第3回
入りこめることが才能
入りこめることが才能
糸井 |
今、お話を聞いていると、 西岡棟梁と小川さんが一緒に過ごしているような その生活って、他にたとえようがないですねぇ。 すごくおもしろいです。 たとえば、農家の方も、 鶏が鳴く前に起きるとか、 いろんなことをおっしゃいますよね。 農家にしても、そこでは生活と仕事が 一体になっているわけですが、それでも 娯楽をするだとかいう時間は、ありますよ。 でも、小川さんのお話っていうのは、 「ほとんどすべてが仕事」ですよね。 |
小川 |
それでずうっと生活してきたわけだから、 それしかないですよね。 |
糸井 |
しかも、楽しそうですよ。 |
小川 |
うん、楽しい。 |
糸井 |
楽しくなさそうだったら、 「そりゃ、おかわいそうに」 と言える生活なんだけど、楽しそうですよね。 |
小川 |
そりゃ、そうでしょう。 自分たちの仕事は、例えば大きなお金を預かって、 自分の思うようなものをつくらしてもらって、 で、最後に感謝状までもらうんですよね。 |
糸井 |
まぁ、確かに そう言うなら、そうでしょう……。 |
小川 |
いや、ほんとに こんないい仕事ないでしょう。 自分でお金を払って作らしてもらって できるんだったら、それは普通ですよ。 しかし、向こうからお金を預けてくれて、 そんで、その仕事をさせてもらって、 自分の思うようなものを作らしてもらって、 最後にはみんなが、 「ありがとう、ありがとう」 と言ってくれるんですからね。 それでごはんを食べていられるわけです。 そうでしょ? |
糸井 |
そのとおりですよ。 いや、でも生活のすごさには、 「そのとおり」とここで言う以上の 何かを感じますよね。 だって、小川さんだって、 たぶん徒弟制度の中に入る前には 普通の子供だったわけでしょ?寝相の悪い。 |
小川 |
そりゃそうですよ。 |
糸井 |
そこは変わっていく、 という実感はあったんですか。 ひそかに涙を流した時とかも。 |
小川 |
そりゃ、多少はありますよ。 やっぱり苦しいというか、 そういう時は多少はあります。 しかし、修行するのに苦しいとか、 そういうふうに思う人がいますよね。 それは、その雰囲気の中に 入りこんでないから苦しいんですよ。 入りこんでしまえば、全然何でもないですよ。 だから、入りこめない子はかわいそうですよね。 |
糸井 |
入りこめるかこめないかという、 それはある種才能かもしれないなぁ。 |
小川 |
ですから、いろんな能力のある子は、 なかなか入りこめないです。 「仕事にどっぷり首まで浸れ」 と言うても、これは浸れる子と浸れない子がいる。 |
糸井 |
ええ。 |
小川 |
それはどこに違いがあるかというと、 むだな能力を持ってる子は浸れないですよ。 ここまで入るまでに いろんなことを考えてしまって、ほかを見ますよ。 苦しくなったら、ほかを見ますよ。 でも、能力のない子は、苦しくても、 ひとつの仕事しか見られないんです。 それが、楽しいことなんですよ。 |
糸井 |
おぉぉ。 じゃあ、小川さんは、弟子を取る時に、 今のお話だと能力のない子を取るんですか? |
小川 |
うん、そうでしょうな。 自分は高校のとき、55人中55番ですからね。 |
糸井 |
見事ですね。 |
小川 |
見事ですよ。 339人中330番、あと9人いると思ったんですよ。 でも、まぁ、2日に分けての実力テストですから、 その時は9人ぐらい休んだんでしょうな。 ハハハハハハ。そんなもんですよ。 |
糸井 |
すばらしいですね。 |
小川 |
それぐらいだといいんですよね、やっぱり。 脇目をする必要がなくなるからな。 |
糸井 |
いいなぁ。(笑) その学校の勉強の中には、 溶けこめなかったわけですか? |
小川 |
そうでしょうな。溶けこめば、 苦しくなく勉強できたんでしょうけど…… 苦しかったんですよ、それには。 教科書は先輩からもらうんですけど、 きょう一日終わったら、これ、破って捨てる。 重いですから。 1枚1枚減っていって、そうすると、 試験のときになるとないんですよ、教科書が。 |
糸井 |
成績は、そこまで悪かったんですか? |
小川 |
悪かったでしょうなあ。 |
糸井 |
でも、運動は得意とか? |
小川 |
いや。 運動もそれほどでもないですねえ。 ま、適当にはやりますけど。 |
糸井 |
それも楽しくはなかったんですか。 |
小川 |
それもそれほど楽しくはなかった、やってても。 |
糸井 |
もう、運命としかいいようがないですね。 |
小川 |
そうでしょうな。 今の仕事が一番おもしろいんですからね。 |
糸井 |
そういう子どもが五重塔を見たら……。 |
小川 |
今思えばですけど、法隆寺を見る時も、 余計な知識がなかったのがよかったんです。 たとえば今も修学旅行生、たくさん来てますよ。 でもみんな、この仏さんは ちょっと腰が曲がってるのが特徴とか、 指先がきれいだとか、 伽藍に立てば、こちらはエンタシスがあるのが 特徴だとか、学校の先生が教えてくるでしょう。 |
糸井 |
「勉強」ですね。 |
小川 |
そうなると、見方は同じですよ。 50人いれば、50人の見方、みんな一緒。 しかしその中に、やっぱしこの柱が 1,300年、塔を支えているんだなぁ、と。 それを感じとるぐらいの子がいたっていいでしょ? 知識にとらわれていない子は、 やっぱし、そこをわかるんですよ。 |
糸井 |
「さわってみる」という感覚かぁ。 |
2015-01-02-FRI
タイトル
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
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