言われたが、
今もポテトチップスを食べると
いつでも血が出るのだ」
という恐ろしい話をし始めました。
私と、そこにいた他の人もうふたりは、
熱くて出たいのだけれど
あまりの不思議さに思わず聞き入ってしまいました。
「だから、私は移植しなくてはいけない
歯がほしいときに、
その歯を使うことができるわけなのよ」
というのを聞いたときには、
思わず「おお〜」と言いそうになってしまいました。
「でね、実はこれって遺伝で、
うちのおばあちゃんも、母も、父も、
兄きもめいっこもみんなこうなの。
違うのは兄きの嫁さんだけ」
彼女がそう言ったとき、すぐに連れの人が
「あたりまえじゃん、他人だもん!
嫁さんもそうだったらその方が問題だよ!」
と突っ込みましたが、
そのとき私含む関係ない三名は無言のうちに
ものすごくほっとして
「突っ込んでくれてありがとう」と
同じ思いを抱いていたのが手にとるようにわかりました。
そしてオチが聞けたので
急に熱さがこたえてきて、
みなかなり露骨にダッシュで外に出たのでした。
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