52、「産院で」


子供が産まれた日の夜、
まったりと産院で赤ん坊を囲んで夫と過ごしていたら、
夜の九時過ぎに突然、
昔つきあっていた彼が
うちの姉からたくされた荷物を持ってやってきました。

彼の家のチビが結膜炎なので、
赤ちゃんに触れない!くやしい!と言いながら、
彼が置いていったのは
「大量のから揚げ」と
「二週間分のコミックモーニングと
 ビックコミックスピリッツ」であった。

姉はインフルエンザで寝込んでいて、
赤ちゃんを見に来ることができないので、
せめてそれを届けたい、
と言っていたそうなのですが、
運び手もメニューも考え方も、
なんだか全てが間違ってませんか?
インフルエンザに震えながら
大量のから揚げを揚げる姉を思うと、
しみじみ泣けるというよりはびっくりです。

産院では、
よい乳を出すために粗食が徹底されていて、
その一時間前に
「甘いものが食べたいでしょうけれど、
 カロリーが高いからだめ。
 でも、これだったら食べてもいいですよ。
 出産疲れのお母さんに、
 産院からの差し入れです!」
とすがすがしく「こんにゃくきなこ餅」だとか
「黒蜜かんてん」だとかいう
ヘルシーなものがうやうやしく
差し入れられたばかりだというのに、
私と夫はこそこそと隠れて、
深夜に揚げたてのから揚げをむさぼり食うことに。

そして二週間分の青年漫画雑誌というのは、
確かに頭を使わず読めて
とてもよかったのだが、
産院というのは案外忙しいものなので、
退院までにそれらを読み切れるかどうか
とても微妙で、
でも家に持って帰って読むほどのこともない気がして、
なんだか宿題のように私は読みまくりました。
かたわらには
ふにゃふにゃの赤ん坊がいるのに、
私の頭の中は怖いトモダチだの、
やりまくる男子だの、
別れたけど忘れられなくて寝てしまう巨乳だの、
じみへんだのバーバーだの、
不思議な少年だののことでいっぱいになり、
片手で赤ん坊を抱き乳をやりながら
もう一方の手でスピリッツや
モーニングをめくっている私、
それらの雑誌をテーブル代わりにして
工事現場のような様子でお弁当を食べている
初産のはずの私を見て、
助産婦さんたちはなんとも言えない顔をしていました。

でも、姉と元彼の名誉のために申し上げますと、
とても嬉しかったことは確かでございます!

2006-01-18



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