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――ガチャ。
伊藤修子選手との凄絶な戦いが、終わった。
予想外の初戦敗退という事実に呆然とし、
洞(うろ)のような目で
つけっ放しのモニターを見つめる我らのもとへ
満身創痍の「和田選手」が、帰ってきた。
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江口 |
‥‥おつかれ、ラヂヲ。 |
ラヂヲ |
もうしわけない。 |
── |
先生‥‥。 |
ラヂヲ |
みなさんも、おつかれさんです。 |
江口 |
ナイス・ファイト。 |
── |
ナイス・ファイト! |
(しばし鳴り止まぬ拍手) |
江口 |
‥‥調整ミスや。 |
── |
というと‥‥? |
ラヂヲ |
昨晩寝違えたんが、案外響いたわ。 |
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江口 |
首‥‥か。 |
── |
数ある調整ミスのなかでも珍しい、
「就寝ミス」‥‥。 |
ラヂヲ |
ま、言いわけにすぎないけどな。 |
── |
はっ!
ま、まさか、ホテルのベッドが
テンピュールじゃなかったせいで…!? |
※ラヂヲ先生は、三越で買ったテンピュールベッドを
日ごろより愛用している。
その愛用っぷりは
わざわざ公式プロフィールに掲載しているほどだ。
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ラヂヲ |
たしかにテンピュールではなかったけど、
それは、言いわけにすぎない。
伊藤選手が強くて、ちから及ばず敗れた。
ただ、それだけのことです。 |
江口 |
1問目から、かなり考え込んでた。 |
ラヂヲ |
いちど、言葉が出てこなくなって。 |
── |
緊張で? |
ラヂヲ |
いや、そうじゃない。 |
── |
第一問のお題って
「月に着陸した人が、
いちばん驚いたこととは?」
でしたよね、たしか。 |
ラヂヲ |
そう、真っ先に思い浮かんだのが、
「コンビニが濫立(らんりつ)」という答え。 |
── |
月面に「コンビニが濫立」‥‥。 |
江口 |
‥‥おもしろいじゃない。
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ラヂヲ |
ローソンだとかファミリーマートだとか
コンビニの絵まで描いたんだけど、
濫立という言葉が、
出てこなくて。
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── |
そ、それで固まってたんですか! |
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「濫立」という言葉を必死に思い出そうとするラヂヲ先生。
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江口 |
「コンビニがいっぱい」じゃ、
ダメだったのか!? |
ラヂヲ |
いま思えば、そうやね。
ははは‥‥(力なく笑う)。 |
── |
ホラ、でも最後、
伊藤選手と回答の応酬になって
「続行」が続いたとき、
もうハラハラして、
すっごくスリリングでしたよ!
ねぇ、みなさん!?
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江口 |
ほんと、手に汗にぎるって、
ああいう感じで‥‥。 |
ラヂヲ |
ステージの上で手に汗をにぎったら
どうなるか、
知ってますか、みなさん。 |
── |
‥‥いえ、知りません。
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ラヂヲ |
マッキーのフタが
取れなくなるんですよ。
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── |
こ、こわい‥‥! |
ラヂヲ |
汗ですべって。 |
江口 |
ラヂヲ‥‥。 |
ラヂヲ |
それで、いっそう気があせるんです。
はは、はははははは‥‥。 |
江口 |
いや、わかる。わかるよ。
オレがラヂヲの「あせり」を感じたのは、
最後のほうの答えで
おっさんが窓から顔を出してるやつ‥‥。 |
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ラヂヲ |
ああ‥‥。 |
江口 |
顔が窓ワクの線に重なってた。 |
ラヂヲ |
さすがは江口さん、ぜんぶお見通しだ。
はは、ははははは‥‥。
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そのころ、メイン会場では
ラヂヲ先生を打ち破った伊藤修子選手が
準決勝でロバートの秋山竜次選手を撃破、
決勝にコマを進めていた。
思わぬ敗戦に気が動転していたわれわれも
徐々に落ち着きを取り戻しはじめていた。
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ラヂヲ |
ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥
このせんべい、うまいやん。 |
── |
亀田(製菓)なんで。 |
江口 |
米がいいんだよね。新潟だから。 |
ラヂヲ |
‥‥伊藤さん、優勝すんちゃうかな。
ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥。 |
── |
決勝はオードリーの若林選手とですけど、
この勢いが続けば‥‥あるいは。 |
ラヂヲ |
ねぇ。ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥。 |
江口 |
うん。おまえ、せんべい食いすぎてない? |
ラヂヲ |
で、なんで陰毛が落ちてんの、ここに。 |
(一同、ラヂヲ先生の指さす方向に目をやる) |
江口 |
‥‥それ、陰毛か? |
── |
ちょっと微妙っぽくないスか? |
ラヂヲ |
陰毛でしょう、これ。 |
── |
陰毛にしちゃ細くないですかね。 |
江口 |
ま、細いのもあるけど‥‥。 |
ラヂヲ |
いちばん近いの、江口さんですよ。 |
江口 |
オレかぁ‥‥。オレじゃないよ! |
── |
「近い」とかじゃないと思うんですけど。 |
ラヂヲ |
細いから、若者のじゃないな。 |
江口 |
細いんならオレのじゃない。 |
ラヂヲ |
いま細いのもあるって
言ったじゃないですか。 |
江口 |
いやいや、一般論でね。 |
ラヂヲ |
ノアの選手の‥‥。 |
江口 |
プロレスラーのはもっと太いでしょう。
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司会 |
「うらめしやに飽きた
幽霊が編み出した、
恐ろしいセリフとは?
