ITO Masako + HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 白いもの。 伊藤まさこさんと「白」をめぐる、ちいさな旅。  ベッドリネン、タオル、 アンティークリネンのハンカチ、 うつわ、白いシャツ、 バブーシュ、キャンドル‥‥。 それから、海岸で拾ってきた白い石。 スタイリストの伊藤まさこさんの家には、 「白いもの」がたくさんならんでいます。  白が大好き。 けれどもいままで「なぜか」とは 考えたことはなかったという伊藤さんといっしょに、 いろんな白いものや、 そこにかかわる人たちをたずねる、 ちいさな旅を、はじめました。
伊藤 岡田さんは、そもそも、
どんなうつわがお好きなんですか。
岡田 古典だったら、デルフトです。
古いものを探しては集めています。
デルフトっていうのはオランダの陶器で、
白いうつわなんですけど、
その白がすごく好きで。
専門的に言うと、
基礎透明釉に錫を添加して、
白く発色させているんですよ。
伊藤 ということは、岡田さんの手法と
同じ系統‥‥?
岡田 はい、ただ、焼成温度がぜんぜん違うんですけど。
デルフトは温度が低いんです。
古典的なデルフトって、土が弱いんですね。
だから釉薬がコーティングの役割で、
強さを増しているんです。
伊藤 その白がお好きだったんですね。
岡田 はい、それと、食器の価格をおさえるためにも、
できるかぎりシンプルな技法でいこうと思ったんですよ。
うつわをつくって自分の生活を成り立たせるという
リアリティーとして、
安定して量産できるパターンを考えたかったんです。
次から次へと技法を試して、
焼きかたを変えて、ということをしていくと、
それだけでコストを上げてしまうし、
できあがったうつわは、使ってもらうための食器には
不釣り合いな価格になってしまいます。
そういう仕事は、おそらく浮き沈みも激しいでしょう。
だから、シンプルに電気窯で、
食器が量産できる体制をつくりたかったんです。
たとえば薪窯だけでやると、
そば猪口ひとつが何万円の世界になるかもしれない。
けれどもぼくはそれを2000円台で
つくりたいと思うんです。
伊藤 岡田さんはすべて手で
つくっていらっしゃるんですよね。
岡田 ぜんぶ、手づくりです。
型も使うんですけど、
ろくろでひいてから、
型をかぶせるというつくりかたです。
伊藤 これ、とてもかわいいですね。
この、継いであるものは、
古いデルフトですか?
岡田 はい、デルフトです。
一番好きなうつわです。
ボディバランスとかも大好き。
割れ方も大好き。
伊藤 うーん!
岡田 こちらはイングリッシュデルフトといって、
イギリスのデルフトらしいんですけど。
フォルムとか、なんでしょう、
経年変化のおもしろさ。
タフだけど傷ついてるところが
なんかかわいいなと思って(笑)。

これは江戸の初期の伊万里。
すごくきれいなんです。
絶対に、和食、映えますよね。
江戸初期のものって
なかなかこのシャープ感が
薄くてかっこいいんですよ。
伊藤 持った感じもいいですね。
岡田 さすがに薄いんで、たわんでいて、
そのぶん、愛嬌がありますよね。
じっさいに使ったことはないですけど。
伊藤 え! そうなんですか。
岡田 ひとつしかないので‥‥。
でもなんか、むかしはきっと、
蓋開けてたのしむような料理、
たとえば炊き合わせを入れたりした感じでしょうか。
伊藤 シンプルでいいですよね。
木の芽をちょこんと飾った
たけのこの炊いたのとか、
そんな上品なお料理に合いそうですね。
この、重そうなうつわは‥‥
岡田 これはフランスの磁器なんです。
使いやすくて、壊れなくて、
なんでも受け止める皿で、かっこいいんです。
伊藤 何を盛ることが多いんですか?
岡田 昨日は、ハタハタを煮たのを盛りました。
煮物でもいいですし、意外となんでもいけます。
伊藤 なるほど!
どれぐらいの年代なんですか。
岡田 たぶんこの作り方からしたら
150年とかぐらいだと思いますけど。
これ、道具として最高に強くていいですよ。
頑丈で。
ぼくはやっぱり頑丈なのに惹かれますね。
ちょっと使って欠けると
すごく悔しい気持ちになって。
だから、自分がつくるうつわも、
なるべく、強い方がいいなと思ってます。
伊藤 こちらの棚は、岡田さんの作品と
アンティークのうつわが
いっしょにならんでいるんですね。
カフェオレボウルも!
岡田 むかしのフランスのカフェオレボウルなどに
とても好きなかたちのものがあるので、
すぐ見られるように並べています。
アンティークは好きですが、
日用雑器の古いものは、
じっさいに使うのをためらうほど
よごれていることもありますよね。
ならばいま使えるものをと、
自分なりに、つくってみたりするんです。
その参考にしています。
伊藤 あら? これはなんですか?
岡田 これもフランスのアンティークです。
鶏に卵を産ませるために、
巣にわざと置いておくものなんですよ。
伊藤 そんな道具が、あるんですね!
岡田 白も、もちろん、卵の白ですよね。
このつくりからしたら、100年以上経ってるものです。
伊藤 じゃあ、旅先でも、こういうものを探して?
岡田 そうですね。
白いものばっかり、集めてますね。
そして、あんまり、
つながらないかもしれないですけど、
クリアなものも、好きなんですよ。
だから古いガラスも好きです。
伊藤 なるほど。
透明感、質感。
岡田 揺らぎみたいな感じ。
いまのものって、きれいすぎるじゃないですか。
なんていうのかな、ねっとりしたような感じが
あるものが好きなんです。
これは全部イギリスのグラスなんですけど。
だいたい、150年とか200年ぐらい。
手が込んでいるのが、わかると、
そのことがまた、いとおしくて。

2012-08-08-WED

 

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