第4回
酔って法隆寺を見たら……
酔って法隆寺を見たら……
小川 |
昔、ちょうど、 俺が東大寺にいて仕事をしてた時、 上から見たら、金髪のすごい子が来てた。 「ああ、元気なやつ来たな」ってなわけや。 両脇に、先生が2人、立っているんですよ。 修学旅行でも大変なんですよな。 でも、その子がこう伽藍に来た時に、 他にもたくさん来ていたけど、 その子だけだったよね、柱を抱いたのは。 あとの子は、素通りですから。 |
糸井 |
なるほどな。 他の子は「あ、なるほど、エンタシスだ」とか。 |
小川 |
うん。 でも、抱きついた子は、 もっとよくわかってるはずだ。 |
糸井 |
小川さんには、その子に近いものを感じますね。 |
小川 |
自分もそうだったような気がする。 |
糸井 |
小川さんが、五重塔を見た時に 「これだ!」と思ったのは、 言葉にして言えるような感覚ですか? |
小川 |
それは言えますよ。 |
糸井 |
どんな感覚ですか? |
小川 |
修学旅行で法隆寺へ行ったときは、 酔っ払っててダメだったんです。フラフラしてた。 ……要するに、暇だから酒なんか飲んでたんですよ。 |
糸井 |
(笑) |
小川 |
ほんで、酒でボーッとしてたら、その時、 「1,300年前にこの塔ができたんですよ」 と案内してくれる方が言った。 そのときパッと思ったね。 「そんだったら、この大きな材料は、 どうやって運んできたんだ? どうやって持ってきたんだろう? 1,300年前、どういうものがあったんだろう?」 そんなことを、思いましたよ。 |
糸井 |
酔っ払ってた高校生が一瞬にして……。 |
小川 |
そうですよな。 何にもねえから、頭の中に。 だからそう思った。 |
糸井 |
その時に一番つかまえたのは、 1,300年というイメージですか? |
小川 |
そうですよ。 自分は栃木県ですから、 1,300年というイメージはないですよ。 そういう時代というのは、わかりませんわな。 何ぼ古くたって、500年前くらいしかないですわ。 |
糸井 |
ぼくはいくつか化石を持っているんですよ。 それ、たまに見ますけど…… それだけで、気が遠くなります。 三葉虫だと2億年ですからね。 「2億年」ということを イメージできないということに感動する。 きのうのこともイメージできる、 10年前のこともこのくらいって思える。 それからまあ、100年といっても、 おばあちゃんが生まれたとか、 目盛りがあるんですよね。 ところが……2億になると目盛りがない。 だから、2億年前も1億5,000万年前も、 ぼくにとっては同じなんだなぁ、 というふうにしかとらえられないので、 その「とらえられない」ということが とても気持ちが悪いんですね。 だけど、その気持ちの悪さがいいんですよ。 だから、たまに見るんですよ。 何でしょうね、あの時間の恐ろしさって。 |
小川 |
そしたら、1,000年前はどうですか? |
糸井 |
1,000年前もとらえられないですね。 だけど、年表に書いてある目盛りがありますよね。 |
小川 |
はいはい。 |
糸井 |
あれで、はかっちゃうんですよ。 でも、違うってわかるんですよ。 1,000年はイメージできるはずない。 京都1,000年の歴史とかいうけど、 イメージできるはずなんだけど、 いつでもあの年表は、それこそもう、 エジプト文明から書いてあったりする。 紀元前4,000年ぐらいだと、なるほどなあ、でも、 「B.C.、のむこう側の4,000年の方が 今より長いんだなあ」とか漠然と思うだけです。 その「向こう側がある」ということが、 気持ちが悪くて気持ちがいいんですよね。 だから、時間って、酔いみたいなものがあるなぁと いつも思うんですよね。 |
小川 |
自分、こういう仕事をしてますから、 1,000年というのは……イメージできます。 仕事をする前でも、 1,000年前、この塔をつくった人は どういう考えでやったとか、 どういうふうにして運んできたかの気持ちなら、 高校生でも、それは何となくわかるんですよね。 だから俺は、 こういうものをつくった人の血と汗を学んだ方が 大学なんかへ行くよりも ずうっといいと思ったんですよ。 法隆寺の五重塔は、 「つくろうと思う信念」というか、 そういう気持ちで、つくり上げたものだと思うんです。 その「気持ち」を学べばいい。 だから、法隆寺の大工さんを、 ちょっと目指してみようとして行ったわけですよ。 |
糸井 |
酔っ払いの高校生に、 一瞬にして伝わっちゃったんですねえ。 |
小川 |
酔っ払ってたからよかったんでしょうな。 ヘヘヘヘヘヘ。 |
糸井 |
すごい運命だなぁ。 修学旅行で、たまたま酔っ払ってて……。 もともと夢があったとかって いうんじゃないですよね。 宮大工という職業を知らなかったでしょうし。 |
小川 |
ないですよ。全然わかりませんもん。 |
糸井 |
つかまえられちゃったんですね、向こうに。 |
小川 |
その時は、やっぱし、 「これをやってみよう、つくってみよう」 というだけですよね。 |
糸井 |
それが、スタートだったんですねぇ。 |
2015-01-02-FRI
タイトル
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
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