すてきな人々にセーターを編んでいく
三國万里子さんの取り組みは、
写真家の石川直樹さんに最初の一着を編んでからも、
着々と、じっくりと、進められていました。
ぜんぶで12名。
それぞれからリクエストを聞いて、
それぞれのために、三國さんが編む。
完成した全15点のセーターや帽子を掲載した作品集、
『うれしいセーター』が、2016年12月8日に出版されます。
編む人がうれしくて、
完成したセーターを着る人もうれしい。
果たして、ミロコマチコさんにとっての
「うれしいセーター」は、どんな一着なのでしょう?
このプロジェクトは、
まずご希望やイメージをうかがうことからはじめます。
2015年の12月初旬、
ミロコさんのアトリエにおじゃましました。
作品集には掲載されない、
打ち合わせ現場の様子をおたのしみください。
リクエストを聞いているのは、ほぼ日の制作スタッフです。
- ───
- 三國万里子さんは、ミロコさんの大ファンなんです。
- ミロコ
- ほんとですか、うれしいです。
わたしも三國さんの本を拝見しました。
すてきですよね、手袋とかセーターとか。
- ───
- そんな三國さんが
ミロコさんにセーターを編むという企画なのですが、
三國さんからのお手紙は
読んでいただけましたでしょうか?
- ミロコ
- はい、読みました。
なんだか、ありがたくって。
- ───
- きょうはこのお手紙にそって、
お話を進めさせていただきますね。
まずは、
「セーターにまつわる思い出」なのですが、
いかがでしょう?
- ミロコ
- はい。
それがじつは、
セーターの思い出というのがあまりないんです。
というのもわたし、
ちっちゃいころからずっと
ウールがだめだったんですね。
かゆくなるんです。
- ───
- ああー。
- ミロコ
- すてきなニットを見つけると
着たいからたまに買うんですけど、
わずかでも毛が触れると、赤くなっちゃう。
首のまわりがとくに。
「ああ、わたしはセーターを着られないんだ」
と断念していました。
- ───
- なるほど。
- ミロコ
- ところが。
- ───
- ところが?
- ミロコ
- ようやく去年から着られるようになったんです。
- ───
- ‥‥それは、かゆくなくなった?
- ミロコ
- いえ、そうではなくて、
去年、ハッと気づいたんです。
「中にシャツを着たらいいんじゃない?」
首まわりのちくちくが気になるんだったら、
えり付きのシャツを着れば、
毛が首に触れないんじゃない? って。
- ───
- ‥‥ミロコさん。
- ミロコ
- はい。
- ───
- その通りだと思います(笑)。
- ミロコ
- ねえ(笑)。
どうしてそれに気づかなかったんでしょう。
- ───
- よかったです。なによりです。
企画が成立しないかもしれないとドキドキしました。
断念していたセーターを、
今は着ることができるんですよね。
- ミロコ
- はい。
ですから、セーター初心者なんです。
思い入れのある一着みたいなのを
まだ持ってないので、
今回のお話は、うれしいなぁと思って。
- ───
- この企画の名前は、
「うれしいセーター」っていうんですよ。
- ミロコ
- あ、そうなんですか。
じゃあ、ぴったりばっちりです。
- ───
- では、
お手紙にあった次の質問にまいります。
「動物の柄で着てみたいと思うものはありますか?」
- ミロコ
- はい。
あります。
‥‥なんかわたし、ちゃんと考えたんですよ。
ちょっとお待ちください(立ち上がる)、
いま持ってきますね(部屋の奥へ去る)。
- ───
- あ、はい。
‥‥‥‥えー、三國さん、
(ボイスレコーダーに向かって話す)
この録音を聞いている三國さん。
いま、ミロコさんは何かを取りに、
奥の部屋へと姿を消しました。
- ───
- 三國さん(ボイスレコーダーに向かって)、
ミロコさんは、何を持ってくるのでしょう。
‥‥あ、戻っていらっしゃいました。
- ミロコ
- さっき描いたばかりなんですけど。
- ───
- ‥‥それは。
- ミロコ
- 三國さんがお手紙をくれたので、
じゃあ、わたしもお手紙返しをしようと思って。
ここの壁にもあるんですけど、
カオジロガンっていう、鳥の絵を描きました。
- ───
- わあああーーー、すごーい!
すばらしい!
三國さんたいへんです(レコーダーに向かって)、
ミロコさんがこのために、
絵手紙を描いてくださいました、三國さん!
