第8回
「仕事が好き」と言いきれること
「仕事が好き」と言いきれること
重松 |
『ニッポンの課長』の企画で、 二十何人の課長さんに会って感じたのは、 「この人たち、 ほんとうに仕事が好きなんだなぁ」 ってことなんです。 例えば、チョウザメ課の課長さんに 将来の夢を聞いたら、 「いずれは、養殖しているチョウザメが キャビアを作るようになって、 そのあかつきにはキャビア課長になりたい」 と言うんです。 昔の会社員だったら、出世したいから 「チョウザメ部長」になりたいはずですよ。 でも、この課長はちがっていた。 「課長のままでもいいから、この仕事をやりたい」 ということなんですね。 そういう発想って、ありだなぁと思いました。 |
糸井 |
みんなが今したい仕事は、 いわゆる、キャリアアップとか、 スキルアップとかではないですよね。 |
重松 |
ええ。「アップ」っていう発想じゃないと思います。 |
糸井 |
そう……なんかこう、 「もっと、のめりこみたい」っていうか。 |
重松 |
そうそう! |
糸井 |
情熱を傾けたいっていうような、 すっごく、青臭い心で働いていますよね。 |
重松 |
うん。 |
糸井 |
この本に出てくる課長たちは、 みんな、質問に答えるのがうれしそうなんですよ。 重松さんがうまく聞いたんだろうとは思うけど、 仕事をやっているときって、 「この理由でこうやっている」と、 あんまり思わないままの場合もあるんですよね。 特に心の問題は、ね。 だけど、こうやって改めて聞かれてみると、 そこでそれぞれの人が改めて考えて、 「そうか、俺はそういうつもりでやってるんだ」 と、自分でも感心している、みたいな。 そういうインタビューだと思うんです。 |
重松 |
それはあると思います。 仕事のプロって、 物事を理論化しているわけじゃないですから。 自分のオヤジの世代を見ていたので、どうも、 「課長=中間管理職=仕事がおもしろくない=愚痴」 という図式があったんですけど、 課長を見ている中で、かつてのその図式も、 見直すようになりました。 きっと、高度成長期の課長さんたちだって、 たぶん、ほんとにやりがいがあったと思うんです。 ところが、そのときは恥ずかしかったから、つい、 「こんなのは、身すぎ世すぎだ」とか、 「宮仕えはツライよ」とか、言っちゃっていた。 たぶん、それを、子どものぼくが、 真に受けていただけなんですよ。 |
糸井 |
そうだね、きっと。 |
重松 |
含羞を真に受けちゃって、 「課長=ワーカホリック=悲惨」 って思っていたんだけど、きっと、 当時のモーレツ社員の人たちでさえ、 仕事が好きだった部分もあると思うんです。 今の若い世代の課長は、そのへんを てらいなく「仕事が好きだ」と言える。 そう言えるようになったことは、 すごくいいことだと思うんです。 |
糸井 |
今は、課長っていう 肩書きそのものは減ってるって、 重松さんが、最初におっしゃってたけど? |
重松 |
課長職に対応してはいるんだけど、 「シニアディレクター」とか、 そんなのになってるところが増えてます。 ただ、今回よーく思ったんだけど、 「梅課長」とか「チョウザメ課長」とか、 「競争力向上委員会」なんていう ベタなネーミングって、責任感を生みますよね。 やっぱり、 「自分はチョウザメの仕事をやってるんだ」 とわかるわけですよ。 「新規事業室」とかになるとダメです……。 |
糸井 |
その部署は、観念になっちゃいますから。 |
重松 |
そうそう。 自分が何をやっているかって、 ブツとしてはっきりしているのは、 大きいなぁと思いました。 そこから、エキスパートとしての自負も 生まれてくるわけですし。 |
2015-01-05-MON
タイトル
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
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