第14回 嘘のつき方に、「ほんとう」が現れる。
糸井 歌って、
どうしたって全部なんですよ。
歌い手もそうだし、
作る人だってそうです。
歌謡曲は特にね、
どう言ったらいいか──
歌謡曲は、嘘なんです。
前川 うん、そうですね。
糸井 「そして、神戸」の
靴を投げ落とすことも、
ほんとうの魂の叫びとしては
作ってないのかもしれない。
だけど、その嘘のつき方が
「その人」なんです。
前川 はぁ、そうだ、そうですね。
糸井 「匂うように 笑うように」も
嘘ですよ、雪は匂わないんですから。
でも、その嘘のつき方に、
「どう? いいでしょ?」
という、糸井重里のにやっとした笑いがあって、
その部分が「ほんとう」のことなんです。
前川 ああ、そうなんですよねぇ。
糸井 ですから、歌謡曲のほうが、逆に
かかわった「その人」が
出るような気がします。
前川 うん、なるほど。
糸井 サトウハチローさんが
おかあさんのことを歌うのも、歌謡曲です。
吉岡治さんは「天城越え」と言うけど、
山は燃えないです。
殺していいですか、という女もいないです。
前川 はいはい。
だけど、そこらへんが
おもしろいんですよねぇ。
糸井 そう、おもしろい。
歌手もお客も
一緒に作る嘘の世界の中に、
「ほんとう」が入っちゃうんですね。
前川 はい。よくわかります。
糸井 前川さんが、
歌を嫌いですと言いながら、
出ちゃうものがあります。
それについては、もう、
しょうがないですからね。
前川 自分の歌のことに関しては、
あんまり自信はないです。
糸井 じゃあ、他の人のことについて
おもしろいと感じるのは
どんなときですか?
前川 たとえば、
冠二郎さんとか、おもしろいです。
糸井 冠二郎さん。
前川 冠二郎さんがテレビに出ておられると、
ついつい見てしまうんです。
すごいですよ、
「アイ アイ アイ ライク エンカ
 アイ アイ アイ ライク エンカ」
もう一所懸命がんばって、
汗だくで、ソイヤー、ソイヤー言ってます。
オレ、絶対ああいうことできないですもん。
あとは、桑田佳祐くんです。
糸井 ああ、桑田さん。
前川 あの人のメロディーというのは、
予測つかないです。
糸井 うん、うん。
前川 歌謡曲って、
てーんててんてんてーん、
てれれれれれーん、って、
ある程度、先がわかるんですよ。

だけど、桑田くんの歌は
どこに行くのか、予測つかないです。
聴いててうれしくなるんです。
ゾクーっときますよね。
糸井 桑田さんの、
ご自分しか歌えない歌というのも、
けっこうありますよね。
そういうところもおもしろいんだよなぁ。
前川 あとは、長渕剛さんもいいですね。
自分にはできないことをなさってる方に、
どうしても注目して、見とれてしまいます。
そういったことをやれない自分が
わかるから。
糸井 でも、黙って立って歌う人がいるのも
いいんじゃないかなぁ、と思います。
前川 そうですね。
だから、糸井さん頼みじゃ
ないんですけど(笑)、
糸井さんがいま、考えておられるものが、
まぁ、それは
ぼくの歌える歌なのか、
わからないんですけども、
変えてもらいたいなぁという
願望はあります。
(つづきます)

2010-07-15-THU