- ミロコ
- (笑)あとでその録音を三國さんが聞くんですね。
- ───
- はい。
いやぁ‥‥すばらしい。
(絵手紙を読む)
「私が着てみたいセーターは、
カオジロガンのセーターです。」
- ミロコ
- カオジロガンって言っても、
なんだかわからないと思ったので、
絵もいっしょに。
- ───
- フィンランドのヘルシンキで、
最も仲良くしてくれた鳥と書いてあります。
- ミロコ
- 9月から10月にかけて、
展覧会のためにヘルシンキに3週間行ってたんです。
そのとき滞在していたアパートの周辺に、
このカオジロガンが、山のようにいるんですよ。
- ───
- 群れているんですね。
その絵のように。
- ミロコ
- そう。
- ───
- 渡り鳥でしょうか。
- ミロコ
- ええ。夏の間はグリーンランドとかにいて、
冬になると南下してヘルシンキにもやってきて、
暖かくなってきたらまた北へ飛んでいくのだと思います。
- ───
- へええー、カオジロガン。
- ミロコ
- すごくきれいな鳥なんです。
「このカオジロガンをモチーフにしたセーターを」
というお願いのしかたで大丈夫でしょうか。
- ───
- 大丈夫なはずです。
三國さんにお伝えします。
- ミロコ
- たのしみです。
どんなセーターができるんでしょうね。
- ───
- 三國さんのお手紙にあった質問、
続きましては、色のことです。
「好きな色、色の組み合わせは?」
ということで、
糸見本をあずかってきたのですが‥‥。
- ミロコ
- わあ、こんなに種類があるんですね。
- ───
- 「カオジロガンのセーターを」
というリクエストですので、
色に関してはおのずとイメージできますから、
選んでいただかなくても大丈夫だとは思います。
- ミロコ
- そうですね。
でも、せっかくなので‥‥ええと‥‥。
(ミロコさんは、好きな色や
色の組み合わせをいくつか教えてくださいました)
- ───
- ありがとうございます。
三國さんに伝えます。
では最後の質問を。
「こんなセーターがほしいという、
具体的なアイデアがあれば」
という質問です。
- ミロコ
- そうですね、中にシャツを着るので、
シャツに合うセーターがいいです。
- ───
- なるほど。
シルエットは、どんな感じが?
- ミロコ
- わたしはあんがい、
着るものに関しては保守的なんです。
でも、せっかくの機会ですし、
とくべつな一着ですから、
すこし不思議なかたちでもいいと思っています。
- ───
- わかりました。
そのリクエストのまま、三國さんに伝えます。
お手紙にあった質問は以上ですが、
もうひとつお願いがありまして‥‥
(持参したカーディガンを取り出す)
サイズの確認です。
- ミロコ
- カーディガン。
それも三國さんのデザインなんですか?
- ───
- ええ、三國さんがデザインしたニットの
キットなどを販売している
「Miknits」というお店のカーディガンです。
どうぞ(渡す)。
- ミロコ
- では‥‥。
- ───
- いまはシャツを着てないので、
首がちくちくすると思いますが。
- ミロコ
- ちょっとだったら大丈夫です‥‥。
(ボタンをとめながら)
ボタンもかわいい‥‥。
- ───
- これを着ていただいた写真を撮っておけば、
三國さんがサイズを考えるときの
基準になるわけです。
またもちろん、ミロコさんの希望を伝える場合も、
これを基準にするとわかりやすいので。
- ミロコ
- ‥‥‥‥はい。着ました。
- ───
- おおー、すごく似合ってます!
- ミロコ
- (鏡を見て)ああー。
わたし、セーターを着ている。
ニットデビュー(笑)。
- ───
- サイズのお好みは?
- ミロコ
- そうですね‥‥
袖も、丈も、
あと3センチくらい短めだとうれしいです。
- ───
- 了解しました。
では、完成したらご連絡いたしますね。
- ミロコ
- 待ってるあいだもたのしみになりそうです。
- ───
- 手編みのセーターですので、
長い時間お待たせすることになりますが、
次にお会いするときは、もう撮影です。
- ミロコ
- はい。
- ───
- こちらのアトリエがすてきなので、
ここで撮らせていただいても‥‥?
- ミロコ
- はい、大丈夫ですよ。
- ───
- ありがとうございます!
それではミロコさん、しばしお待ちください。
(9か月後の撮影現場へ、つづきます)