その3

 

その5 白いシャツは、みんな違う服。

伊藤 でも、「ファストファッションでいいか」
みたいにはならないですよね。
岡戸 だって、ずっと長く着たいもん。
伊藤 「長く着たい」、そうか、なるほど。
じゃあ、靴も? 長く?
岡戸 長く履きたい。
だから、底張りだけ
替えてもらったりもしてますよ。
伊藤 お手入れも、まめに?
岡戸 編集部時代、靴とアイロンがけは、
もう大変な、土日の行事でした。
今は、全然だめかも。
伊藤 手入れはされてますよね。
岡戸 手入れはね。汚いのは嫌だから、するけれども、
本当昔はちゃんとしてたんです。
底だけ張り替えるなんて、
普通の人はやらないじゃないですか。
やってるかな、みんな?
── 男性は、やりますよね。
岡戸 紳士靴には多いですよね。底張り全部取っちゃうやつ。
── 替えられるほうを買います。
「張り替えできますよ」って言われると、
「よし、長く履けるぞ」と。
伊藤 なんか男っぽいんじゃないですか、岡戸さんは。
岡戸 選んでる靴がきっとそうなのかもね。
メンズっぽい靴が好きなんだと思うんですよ。
だから、ヒールじゃなくて、ぺたんこの底張りの靴。
面倒くさいの、探したりするのが。
伊藤 面倒くさいだけかなぁ?
── 本当に面倒くさい人は、
手入れもしないですよ。
岡戸 そうか。
伊藤 そうそうそう。
── 使い捨てができるような、
もうシーズンシーズンで。
岡戸 わかった。面倒くさがり屋なうえ、
長く着れたほうが、
ファッションのサイクルに
巻き込まれずに済むんですよ。
「買わなくたっていいじゃん、あるもので」
って、そういう気持ち。
伊藤 「今年の春物どうしよう?」
みたいなことを考えたくない。
岡戸 そうそうそう。
伊藤 あるあるある!
岡戸 あるでしょう?
── 伊藤さんは、ワードローブが少ないんですよね?
伊藤 わたしは、少ないうえに、
スタイリストという仕事柄、
シーズンごとに入れ替えるんです。
全部じゃないですけれど。
忘れちゃうんですよ、同じものを着て
「前回と同じですね」と言われると、
職業的にどうかと。
岡戸 人前に出ることが多いですものね。
伊藤 あと、38歳くらいから、
何着ていいかわからないようになって!
二日酔いの日の朝に顔がグレーになり始めてからですよ。
岡戸 (笑)そこから?
伊藤 もうちょっと行くと、青緑になるらしいですよ。
一同 あはははは(笑)。
岡戸 青緑ねぇ。
青緑に合うおしゃれしなきゃ。
伊藤 その辺りから、顔の輪郭がぼやけてきて、
「あれ?おかしいな、おかしいな」
みたいになってきて(笑)。
岡戸 かなり私もぼやけてるもの。
全身がね(笑)。
伊藤 その頃から、何着ていいかわからなくなった(笑)。
本当に。
で、絶対、私がそういうふうに思ってるのと
同じようなことを思ってる人、多いと思うんですよ。
そこで、大人のおしゃれの本を出したいと思ったの。
きれいなモデルさんとか
女優さんのおしゃれの本を見ても、
「あなたはきっと、
 服に合わせて体形変えられる人でしょう?」みたいな。
だから、変えられない人のために、
騙し騙し着ている人のためのおしゃれの本がほしい。
岡戸 いいと思います。
それは、是非ともお願いします。
── 伊藤さん、白いシャツは、
お部屋で着るっておっしゃってましたよね。
伊藤 そうですね。白いシャツは1年に何枚か買います。
ただ、それを外にあんまり着て行かないもんだから、
家で着てる。
岡戸 なんで外には着て行かないの?
似合ってるのに(笑)。
ほら、今日みたいに。
伊藤 今日はお揃いにしたくて。ふふふ。
── 岡戸さんは普通に買い物‥‥たとえば食材買いに行く時も、
同じスタイルなんですか?
岡戸 そんなことないですよ。
でも、そうね、夏場でも、Tシャツの上に
襟つきのシャツを羽織ってるかも。
それは、さっき伊藤さんが言ったように
「この辺がぼやけてる」年齢だから、
Tシャツ1枚だとちょっと自信がない。
ちょっと隠したいっていうとき、
襟つきのシャツって便利ですから。
伊藤 ボタンを替えたりとか、
そういうことはしないんですか?
岡戸 しないですよ。『Olive』ではみんなに
「しましょう」って言ってたけど(笑)。
そうそう、この間、オレンジ色のTシャツを買ったのよ!
伊藤 オレンジ色?
岡戸 グレーみたいな顔で、白いTシャツ着てたら、
「いつもその色ばっかり」って言われて、
「じゃあ、赤買います」って。
重ねて着たらどうかしらと、
私の頭の中では、今、思ってるけど。
伊藤 白いTシャツと重ねるんですね。
どっちを上にですか?
岡戸 白を上で。
伊藤 やっぱり白なんだなぁ。
値段とかは、別に気にしない?
岡戸 してますしてます(笑)。
伊藤 (ならんだシャツを見て)
このシャツは、開襟風なんですね。
岡戸 そう、開襟が一時好きだった時期があるの。
なんかの映画観て、きっと。
伊藤 もしかしてオードリー・ヘップバーン?
『ローマの休日』?
岡戸 オードリー? どうだったかなあ。
でも昔のヒロイン、これですよね。
── ベスパに乗るシーン、そうですよね。

PictureLux/アフロ
岡戸 開襟が好きだった。
ただ、もう開襟の形が、
当時のものは大きすぎて、着られないんですよ。
伊藤 白いシャツっていっても、
パターンも違えば素材も違うし、襟の形も違うし。
じゃあ、やっぱり白いシャツを選ぶにしても、
岡戸さんは「違う服を選んでる」んですね。
岡戸 そうですよ!
伊藤 そうですよね。
岡戸さんにとってはすべて、違う服なんでしょうね。
他の人だと、色を変えたり、
デザインを変えたりするけれども、
岡戸さんにとっては、わずかな違いが大事。
岡戸 そうそう。これは、ステッチがあるから買ったとかね。
わたしが選ぶ、白いシャツは、みんな違う服。
伊藤 「白いシャツは、みんな違う服」!
謎がとけた気がします。
岡戸 ほんとう? こんな感じで、いいの?
伊藤 写真撮らせてくださいね。
岡戸 わたし、苦手なのよ。
お願い、そんなに近づいて撮らないで(笑)。
伊藤 ううん、かわいい、本当に、本当に。
岡戸 やり手だなぁ、まったく(笑)。あぁ。
伊藤 岡戸さん、きょうはありがとうございました。
岡戸 こちらこそありがとうございました。
いやだ、まだ撮るの?
写真小さくしてね!

(おわります)



2013-03-22-FRI

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
写真:有賀傑