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糸井 |
歌って、
どうしたって全部なんですよ。
歌い手もそうだし、
作る人だってそうです。
歌謡曲は特にね、
どう言ったらいいか──
歌謡曲は、嘘なんです。 |
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前川 |
うん、そうですね。 |
糸井 |
「そして、神戸」の
靴を投げ落とすことも、
ほんとうの魂の叫びとしては
作ってないのかもしれない。
だけど、その嘘のつき方が
「その人」なんです。 |
前川 |
はぁ、そうだ、そうですね。 |
糸井 |
「匂うように 笑うように」も
嘘ですよ、雪は匂わないんですから。
でも、その嘘のつき方に、
「どう? いいでしょ?」
という、糸井重里のにやっとした笑いがあって、
その部分が「ほんとう」のことなんです。 |
前川 |
ああ、そうなんですよねぇ。 |
糸井 |
ですから、歌謡曲のほうが、逆に
かかわった「その人」が
出るような気がします。 |
前川 |
うん、なるほど。 |
糸井 |
サトウハチローさんが
おかあさんのことを歌うのも、歌謡曲です。
吉岡治さんは「天城越え」と言うけど、
山は燃えないです。
殺していいですか、という女もいないです。 |
前川 |
はいはい。
だけど、そこらへんが
おもしろいんですよねぇ。 |
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糸井 |
そう、おもしろい。
歌手もお客も
一緒に作る嘘の世界の中に、
「ほんとう」が入っちゃうんですね。 |
前川 |
はい。よくわかります。 |
糸井 |
前川さんが、
歌を嫌いですと言いながら、
出ちゃうものがあります。
それについては、もう、
しょうがないですからね。 |
前川 |
自分の歌のことに関しては、
あんまり自信はないです。 |
糸井 |
じゃあ、他の人のことについて
おもしろいと感じるのは
どんなときですか? |
前川 |
たとえば、
冠二郎さんとか、おもしろいです。 |
糸井 |
冠二郎さん。 |
前川 |
冠二郎さんがテレビに出ておられると、
ついつい見てしまうんです。
すごいですよ、
「アイ アイ アイ ライク エンカ
アイ アイ アイ ライク エンカ」
もう一所懸命がんばって、
汗だくで、ソイヤー、ソイヤー言ってます。
オレ、絶対ああいうことできないですもん。
あとは、桑田佳祐くんです。 |
糸井 |
ああ、桑田さん。 |
前川 |
あの人のメロディーというのは、
予測つかないです。 |
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糸井 |
うん、うん。 |
前川 |
歌謡曲って、
てーんててんてんてーん、
てれれれれれーん、って、
ある程度、先がわかるんですよ。
だけど、桑田くんの歌は
どこに行くのか、予測つかないです。
聴いててうれしくなるんです。
ゾクーっときますよね。 |
糸井 |
桑田さんの、
ご自分しか歌えない歌というのも、
けっこうありますよね。
そういうところもおもしろいんだよなぁ。 |
前川 |
あとは、長渕剛さんもいいですね。
自分にはできないことをなさってる方に、
どうしても注目して、見とれてしまいます。
そういったことをやれない自分が
わかるから。 |
糸井 |
でも、黙って立って歌う人がいるのも
いいんじゃないかなぁ、と思います。 |
前川 |
そうですね。
だから、糸井さん頼みじゃ
ないんですけど(笑)、
糸井さんがいま、考えておられるものが、
まぁ、それは
ぼくの歌える歌なのか、
わからないんですけども、
変えてもらいたいなぁという
願望はあります。 |
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(つづきます) |