糸井
矢口さんは、
どうして林業を映画にしようと思ったんですか?
矢口
それはもう、三浦しをんさんの
『神去なあなあ日常』を読んで、
これはぜひ自分が撮りたい、と思ったからです。
ぼくは『WOOD JOB!』で
はじめて「原作ものの映画」を撮りました。
今までの作品は、すべて
自分がゼロから脚本を書いた
オリジナルのストーリーでした。
おもしろそうな題材をみつけたら、
時間をかけて取材をして脚本を書く、
というふうにやってきたんです。
糸井 なるほど。
矢口
でも、
「オレはオリジナルだけでやっていくんだ!」と
宣言したことは一度もなくて、
いい原作との出会いがあれば
原作ものの映画を撮りたいと、ずっと思っていました。
知り合いに、映画の原作になるような本があれば
ぜひ読ませてほしいと声をかけたり、
自分でもいろんな本を読んだりしていました。
けれど、
自分が映像化するべきだと思えるものには、
なかなか出会えなくて、
ここまできちゃったという感じです。
糸井
『神去なあなあ日常』の本とは、
どうやって出会ったんですか?
矢口
昔から付き合いがあったプロデューサーさんが
おしえてくれたんです。
「原作ものをやるっていってるけど、
ぜんぜんやってないじゃん。
おもしろい小説から読んでみる?」って。
糸井 引き気味の押しですね(笑)。
矢口
「どうせだめなんだろうけどさ」みたいな(笑)。
そのときに渡されたのが、
『神去なあなあ日常』だったんです。
すごくおもしろくて、その日のうちに読み終えて、
すぐに「撮らせてください」とお願いしました。
まるで、心から気の合うお見合い相手に
出会った気分でした。
それまでは、いろんな相手を紹介されても
写真や経歴を見て「ごめんなさい」とお断りして、
お見合い写真を閉じてきた日々だったのに、
いきなり「結婚したい」と思える人に
出会ってしまったんです。
糸井
ぼくは『がんばれ!ベアーズ』という映画が
すごく好きなんですけど、
矢口さんが作る映画には
『がんばれ!ベアーズ』に通じる
考えやビジョンを感じます。
そういう矢口さんと
ピッタリ合う原作がみつかったということは
ものすごくよろこばしいことですね。
矢口
三浦さんの本をおしえてくれたプロデューサーさんも
『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』を
見てくれていたそうなので、
ある程度、ぼくの「好物」はわかってくれていて‥‥。
糸井 「好物」ね(笑)。
矢口
『神去なあなあ日常』のなかには
やっぱり、ぼくの好物が入っていました。
だから、映像化しやすかったんです。
でもそれだけではなくて、
村の生命力とか、開けっぴろげなエロチズムとか
ぼく個人からは出てこない題材も小説のなかにはあって、
それをとても魅力的に感じたし、
撮ってみたいと思いました。
つまり、あの小説のなかには、
ぼくが映像化するときに得意技としている部分と、
手をつけたことがない部分があったんです。
糸井
今回矢口さんが挑戦なさった部分の「村の生命力」は、
最後の祭りのシーンで
ダイナミックに描かれていておもしろかったです。
昔だったら、
そういう「山の集落のエネルギー」みたいなものって
今村昌平さんのような問題意識をもっている人が
描くものだったと思うんですよ。
矢口 土着の魂、のような。
糸井
そうです。そういう映画は、
たとえば「地方と都市をどうつなぐか」というような
テーマをはらんでいるから、
観客側が頭をつかわなくちゃいけなかったんです。
でも『WOOD JOB!』では、
昔から行われているだろうお祭りのシーンが
映し出されているだけで、
「そういうもんなんだよね」という感じがしました。
それが、すごく気持ちよかったです。
矢口
よかった、
そう感じていただきたかったので、うれしいです。
こんないいかたをしては
協力してくれたみなさんに悪いかもしれませんが、
ぼくとしては、この映画で
「都会と地方の架け橋になろう」とか、
そこまで考えていないんです。
糸井 ええ。
矢口
ぼくは『WOOD JOB!』の脚本を書くために、
9カ月間くらい、
東京と三重県の美杉町を往復しながら
取材をしていました。
その際、協力してくださった方のなかで
「三重県津市美杉町のいいところをすべて紹介したい。
もちろん全部を撮ってくださいとはいわないけれど、
自分たちが知っていることは全部教えてあげたい。
できれば、この映画を観て、
全国からお客さんが来てほしい」
とおっしゃっる方がいました。
実際、そういうふうに
映画を応援してくれている人も
たくさんいます‥‥けど。
糸井 けど。
矢口
ぼくがいろんなお宅を
一軒一軒回って取材しているときには
「そういうの、ちょっと煩わしい」
という人もいました。
お年寄りにしてみれば、
今さらほかの県から若い人たちが来て
ガチャガチャされるのは
日常のテンポが狂わされるわけですから、
嫌だというのも、よくわかるんです。
糸井
歓迎する人、そうでない人、
両方いますよね。
矢口
だから、ぼくは『WOOD JOB!』のなかで
「山も村も、誰でもウェルカムですよ」とか
「楽園ですよ」という描き方をしたら、
逆に失礼にあたると思いました。
仕事はちゃんと厳しいし、
村にもめんどくさい人間関係があるということも
ちゃんと描きたい、と思って撮りました。
糸井
そのバランスが、
ぼくはすごく好きだったし、
とてもおもしろかったです。
矢口 ありがとうございます。
(つづきます)
2014-06-04-WED