うらめしやに飽きた
幽霊が編み出した、
恐ろしいセリフとは?」
お考えください、どうぞ。
カァーーーーン‥‥。
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── |
あ、決勝戦、はじまってましたね。 |
ラヂヲ |
ほんまや。 |
司会 |
伊藤選手、まいります。
「うらめしやに飽きた幽霊が編み出した、
恐ろしいセリフとは?」
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伊藤 |
「認知してやー」
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ジャッジ |
白虎、マイナス。 |
実況 |
若林選手、マイナス1ポイントです。 |
── |
伊藤選手、もしかするとホントに‥‥。 |
ラヂヲ |
いくかも知れんよ、これ。 |
司会 |
つづきまして若林選手、まいります。
「うらめしやに飽きた幽霊が編み出した、
恐ろしいセリフとは?」
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若林 |
「ダルメシヤーン」
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江口 |
わはははは、ダジャレかい。 |
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決勝戦は、最終的に「1ー1」までもつれこんだ。
お題 「次回作の映画版『ドラえもん』で
のび太が見せるかっこいい姿とは?」
回答 「眼鏡を舞台に置いて
ドラえもん卒業宣言」(伊藤選手)
お題 「たらこ唇に大根足みたいな
体のパーツの悪口を考えてください」
回答 「ヘリポート乳首」
「パーティグッズ顔」(ともに若林選手)
など、随所にファインプレーの飛び出した熱戦は、
オードリー若林正恭選手が、辛くも勝利。
「誰がいちばんおもろいか」の戦いにおいて
お笑い芸人のプライドを、守り通したのであった。
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司会 |
‥‥若林正恭選手、優勝です! |
会場 |
ワァァァァァ‥‥。 |
江口 |
‥‥終わったな。
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── |
‥‥終わりましたね。 |
ラヂヲ |
終わった‥‥。みなさん、
今日はありがとうございました。 |
(パラパラと拍手) |
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司会 |
それでは、表彰式をはじめます。 |
江口 |
‥‥あれ? ラヂヲこれ出なくていいの? |
── |
みなさんステージに集合してますよ。
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ラヂヲ |
え? うわっ! ほんまや!
(猛ダッシュでステージへ向かう) |
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── |
‥‥。 |
江口 |
司会が一人づつ感想を聞きはじめたぞ。 |
── |
間に合いますかね。
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江口 |
けっこう距離あるもんね、ここから。
‥‥あ、いた。 |
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こっそり列に並んだラヂヲ先生。
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── |
あはははは、そ知らぬ顔してる! |
江口 |
危うく「出場してない」ことに
なるところだったな。 |
── |
‥‥でも本当に残念でしたね、今日は。
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江口 |
まぁ、大阪へ向けての
ウォーミングアップだと思えばさ。 |
── |
‥‥大阪? |
江口 |
うん、7月の大阪。 |
── |
‥‥7月の大阪? |
江口 |
うん。‥‥あれ、聞いてない?
マンガ家のおおひなたごうが主催している
「ギャグ漫画家大喜利バトル」が
7月くらいに、大阪で開催されるんだけど
それに出るんだよ、あいつ。 |
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── |
ラヂヲ先生が? ホントですか!? |
江口 |
うん。 |
── |
なんでそんな大喜利バトルばっかり‥‥。 |
江口 |
ねぇ。 |
── |
本業は大丈夫なんですか!? |
江口 |
いや、それはオレに聞かれても。 |
── |
先日「締切りが遠くで笑っている」と
ナゾかけのようにつぶやいていたのは、
このことだったのか‥‥。 |
江口 |
まぁまぁ、また取材に行ったら?
次は漫画家だけの大喜利大会だから、
ダイナマイト関西とは別モノだと思うし。 |
── |
そうですね、ぜひ、そうします。 |
江口 |
‥‥ラヂヲの手の内も、
なんとなく見えたしな。 |
── |
え? |
江口 |
いやいや、こっちの話。 |
── |
ラヂヲ先生の手の内がどうとか‥‥。 |
江口 |
いやぁ、オレも出るからさ。 |
── |
はい? |
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|
<つづく>
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2010-10-19-TUE
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