- 三國
- はじめまして。三國万里子といいます。
- 石川
- はじめまして。石川です。
カーディガンを
ほんとうにありがとうございました。
- 三國
- いえいえ、とにかくぶじに
お帰りになられたことがなによりです。
- 石川
- ありがとうございます。
ベースキャンプで、
約束の写真を撮ってきました。
- 三國
- これがベースキャンプという場所ですか‥‥。
- 石川
- ええ。
カーディガンを着て、近くを散歩したり。
ずいぶん着させていただきました。
- 三國
- ほんとだぁ。
持って行ってくださったんですね‥‥。
すごく遠いところまで。
- ───
- 「ベースキャンプでいちばん派手な人に」
というのが三國さんのご希望でしたが、
いかがでした?
- 石川
- もちろん、目立ちました。
でも派手ということでは‥‥
へんな目立ち方じゃないんです。
違和感なく、目立っていたと思います。
- 三國
- まわりの方々は
どんな格好をしてるのですか?
- 石川
- まわりはもう、山の格好。
ダウンジャケットとかフリースとか。
- 三國
- じゃあわりと、派手な色の人はいたんですね。
- 石川
- そうですね、
色が派手な人はいました。
でも、こういうふうに
柄がにぎやかな人はいなかったです。
- 三國
- セーターなんかを着ている人は‥‥?
- 石川
- いないですね。
ぼくだけでした。
- 三國
- ああ、どうしよう、石川さんに
すごい無理をさせてしまったのかも(笑)。
- 石川
- いやいや(笑)、そんなことないです。
山では機能的なものばかりなので、
だからこそ、
こういう日常の空気をまとった服があると
すごくほっとできたんです。
- 三國
- そう言っていただけると。
- 石川
- 気分転換になりました。
あったかいし、着やすかったし、
着ていて違和感もないから、
このまま寝たりしてました。
- 三國
- よかったぁ。
わたし、
「寝れるセーター」というのが目標なんです。
- 石川
- 着たまま寝てましたよ。
とにかく、一日中着てました。
- ───
- 前開きのカーディガンっていうのは
いかがでした?
- 石川
- 便利でした。
暑いときはさっと開けて、
寒くなったら閉める。
温度調節がしやすいです。
- 三國
- ベースキャンプの気温は何度くらいなんですか?
- 石川
- 気温は‥‥何度かな? 寒い時も暑いときもありました。
ベースキャンプでは、あまりはからないんですよ。
- 三國
- 標高は?
- 石川
- 5,000メーターです。
- ───
- その、5,000メーターまで行ってきた
カーディガンを見せていただけますでしょうか。
- 石川
- そうですね、これを出さないと‥‥。
(バッグから取り出す)
- 石川
- あまりにも汚れていたので、
いちおう洗ってきました。
- 三國
- 拝見します。
‥‥あー、フェルト化してる(笑)。
- 石川
- え? 何ですか? 何化してる?
- 三國
- フェルト。
なんていうんでしょう、ペラーっとこう、
毛糸の繊維と繊維がなじんで、
一枚の布みたいになるんです。
- 石川
- へえーー。
- 三國
- 繊維のキューティクルが、からまるわけですよ。
ちょっと硬くなって、
目が詰まってくる、
編み目が見えなくなってくる。
- 石川
- はい、はい。
- 三國
- (編み目の確認を終えて)
破れたり切れたりはしてないですね。
- 石川
- そうですか。
けっこうハードに使ったんですけど。
- 三國
- このまま着続けて大丈夫です。
- 石川
- もっとダメージがあるかと思いました。
- 三國
-
きれいです。
これ、まだまだフェルト化しますよ。
もっといい感じになります。
でも、不思議とやぶれたりはしない。
袖口がほつれたりはしますけど。
そうなったら持ってきてください、
直しますので。
- 石川
- ありがとうございます。
- 三國
- わたしもね、セーターを着て寝るんです。
- 石川
- そうなんですか。
- 三國
- 守られてる感じがちょっとして。
布団だけじゃ、すこし不安なんですよね。
わたしもこれと同じ
シェットランドウールのセーターを
かぶって寝ています。
- 石川
- シェトランド‥‥というのは?
- 三國
- イギリスがあって、
スコットランドがありまして。
そこから北の方にある離れ小島で、
位置的には、ほぼ北欧です。
- 石川
- へえー。
- 三國
- 風がすごく強くて、
ひつじが大きくならないんですよ。
繊維自体もそのせいで細いものになるんです。
その細い毛が、
こうした編みこみをするのに適してるんです。
- 石川
- なるほど。
- 三國
- フェルト化しやすいという特徴もあります。
でも、フェルト化するということは
目が詰まってくるわけですから、
風を通さないセーターができるんです。
- 石川
- その毛糸は、シェトランドでしかとれない?
