第3回
ちいさな自由
重松
タバコの「間」って、
大事だったりするんですよ。
糸井
作家は、そうかもしれないですね。
橋本治くんなんか、
「タバコなしで、もの書きはありえない」
っていう勝手なドグマを作り出してた(笑)。

実際、ぼくも、タバコがあったときの
リズムっていうのは、
「ああいうのは、よかったんだろうなぁ」
ということを、いくつか、思いつきますよ。
重松
ぼくは、左手にタバコを
はさんでいるっていう前提で
体のバランスを取っているんで……。
たまに、何も持たないでパソコンに向かうと、
左側が、傾いちゃう(笑)。

それに、タバコなしだと、
なんかマジメに仕事をしてるような気がして。

「仕事感」があるんですよ。
「労働感」が出てきちゃう。

でも、タバコを持って、こうやると……
趣味の延長、みたいな。
そういう気持ちって、あるじゃないですか。

工場労働者って、
みんな、タバコを吸えないじゃない? 
だけどやっぱり、
大工さんなんかは、くわえタバコですよね。
そんな違いかもしれない。
糸井
ちょっと昔の映画をビデオで見ると、
みんな、すごい勢いでタバコを吸ってるよね。
たしかに、タバコって、
「自分にとっての、ちいさな自由」なんだと思う。
ちいさな自由を、自分で
ハンドリングできるというところに、
「生きかたの自由」が表現されるんですよね。
重松
そうなんですよ。
さっき、
「インタビューを受けているときでも、
 タバコがないと熱弁になる」
と言ったのは、
ほんとに、そういうことなんです。

ぼくがタバコを箱から出して、
くわえて、火を点けて、
最初の煙を吐き出すまでは、
相手は待ってくれますよね。

そうすると、かりそめでも、
その時間をコントロールできるっていうか。

でも、タバコがないと、質問されたら、
さあ言わなきゃ! すぐ言わなきゃ!
糸井
わかる、わかる。
重松
その場の「間」に、負けちゃうんですね。
糸井
タバコに変わるヘンなことを
発明すればいいのかもしれない。
ぼく、今はガム習慣になっているんですよ。

ガムを食ってるヤツって、
自分でもイヤだと思っていたんです。
態度、悪いですよね。

でも、今のぼくは、どうも、
ガムでタバコの代償にしてるんです。
重松
なるほど。
タバコの灰がポロッと落ちるのは、
かっこいいですよね。
ただ、ガムを噛みながらパソコンを打って
夢中になると、
よだれがたれちゃうんですよ(笑)。
牛みたいになっちゃって。
糸井
重松さんも、タバコに関しては、
いろいろ、苦労があるでしょうねぇ。
重松
けっこう、考えているんですよ。
タバコって、パソコンには絶対悪いから、
と思って試すんですけど。

ヘッドフォンをつけてガムを噛んでると、
こめかみの動きで
ヘッドフォンが動いてきちゃったり、
タバコよりもめんどくさいんです。
糸井
タバコをやめといて言うのもなんだけど、
どこまで行っても、
「吸っていたほうがよかったじゃないか」
という気持ちをひっくりかえすぐらいの
何かっていうのは、
今はまだ、出てきていないですよね。

「最初から吸っていなければ、
 こういう問題はなかったよな」
とは思うときがあるんです。
「吸っていなかった場合の
 『間』って、なんだろう?」とか。

最近は、吸わないまま来たけど、
けっこう自由に生きている人、
いっぱいいるんですよね。
重松
ぼくの場合は、
「大人の男は、タバコを吸わなきゃいけない」
という刷りこみとかが割とあって、
「タバコも吸わないなんて、軟弱だ!」とか。
糸井
うん。
それに、タバコって、
昔の「小銭で手に入る遊び」なんですよね。
今はやっぱり、世の中が豊かになったんですよ。
タバコなんか吸わなくても、
小銭の使い道がいろいろある。
重松
いろいろ、ありますからねぇ。
糸井
でも、ガムも困りもんですよ。
ガムはガムで、たとえば、包む紙が要る。
ポケットに、いつもこう一枚あるというか。
重松
思い出した。
一晩中仕事をして、ボトルに入ってる
ガムみたいなものをカラにしちゃったら……
ゴミ箱がティッシュだらけになっちゃって。

なんか、その風景が、すごい卑猥なんですよ。
高校生の部屋みたいになっちゃって(笑)。
ガムって、けっこう、いやらしいんです。
糸井
(笑)
2015-01-05-MON
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