──:
バレエには、すごく長い歴史がありますよね。
恩田:
そうですね、はい。
──:
長い歴史を持つものの宿命として、廃れた時期もあったのかもしれないですが。
恩田:
『spring』にも書きましたが、バレエはフランス発祥なんです。じつはそのフランスで、低調だった時代もあったようです。しかし、ロシアをはじめ諸外国からダンサーが来て、盛り返したという歴史があるんですって。
──:
バレエ発祥はロシアと思っていました。
恩田:
バレエのダンスはフランスが最高峰と言われています。しかし外から入ってきた人たちが新しい血を注ぎ込んで盛り返したという歴史があります。
『spirng』の主人公たちは東洋人ですが、東洋の人たちも、これから新しいものを持ち込んで、反映させることができるんじゃないかな、と思っています。そのあたりの思いは、わりとこのお話に込めたつもりです。
──:
歴史の長い活動には、たしかにそういう面がありますね。
恩田:
そうですねぇ‥‥第3章に出てくる七瀬のセリフに〈変わらないために変わり続ける〉というものがあります。私もふだん、小説を書きながら実感しています。これは芸術であれなんであれ、あらゆる分野に通じる「真理」なんじゃないかなと思います。
──:
「いま」を継続するために、変わり続けなきゃいけない。
恩田:
私は、自分で書いてて、なるべく縮小再生産にならないようにと思っています。
──:
ああ、そうなんですね!
恩田:
同じような作品は続けて書かない。ある程度チャレンジしながら書いていきたい。そうしなければならない。これは実感です。
──:
私たちほぼ日も、変わり続けないといけないです。
恩田:
‥‥じつは日本って、老舗の企業が多いと言われてるんですよ。
──:
そうなんですか。
恩田:
老舗って、よく見ているとすごく柔軟です。同じことをやってるようでも、つねにすごくバージョンアップしています。と思ったら逆に、「絶対に変えない」という部分もきちんと持っています。
長く生き残ってきたところは、だいたいそうなんじゃないでしょうか。伝統を守りながらチャレンジし続けることが、何事に関しても「続けていく」コツなんじゃないかと思います。
──:
なるほど、ほんとうにそうです。ありがとうございます。
変わり続けるためには、いろんな刺激をインプットをしなければいけないと思うのですが、恩田さんはふだんは何をたのしんでいらっしゃるのでしょうか。最近はバレエだったのかもしれないのですが‥‥。
恩田:
やっぱり読書ですね。
──:
仕事もたのしみも、本!
恩田:
人の本は最後までできあがってるし(笑)、自分で考えなくてすみますからね。読書がいちばんです。
──:
小説が多いのでしょうか。
恩田:
なんでも読みます。小説も読むし、ノンフィクションもビジネス書も好き。人の作品を読んでるとね、とてもたのしいです。
──:
ほかの人の作品を読んでいるときには「読み手」として読んでおられると思いますが。
恩田:
はい。完全に、そうですね。
──:
書くときはどうでしょうか。「書き手の自分と読み手の自分」がどういう割合で存在するでしょう。
恩田:
うーん、どうでしょうね‥‥「作家は読者のなれの果て」って言葉があるんですけども。
──:
作家は読者のなれの果て。
恩田:
きっとある意味で、自分の書いている本の読者である、というところが、私にはあると思います。こうしてご質問を受けてみるとたしかに、私は読者人格が大きいほうかもしれません。まさに書きながら自分の作品を読者として読んでいるし、人の本を読んでいるときは完全に読者ですし。
──:
では、いちど原稿を書いて提出したらもう、ゲラ(校正刷り)がたのしみだったり‥‥。
恩田:
ゲラ、嫌いなんです。
──:
えっ、そうなんですか!
恩田:
ゲラって校正が入るじゃないですか。
──:
あーーーなるほど。
恩田:
ゲラで間違いを指摘されると、「あ、そうだっけねぇ」って、世界一、無力になった気がするんです。書いたらそばから完成しているのなら、作品を突き放して見られるのに。
──:
ゲラは作品じゃなくて、問題解決の紙になっちゃうんですね。
恩田:
そうなんです、ほんとに苦手で。いろんな疑問が指摘されて、一気に落とされます‥‥。
──:
それが校正という段階ですから。
恩田:
そうなんです。しょうがないんですけどね(笑)。だからこそ、本ができたときの喜びがひとしおです。
恩田陸さんへのインタビュー、次回につづきます。次回は最終回。
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