あいつがいい役するんだよね、 あの最初の敵がね。 |
|
太った男の子? | |
そう! いい役するんだよねぇ。 | |
「友達だよ」と言い続ける子。 | |
「ちゃんと勉強会にくればいいのに」とかね。 | |
世話焼いてくれて。 | |
あの子の描き方だけでも好きさ。 | |
これの前に少女漫画を描いてたので、 わりとかっこいい人で全部揃えてたんですけど、 こっちは青年誌なんで、 いろんな輪郭の人が描けるんです。 じゃあ、太った男の子をライバルに出そうとか、 ガリガリすぎる人を出そうとか、楽しくて。 いつかその人たちが、見かけはこうだけども、 中の輝きだけで見た人が 「もう大好き」って言ってくれれば成功だと思って。 丸い男の子のことを「嫌いだ」っていう人を まだ見たことがないので、 よかったぁと思ってるんです。 |
|
なんと言ったらいいかな、 あいつのかっこよさを感じ取れる読者が、 この漫画を読んでる数だけいると思うと、 この国はこういうところから 変わっていくんじゃないかと(笑)。 |
|
私、丸い子と、ガリガリで ちょっと頭に不安を抱えた方を、 読んだ人が「かっこいい」って言ってくれたら、 私の何かが叶うと思って。 桐山君の目から見たら、 最初冴えない人だっていうふうに描いておいて、 第1回目パラッと見た時に、 みんな脇役と思って読み流してもらって、 途中でカチッとスイッチが入ると、 すごい強い人で、いろんなことを考えてて、 いろんなもの背負ってて、 だんだん愛情が沸いていくっていうのを。 私が描き切れたらいいなぁと思って。 |
|
いやぁ、そこまで伝えられたと思う。 できてると思う。 それを信じて伝えたら、 さっきオキタ先生と羽海野さんの関係じゃないけど、 子どもは聞いてるんだよね。 最近、知り合った人が保護犬を扱ってるんです。 保健所から保護する犬を連れてきて 里親探してる人がいて、 漫画の主人公にしたいような人なんですよ。 それが、すぐ行き先の決まりそうな犬と 絶対決まらない犬を混ぜて連れてくるんですよ。 でも、会うとかわいいことがわかるんですよ。 もうボロボロなの。普通の価値観からすると。 でも、「いいでしょう?」って言うの。 |
|
「いいでしょう?」、 好きなんですね、すっごい。 |
|
まったくてらいなく「いいでしょう?」って言えて、 「この子やっぱり連れてきてよかった」って。 たとえば子どもを産まされ続けて 老けちゃった子がいて、 じつは案外若いんだけど、 外見はボロボロなんですよ。 それが他の犬がご飯食べてる時に、 「いいなぁ」っていう顔とかしてると、 「あ、その生命力あるんだ!」とか、 見てる人だけにわかる。 |
|
ツイッターをやってると、 いろんな情報が入ってきますよね。 一昨日か、見たんですけど、 飼育放棄された子たちの写真がアップされてて 「この子のお父さん、お母さんになってくれませんか」 って言ってる人の文章がすごいんですよ。 猫ちゃんが虐待で髭とかライターで チリチリってなってる。その文章が、 「こんなことをされたのに、 人間にちゃんと近づいて来れる立派な子です」 って書いてあって。 「なんでこんなことをするんだろう。 でも、この子は立派です」って書いてあって。 |
|
今までのヒューマニズムを表現する人たちって、 ひどいことをする人へのメッセージばかりが 書いてあったんだけれど。 |
|
そうなんです。でも、その子を褒めてたんです。 | |
そこまでとうとう人は来たか。 | |
来ました。私も 「この子は強いです」って言われた瞬間、 貰いにいこうかなってこう思わされる 何か愛情が吹き出てましたよ。 |
|
わかる。ぼくはそこのところを経過して 『3月のライオン』に至ったんで、 この脇役たちのかっこよさがますます 「そうなんだよ!」って言えるようになったの。 |
|
うれしい、うれしい。 それって将棋やってる方を見た時に まず思ったことなんですよ。 |
|
ボロボロだよね、あの人たち、ある意味(笑)。 | |
もうボロボロになって、 もうわけわかんない動きになっちゃってる 極限状態を放送されちゃってる。 見かけもそうで スポーツマンとか歌手とか女優さんとかって、 見ただけでだいたい職業がわかるのに、 棋士は、ただ普通にいたら、わからない。 でも指してるとかっこいいんですよ。 このギャップを伝えたいと思って。 しょぼーんとした人、不安を抱えた人なのに、 将棋を指し始めたら 私にはものすごいかっこいい人に見えたんです。 |
|
そこが描きたいんだよね。 | |
「かっこいいー!」と思って。 最初、「うん?」って思っちゃったのを、 「ごめんなさい」って思って。 こんなにかっこいい。 それを、私、代弁したいと思って。 |
|
最初にかっこいいと思わなかった自分を 覚えている状態で表現しないと、 結局嘘になるんだよね。 |
|
そう。で、これと同じ体験を 読んだ人にしてほしいって思って。 同じ流れを一緒に進んでもらえたら、 「でしょう?」って話ができると思って。 |
|
羽海野さんがそんなふうに考えて、 全身全霊を打ち込んでるのも本当だけど、 「楽しくラクをしたいです」 っていうのも本当じゃないですか。 やっぱり笑顔やら「おいしかった」やら、 しょうもないことをたっぷり持ってないと、 こっち(表現する)側の自分が 痩せちゃうんですよね。 |
|
両方持ってないと、 どっちも叶わなかった錯覚に落ちちゃうんで、 その不安定なのが治るまでを 描きたいなと思っています。 |
|
そうですよね。 なんかおいしいもん食べてくださいね。 |
|
食べます! | |
(羽海野チカさんとの対談は、これでおしまいです。 羽海野さん、また遊びにいらしてくださいね! どうも、ありがとうございました。) |
2011-04-12-TUE |
||
美大を舞台にした『ハチミツとクローバー』でデビュー。 高校生棋士を主人公にした長編第2作 『3月のライオン』で「マンガ大賞2011」を受賞。 同作は現在も白泉社「ヤングアニマル」誌で連載中。 |