第4回
孤独のともだち
重松
タバコを吸うことって、
ささやかな挫折感とも、
関係があるかもしれない。

糸井さんの世代なんかには、
まだ、いっぱい、
若い頃の挫折って、ありましたよね。
でも、一九六三年生まれの
ぼくの世代には、そういうのはない。

だから、禁煙に失敗することが、
ささやかな自己批判のきっかけで……。
糸井
それも、ありうるなぁ。
重松
がんばって、禁煙車を取ってみる。
でも、半分以上
デッキにいて吸ってたりして(笑)。
糸井
そういうことをはじめたっていうことは、
何か、吸うことについて、
重松さんのなかでも、
揺れてはいるんでしょうね。
重松
そろそろ、揺れてきているんですよ。
糸井
ぼく、そんなふうに禁煙を試している時代、
そんなに昔じゃないですよ。
そこから禁煙まで、イッキだった。

でも、年をまたいで、
今、また、吸いたくなったんですよ。

いつだったか覚えてないけど、とにかく
「禁煙っていうことを、去年は、やったなぁ」
って思うときがあったんです。
重松
「いやぁ、よくがんばった、さぁがんばるぞ」
って吸うタイミング?
糸井
そう。
つい昨日かおとといも、
また、吸ってる夢を見ましたね。
「うわぁ、とりかえしがつかねぇな!」
と思いながらも、いや、大丈夫だ、とか、
自分なりにキリッと
立てなおしたりしてもいるんです、夢の中で。
重松
なるほどなぁ。
家で禁煙してみても、食後の一服とか、
「これだけをキープしたい」っていうものを
並べてみたら、一日一箱以上にはなっちゃうし。
実際に禁煙したら、
ぜんぜん書けなくなっちゃったんです。
糸井
なりますなります。
ぼく、最初の一か月、
使いものにならなかったですもん。
『あしたのジョー』が真っ白になった状態で、
一日じゅう会社にいる、という。
重松
(笑)イヤだなぁ。
それだったら、減量苦に耐えられなくなった
マンモス西(『あしたのジョー』のキャラクター)
が、夜中にうどんを食いにいっちゃったほうが、
いいですよね。
ジョーに「見損なったぜ!」とか言われるけど。

たぶん、今、いろんな出版社なんかでも、
どんどん、禁煙にするところが増えているから、
たぶん、マンモス西みたいなヤツが
いっぱいいると思う。
ダーッと走っていって、陰で吸う……。
糸井
いっぱい、いるだろうなぁ。

わざと、トイレの前なんかに、
喫煙所があったりして。
見せしめ的なんだよね。
そういうときに喫煙者が感じる被害者意識が、
どんどん裏返って、
橋本治くん的なドグマを形成しちゃって……
ぼく、その気持ちは、わかるんです。

ただ、タバコをやめると、
タバコを吸ってないヤツが、
いままで文句を言わなかったことに
感謝をしはじめたりもする。
タバコ界をめぐる気持ちについては、
ぼく、今、万能に近いぐらい、よくわかりますよ!
重松
それは、一服したくなるくらい、無敵ですね。
糸井
(笑)うん。

今でも、ぼくは、
ひとりぼっちの状態のときには、
はっきりと「吸いたい」と思いますね。

だから、
作家が吸いたい気持ちは、ほんとによくわかる。

カミさんとどこかに出かけて、
自分だけ先に帰ってくるとき、あるじゃない?
そのとき、自分ひとりで家の中にいると、
「吸おうかな?」って思う。
あの気持ちって、ひどいですね。
重松
手持ちぶさたですし、
パソコンに向かって、
最初の一行を書く前の一服って、
大事なんですよ……。
糸井
うん。
要するに、あの気持ちって、「孤独」なんですよ。
重松
そうそう、孤独の友。
糸井
ですよね?
重松
うん。それに、隠れて吸うところがたのしいし。
何人かで喫煙所に行くときも、
連れションみたいなもんで、
「ちょっと行っとく?」って感じで。
2015-01-05-MON
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