糸井 なんやかんや言って、
気づくとここまで社員が増えちゃって。
前川 そして、なんというか、
みなさまの雰囲気というのが‥‥、
つまり、一致団結して、
「がんばろー!」という雰囲気は、
一同 (雰囲気は‥‥)
前川 ないんですよ。
糸井 ああ、やっぱり(笑)。
一同 (笑)
前川 なんて言うんでしょうね、
蝶に例えると、
こう、蛾だった人が、
ポカポカ陽気で出てきて
うれしそうに花にとまってるのかな?
一同 (笑)
前川 そこらへんに、すごい謎があります。
それが糸井さんの魅力なのかな?
‥‥いや、魅力なんですよ、
それはとても、
はっきりとしてないところで。

あのね、ぼくなんかでも、
人とつきあってると、
「損な人間」と「得な人間」って、
あるんですよ。
糸井 はい。
前川 どっちとも
つきあうことはつきあうんですけどね。
だけど、糸井さんといると、損得というよりも、
自分がちがう道へ引っ張られて行く、
自分の頭が活性化するなにかが降りてくる、
そういう感じがあるんですよ。
糸井さんによって、
なにかが目覚めるということなのかな?
糸井 ぼくは特に、前川さんに
なにかしてあげた覚えもなくて。
前川 でも、してもらった。
それは、ぼくの財産となる、
「雪列車」という歌です。
糸井 そう言っていただいて、
ありがとうございます。
前川 「匂うように 笑うように」
‥‥いまでも、わからないんですけども。
一同 (笑)

(糸井重里作詞 坂本龍一作曲「雪列車」。
 歌い出しは
 「匂うように 笑うように 雪が降る」です)
前川 だけども、不思議なもんで、
わからなくてもいいんだよなぁ。
糸井 はい。匂うように、笑うように、
雪が降るんですもんね。
前川 糸井さんはわかってるんですか。
糸井 まぁ、はい(笑)。
だけど、こういう歌詞をオレが渡して、
前川さんが歌ってくれたとしたら、
きっと自分じゃないものが出てくるだろうとは
思っていました。
前川 書かれた歌詞については、つい
自分でもわかったような気分には
なるんですよ。
糸井 「無邪気色の ひざかけを かけて眠る」
前川 ‥‥眠る。
糸井 ふふふ。
前川 「少しばかり 離れた席」の恋人たちがね。
‥‥わからないなぁ。
まぁ、ぼくの周辺では
おばちゃんたちが、
ひざかけをしたりしてます。
糸井 おねえさまがたが。
前川 もう、「無邪気色」じゃないんですけどね。
一同 (笑)
前川 それで、ちょっと困ったことがありまして。
ま、困ったということでもないんですけども、
萩本欽一さんといっしょに
一ヶ月公演をやったことがあったんです。
そのときに、
「きよしちゃん、ぼーっと歌っても
 しょうがないから、
 この歌は手振りつけてやんない?
 やっぱりほら、お客さんいるんだから」
なんて、欽ちゃんが言い出したんです。

「匂うように 笑うように」を
手振りでやる。
それがねぇ?
糸井 はぁ。
前川 結果的に、こうですよ。
(鼻をつまむジェスチャー)
「匂うように」
一同 (笑)
糸井 うん、うん。
前川 「あたたーかいーものーを
 なにかくださーいー」
一同 (笑)
糸井 すごい振りつけですね。
前川 わからないんですよ(笑)。
だけども、歌はちがいます。

歌詞がなにを言ってるのか
細かくわからなくても、
そこの世界に近づくことはできる。
なんというのかな、
言葉には、ほんとうは
説明っていらないんでしょうね。
糸井 ええ、そうなんでしょうねぇ。
前川 そういうさりげない、
糸井さんの詞が、
ぼくにとってはとても魅力です。
いまの詞というのは、説明しすぎです。
お客さまにサービスしすぎです。
糸井 なるほど。
前川 なんだか、歌ってても、
非常に覚えづらい。
‥‥まぁ、ぼくの物忘れが激しくなってる、
ということがあるんでしょうけど。
一同 (笑)
糸井 歌詞が似たようなものばかりだからでしょうか。
前川 うーん、やっぱり
説明をしすぎる、ということに
尽きるのでしょうか。

つまり、いまの歌って、なんだか
全部覚えないといけないんです。
うろ覚えで、雰囲気で歌えばいいんだ、
ということじゃなくて、
「こういうふうに歌わなきゃいけないんだ」
ということが決まっている感じというのかな。
どこまでもサービスが行き届いているんです。
適当に‥‥それでいいんですよね、ほんとうは。
糸井 そうですね。
いまは、手をひいて
ある地点まで連れて行く、
そのようなことばかりですね。

(つづきます)

2010-06-29-TUE