ウェブマンガ座談会 with 南伸坊さん 僕たち、私たち、デビューはインターネット!
2015年に大好評だった企画
「マンガ家座談会」の第2弾です! 
糸井重里が注目するマンガ家3名をお呼びして、
ご自身の作品のことはもちろん、
いまのウェブマンガに秘められた可能性などを、
たっぷりとおしゃべりしていただきました。
今回はスペシャルゲストとして、
マンガ雑誌「ガロ」の元編集長・南伸坊さんにも
お越しいただきました。
マンガを中心にすえた座談会でしたが、
クリエイティブ全般に共通する話が満載ですよ。
毎日すこしずつ、のんびりおたのしみください。
第7回:乙の価値、乙のやさしさ
カメントツ
マンガのことじゃないんですが、
前から糸井さんに会ったら
聞いてみたかったことがあって‥‥。
糸井
どうぞ。
カメントツ
糸井さんって、
新しい商品を出すときも、
ライフスタイルの提案をするときも、
たぶんなにをやっても
「さすが糸井さんだなぁ」って、
思われてるような気がするんです。



だから、ほぼ日の読者が
絶対に買わなさそうなもの‥‥。
たとえば「バトルアックス」とか。
糸井
‥‥バトルアックス?
カメントツ
ドラクエとかに出てきそうな
戦闘用の斧なんですけど、
もしほぼ日で糸井さんが
「バトルアックス、いいよね」といったら、
「糸井さんがいうなら、
ちょっと買ってみようかな‥‥」って人、
けっこういるような気がするんです。



そういう自分が「いいな」と思うものを、
すべて許容してくれる世界があるって、
どんな気持ちなんだろうって。
なんかすごくヘンな質問なんですが‥‥。
糸井
もしそういう世界があったとしても、
ぼくからは見えないんでしょうね、やっぱり。
カメントツ
そうなんですか?
糸井
その世界はぼくからは見えない。
ぼくに見えている世界は、
なんでも許容してくれない、
ぼくのいうことを聞いてくれない
カミさんのいる世界です(笑)。
南
ははははは。
糸井
ぼくが住んでいるのはそっちの世界。
いつもは「受け入れられない人」なんです。
そこを勘違いすると、
やっぱりヘンな感じになっちゃいますよね。
カメントツ
んー、そうなんですね‥‥。
糸井
でも、勘違いしてる人は
けっこういっぱいいると思いますよ。
ぼくは人の好みが、
けっこうはっきりしていて、
「また会うかも」と思うのは
「自分の狭さを信じてる人」なんです。
カメントツ
自分の狭さ、ですか?
糸井
この前、すごく大きな会社の
名物社長にお会いしたんです。
業界ではかなり強面で有名な人なんだけど、
ときどき漏れてくるウワサを聞いて、
「なんかいいなぁ」と思ってた人で。
で、はじめてお会いしたら、
案の定、やっぱりおもしろかった。
カメントツ
へぇーー。
糸井
年もぼくと近いから、
雑談まじりにいろんな話をして。
子どものときに馬糞をふんだ話や、
トラックの荷台につかまって
隣町まで行った話とか。
「隣町に行ったのはいいけど、
帰り道が大変だったなー」とかさ(笑)。
カメントツ
あぁ、なんかいいですね。
糸井
友だち同士みたいな会話なんだけど、
ふいにその社長さんに
「なんでそんなことしたんでしょうね」って
聞いてみたんです。



そうしたら、
ちょっとだけ間があって、
その社長さんがポツリと
「‥‥寂しかったんでしょうなぁ」
ってつぶやいたんです。
カメントツ
あぁ‥‥。
糸井
そのひと言を聞いただけで
「またこの人に会いたい」と思っちゃう。
ぼくはそういう人が好きなんでしょうね。
南
じつはいろんなところに、
そういう人はいるんだよね。
糸井
そう、ほんとはいるんですよね。
ふっかふかの絨毯の廊下の先の、
2回くらいカギを開けて入る社長室の奥に
「寂しかったんでしょうなぁ」と、
つぶやく人がいる。
それが人間のおもしろさだと思うんです。
南
うん、うん。
糸井
普段は全然ちがうことを考えていても、
どこか隣近所にいるような感覚があって‥‥。
それはなんなんだろうな。
こういう情感を昔の人は
「もののあはれ」っていったのかもね。
ながしま
もののあはれ‥‥。
カメントツ
ぼくも最近になって、
そういう日本的な美意識を、
すこしだけわかるようになった気がします。
とはいっても、
きっかけは『へうげもの』っていう
歴史マンガなんですが(笑)。
糸井
やっぱりマンガはいいね(笑)。
カメントツ
そのマンガを読んでからですが、
「乙なもの」「乙な人」という感覚が、
すこしだけわかるようになりました。
ちょっとそういう感覚とも、
近いのかなって聞いていて思いました。
ながしま
その「乙」というのは、
「あの人は乙だね」とかで使われる?
カメントツ
そうです、甲乙の「乙」ですね。
これも『へうげもの』の
受け売りになっちゃいますが、
いいものは「甲」で、
ちょっとひび割れた茶碗とか、
ピカピカじゃない茶室とかを
「乙」というそうなんです。
ながしま
あぁ、なるほど。
カメントツ
「乙なもの」を愛でる文化が、
日本の古くからあったことを知って、
キャラクターとか、
かわいいものの原点って、
「乙」にあるような気がしてるんです。
ながしま
へぇー、おもしろい。
南
今日の話でいえば、
「ヘタウマ」っていうのも、
そういうことだもんね。
カメントツ
あ、そうか。乙ですね。
糸井
「ヘタウマ」というのは、
じつは「ウマ」であって、
それには価値があるんだよって、
自分で認定したわけですよね。
カメントツ
そうです、そうです。
糸井
だから乙なものには、
「乙という価値なんだよ」と
いいきる自信のようなものと、
「乙ならではのやさしさ」
みたいなものが同時にあるんですよね。
(つづきます)
2018-05-01-TUE