第2回
ちょっと、緊張して寝てくれ
ちょっと、緊張して寝てくれ
糸井 |
小川さんが出演された、NHKの 「課外授業ようこそ先輩」の中で、 弟子入りしたいという子どもが来たじゃないですか。 あの時に、小川さんが、 「とっても楽しい仕事だけれども、 家族との関係は、むずかしいですよ」 と、それだけおっしゃっていたのが、 すごく印象に残っていて。 |
小川 |
あぁ。 |
糸井 |
「そうだろうなぁ」とは思ったんですけど、 小川さんご自身のご家族との関係みたいなのは、 むずかしいなりに何とかなっているわけですよね? |
小川 |
そら、むずかしいでしょうなあ(笑)。 もちろん、自分は楽しいですよ、毎日毎日が。 正月でもいないぐらいですから。 でも、そうすると、 子供は何もかもわかりませんよな。 家内も、ちょっといろんな点で不満はあるでしょうな。 いや……「すごくある」んじゃないですかね。 |
糸井 |
(笑) |
小川 |
それがわかってきたのは最近でしょうなぁ。 30年ぐらい一緒にやってきて、 やっと「こういうもんだなぁ」という……。 |
糸井 |
それまで、気づきもしなかった!(笑) |
小川 |
気づきもしないですよ。 |
糸井 |
それ、おもしろいなぁ。 |
小川 |
はじめの頃は、嫁さんをつかまえて、要するに 「おまえも弟子とおんなしように 教育してやればよかったな」 みたいなことを言っていたもの。 そしたら、「わたしは弟子じゃない!」と怒ったよな。 ハハハハハ。 |
糸井 |
(笑)小川さんにとっては、 それは親切だったんですよね? |
小川 |
そうだよ。 仕事は、おもしろいことであり、 日常生活のことであり……と思ってた。 |
糸井 |
奥さんが 「わたしは弟子じゃない!」 って言ったのも、おかしいですね。 |
小川 |
今から思えば、そら、そうでしょうな。 嫁さんで来てるんですからね。 |
糸井 |
だいたい、小川さん、 なんでお嫁さんをもらったんですか? |
小川 |
それは、やっぱし、 面倒くさかったんですよね、生活するのが。 |
糸井 |
(笑)あはははは! |
小川 |
それで、嫁さんでももらおうかなぁ、 という気になるわけですわな。 |
糸井 |
つまり、宮大工の仕事にかかわらない 生活が、ぜんぶ面倒くさかったわけですね。 |
小川 |
そうでしょうな。日常生活としては、 ずうっと仕事をしていた方がいいのに、 やっぱし飯つくりをしなくちゃならないとか、あるから。 |
糸井 |
(笑)すごい理由だ。 |
小川 |
はじめ、嫁さんが来て、 嫁さんの寝相がちょっと悪いんですよ。 悪いといったって、普通の人でしょうけど。 西岡棟梁や俺は、ものすごく訓練しているから、 いつも、ピクリとも動かんで、寝ているわな。 それに比べたら、よく動くように見えたんだ。 だから、嫁さんに、 「ちょっと悪いけども、緊張して寝てくれ」 と言うて……そしたら、 「わたしは緊張しては寝られん!」と。 |
糸井 |
(笑)小川さんのそのセリフ! 「ちょっと緊張してくれ」って……。 理不尽な。 |
小川 |
悪いこと言ったよなぁ。 自分はそれまで西岡棟梁のところにいて 弟子入りをしているわけですよ。 そんで、棟梁の寝てる2階で、自分が寝てた。 棟梁はものすごい偉い人ですから、 それこそ物音一つ立てずに生活するわけですよ。 布団でもちゃんと下に置いて、 それを音をたてずに、静かにスーッと伸ばして、 そこに潜り込んで朝まで待つという寝方ですよ。 俺もそういう寝方を学んだわけだから、 いまだかつて目覚まし時計で目が覚めるとか、 そういうことはないですね。 何時といったら、すぐ起きる癖がありますので。 徒弟というのは、そういうふうなもんなんですよ。 棟梁とおんなし生活になっちゃうんですね。 だから、それはたしかに、 ふつうは緊張して寝られないわな。 緊張して寝たことがない人は。 |
糸井 |
(笑)普通は緊張したことないですよ。 |
小川 |
ハハハハハ。 ですから、一度でいいから 目覚まし時計で起こされて起きてみたい、 と思うときありますよ。しかし、だめですよ。 |
糸井 |
起きてしまう? |
小川 |
うん。 目覚まし時計が鳴る寸前に起きますから。 目覚まし時計がかわいそうですよ、 役に立たなくて。ヘヘヘヘヘ。 |
糸井 |
こんなに珍しい人だとは、 思いも寄らなかったですよ。 |
小川 |
そんな生活が普通なんです。 自分たちは、そういう毎日の中で、 仕事をしていくんですよ。 |
糸井 |
なるほどなぁ。 |
2015-01-02-FRI
タイトル
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
一生を、木と過ごす。
対談者名 小川三夫、糸井重里
対談収録日 2002年9月
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