- 三國
- ええ。
もともとはイギリスなどの在来種のひつじを
もちこんだらしいのですが、
それが小型化したんですね。
なので、いまはそこにしかいないひつじ。
シェトランド島の特産になっています。
- 石川
- へえーーー。
そんな貴重なものだったんだ。
- 三國
- あんまりたくさんはとれないです。
- 石川
- さらに愛着がわいてきました。
- 三國
- よかった‥‥。
石川さんが着ることを
念頭において編んだのですが、
これはきっといろんな人に似合うと思います。
女性にも、もちろん。
- 石川
- ああー、そうですね。そう思います。
- ───
- このカーディガンの
「編み図」をつくるんですよね。
- 三國
- そうそう。
- 石川
- これの編み方がわかるんですか。
- 三國
- 石川さんでも編めます。
- 石川
- ええー、まじで。
- 三國
- できますよ。
編みものって、
けっこう「手加減」の世界だから、
性格がてきとうなひとのほうが向いてるんです。
- 石川
- そういうもんですか。
- 三國
- あまり気にしない人。
てきとう、というと違うかな‥‥
適宜やれるひと、対応できるひと。
- 石川
- でも几帳面じゃないと無理ですよね?
- 三國
- 几帳面かそうでないかは、ぜんぜん関係ないです。
- 石川
- そういうものなんですね。
これ、何時間くらいで編めるんですか?
- 三國
- 何時間だろう‥‥。
ふつうに編めるひとで5~60時間だと思います。
- 石川
- 5~60時間で、これが。
- 三國
- 編み図があれば。
- 石川
- そうですか‥‥。
いやほんと、何度もいいますけど、
こういう手仕事ができるひとをすごく尊敬します。
- 三國
- ありがとうございます。
- ───
- すみません石川さん、最後にひとつ。
今回のK2遠征では、
残念ながら登頂に立つことを断念されました。
- 石川
- はい。
- ───
- どういう状況で、その判断をされたのでしょう。
- 石川
- 判断は‥‥
なにしろ雪崩が毎日のようにあって、
せっかくつけたロープとかが雪崩で埋もれるんです。
埋もれただけなら掘ればいいんですけど、
埋もれたところがガリガリに凍っちゃって、
もう取り出せなくて。
そこに、四方八方から雪崩がやってきて。
最後の最後までねばったんですけど、
もう無理だな、と。
※本番の遠征で撮影した動画をご覧ください。
石川さんの息づかい、雪崩の映像‥‥。
「日常の空気をまとった服があるとほっとできる」
石川さんのこの言葉を、より深く、リアルに共感できます。
- ───
- 頂上近くまでは登れたんですか。
- 石川
- 7,200メートルまで。
「キャンプ3」というところまででした。
その先の「キャンプ4」から頂上に挑むんですけど、
「4」まで行けなかった。
しかも‥‥
「キャンプ3」にダウンのツナギを
置いてきちゃったんです。
それが回収できなくて、
いまもまだ「キャンプ3」にある。
いつかあれをとりにいかないと。
あれ、新品なんだよなぁ‥‥。
- 三國
- また挑戦するのですね。
- 石川
- 行けるかどうかはわからないんですけど、
「行きたい」です。
行けるようになったら、
次もベースキャンプでは、これを着ます。
- 三國
- そのときには、また写真を撮ってきてください。
- 石川
- もちろんです。
- 三國
- こんなにたくさんカーディガンを着てくれて、
ありがとうございました。
- 石川
- こちらこそ。
うれしかったです。ありがとうございました。
石川直樹さん、
緊張感のある厳しい現場に
このカーディガンを連れていってくださり、
ありがとうございました。
後日、このカーディガンには、
『K2』という誇らしい名前がつけられました。
山の名前が、そのままカーディガンに。
そんな『K2』の、詳細な編み図を作成しました。
三國さんが編んだのと同じものが編めるよう、
シェトランド島産の毛糸も輸入しました。
だれかのための「うれしいセーター」を、
あなたも一着、編んでみませんか?
あ、もちろん、
自分のための「うれしいセーター」でもオーケーです。
こうして、「うれしいセーター」の第一弾は、
みんなにうれしく終了しました。
第二弾も、いずれお届けしたいと考えています。
さらに、この企画を「書籍」にするという目標も‥‥。
ゆっくりと、おたのしみに。