写真家の石川直樹さんに、
「うれしいセーター」のご希望をうかがった
4月の上旬から約2か月が経ちました。
2015年6月上旬、
ふたたび石川さんに
ほぼ日オフィスへと、お越しいただきました。
そうです。
完成したカーディガンをお渡しするために。
ごあいさつもそこそこに、
テーブルの上に「それ」を広げました。
- 石川
- ああ‥‥。
‥‥そうですか、こういう‥‥。
- ───
- いかがでしょう。
- 石川
- ‥‥いいです。
すばらしい。
かわいいです。すごい。
- ───
- 地味なカーディガンでは、ないですよね。
- 石川
- ええ‥‥。
すごくいいです‥‥。
- ───
- ご希望通り、ジッパーもつけてくださいました。
- 石川
- はい。
‥‥(しばし黙って見つめる)‥‥。
- ───
- ‥‥‥‥‥‥。
- 石川
- ‥‥こういうものを、
ほんとうに手でつくっちゃうんですね、
三國さんという方は。
- ───
- はい。
- 石川
- すごい‥‥。
あの‥‥これ、着てみたりとか‥‥
- ───
- もちろんです。ぜひ。
- 石川
- じゃあ。
(ゆっくりと袖を通す)
- ───
- ‥‥‥‥どうでしょうか。
- 石川
- いいです。とても。
- ───
- そちらに鏡がありますので。
- 石川
- ありがとうございます(鏡の前へ)。
‥‥ああ、いいですね。
- ───
- 似合っています。
- 石川
- サイズも、ぴったりで。
- ───
- ぴったりですね。
三國さんの息子さんが、
石川さんと同じくらいの体格だそうで、
編みやすかったそうです。
- 石川
- 170センチ、58キロですか。
- ───
- ええ(笑)、そのくらいだそうです。
- 石川
- いや、これは‥‥‥‥
- ───
- はい。
- 石川
- これは、ほんとにいいですね。
- ───
- はい。
- 石川
- うーーーーん‥‥
やっぱりなぁ。
- ───
- なんでしょう?
- 石川
- 山でぼろぼろにするのは、
もったいないなぁ。
- ───
- いやいや、
そこはどうか遠慮なく着てください。
- 石川
- はんぱなく使い込むんです。
大丈夫かな。
- ───
- ぼろぼろになっても
三國さんにお願いすれば、
ある程度は直せると思います。
- 石川
- そうですか‥‥。
- ───
- この前お会いしてから2カ月のあいだに、
K2遠征の下見に行かれていたそうで。
- 石川
- はい。
3日ほど前に戻ってきたばかりです。
- ───
- 3日前に。
どのくらい行かれてたんですか?
- 石川
- ええと‥‥20日もいなかったかな。
下見だったんですけど、
下見の範疇を超えて
いろいろたいへんで。
ダメージが大きかったです。
- ───
- 下見で、ダメージが‥‥。
※K2下見の様子は、ぜひこちらをご覧ください。
20日におよぶ下見の旅で撮影した動画を編集したものです。
- 石川
- まだボヤーッとしてるんです。
だいぶ回復しましたけど。
- ───
- ‥‥かなり、すごい山なんですね。
- 石川
- 結構ヤバかったです。
- ───
- そうですか‥‥。
ベースキャンプになる場所は、
どんなところでした?
- 石川
- ほんとにもう、岩と雪と氷だらけで。
緑なんかは一切ない。
- ───
- そういう場所で、
このカーディガンは映えそうですね。
- 石川
- 映えますね。
こういうのを着てる人はいない気がしますし。
- ───
- 三國さんからのメッセージです。
「ベースキャンプでいちばん派手な人に
なってほしくてデザインしました」
- 石川
- あー、なりそうですね。
- ───
- (笑)
- 石川
- それにしても‥‥
こういう細かい柄までも
手でつくれちゃうのは、
ほんとうにすごいですね。
- ───
- その柄はフェアアイル模様といいます。
- 石川
- フェアアイル? それはどういう?
- ───
- スコットランドに
フェアアイル島という場所がありまして、
そこの伝統的な図案です。
幾何学柄の多色使いで、
輪編みでつくるセーターです。
- 石川
- 輪編み。
- ───
- 筒のように編んでいくんです。
で、これはカーディガンなので、
最後にわっかに編んだセーターの
前を切るんです。ハサミで。
- 石川
- へえーー。そういうことですか。
そこにジッパーをつけるんだ。
へええーーー。
- ───
- イギリスの皇太子さまが
ゴルフツアーで着られて、
とてもイギリス本土で流行ったそうです。
- 石川
- 思ったよりも重厚なものでもないし、
動きやすそうですね。
- ───
- 柄編みは、毛糸が二重になるので、
薄くてもすごくあったかいんです。
- 石川
- なるほど‥‥。
‥‥(しばし黙って見つめる)‥‥。
- ───
- ‥‥‥‥‥‥。
- 石川
- ‥‥いいなぁ。
- ───
- 「セーターを編んでもらう」ということは、
いままでに経験はありますか。
- 石川
- ないです。
- ───
- いま、どういうお気持ちでしょう。
- 石川
- いや、もう、むっちゃうれしいです。
ほんとにこれは、
ずっと使っていきたいですよね。
飽きのこない感じだし。
‥‥うれしいです。
- ───
- ああ、よかったです。
- 石川
- でも、すごくうれしいから、
うれしいだけに、
K2という場所に持っていくのがもったいない‥‥
- ───
- いや、ぜひ!
セーターが行きたがってますので。
- 石川
- わかりました。
毎日のように着てしまう気がします。
- ───
- ぜひ。
現地で着ている様子のお写真も。
- 石川
- ええ。
‥‥あの、ほんとうに、
くれぐれも三國さんに、
ありがとうございますと伝えてください。
ほんとにうれしいです。
- ───
- しっかりと伝えます。
出発はいつなのでしょう?
- 石川
- 今月、6月の13日です。
- ───
- ああ、もうすぐですね。
それで、2か月くらい遠征に。
- 石川
- 8月19日がタイムリミットです。
それまでに頂上に立てたら、
はやく帰ってこれます。
- ───
- そうですか。
では、お戻りになられたら、
十分お休みいただいて、
もう一度お話をうかがわせてください。
ベースキャンプで、カーディガンがどうだったか。
- 石川
- 帰ってきてしばらくは、
無気力人間になってるかもしれないんです。
だから、ご連絡ください。
そろそろ戻ってきたはずというころに。
- ───
- 了解しました、そうさせていただきます。
それでは石川さん、行ってらっしゃいませ。
- 石川
- 行ってきます。
- ───
- 何度もしつこいですが、
くれぐれも、お気をつけて。
- 石川
- ありがとうございます。
- ───
- カーディガンが、
お守りになるといいですね。
- 石川
- ああ、そうですね。
-
(3か月後の場面へ、つづきます)