第3回 さおだけ屋も、国も、同じ。
   
山田 会計の試験に受かっても
最初は会計士補として働きます。
試験に受かってからも、
実務期間を3年ほど経験しないと
会計士には、なれないんですよ。
実務期間のあと、またさらに試験があって、
それに受かったら
ようやく公認会計士になれます。
いまは制度が変わったんですが、
当時はそういうしくみでした。

会計士補の期間も、やることは
公認会計士と変わりません。
僕は当時、会計士が2〜3000人いるような
監査法人にいました。
大きな組織の末端の人間として
粛々と働いてましたよ。
── 3000人というと、日本では
トップクラスの監査法人ですね。
そこでは、会社の監査に入って
企業の会計調査を
なさってたりしていたんですか。
山田 そうです。そういうことを日々こなし、
3年半をすごして、
去年の2月に独立して事務所をかまえ、
現在に至ります。
── 山田さんがお書きになった
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は、
100万部を越える大ベストセラーになりましたね。
山田 本は大学時代から書いていたんです。
大学時代に就職活動の本を書いたことがあって、
公認会計士の試験に受かってから
小説の連載を雑誌ではじめて、
それが単行本『女子大生会計士の事件簿』になって、
それがそこそこ売れて、
その本が漫画
『女子大生会計士の事件簿
公認会計士萌ちゃん』
になって、
漫画もそこそこ売れて、
というのが続いていたんです。
しかし、いま僕は世間的に
『さおだけ屋』と呼ばれています。

以前は、セミナーや講演会に行くと
「『女子大生会計士』の山田さんです!」
と紹介されて、ステージに出て行くと会場全体が
「女子大生じゃないじゃん!」
というツッコミがあったものです。
それが最近は、
「『さおだけ屋』の山田さんです!」
という紹介に変わりました。
── 職業はそうじゃないんですけど、
という顔で毎回出て行かなくてはいけませんね。
実際のお仕事は、
女子大生でもさおだけ屋さんでもなく、
公認会計士でいらっしゃるのですが、
山田さんは、ふだんのお仕事では
どんなことをなさっているのでしょうか。
山田 どんな専門家でも言えることなんですけれども、
会計士とひとくちにいっても、
いろんな分野があるんですよ。
僕がいまやってるのは、会社法関係なんです。
── 最近出された本
『図解 山田真哉の 結構使える!
 つまみ食い「新会社法」』

の内容が、現在は専門分野だということですね。
山田 そうです。会社法の研究とその発表、
会社法関係のコンサルティングが、
メインの仕事です。
ですから、会計士といっても、
数字はあんまりいじってない(笑)。
── なるほど。‥‥お仕事、おもしろいですか?
山田 僕はじつは、
あんまり仕事が好きなタイプではないので。
── ええええ?
山田 バリバリ働くのはあんまり好きじゃないんです。
新会社法は、去年から今年にかけてつくられて
来年からスタートする新しい法律です。
ですから、僕はいま、とてもあわただしい。
イヤですね。はやく落ち着かないかな。
── 時代の寵児が何を‥‥。
山田 地道に、地道に、行きたいんです。
── もしかしたら、会計士というお仕事は、
地道なところの発見に
大きな魅力があるのかもしれませんね。
山田さんが会計士になられて、
発見されたことはありますか。
山田 会計士になって見えてきたことは、
ものすごく大きいです。
商売についてのことや
「儲ける」「儲からない」という話には
とても敏感になりましたし、
数字に関しても、会計士になろうとするまでは、
ずっと意識の外、眼中にない、
夢にすら見なかった。
── 「さおだけ屋さんは
 どうやって儲けているんだろう?」
という疑問も、会計士になったからこそ
生まれた観点なんですね。
山田 会計士になってからは、商売について
疑問や自分なりの推理をするようになりました。
「ああすると儲かるんじゃないかな」とか、
「誰かこういうことをやらないかな」という、
サラリーマンの酒場ネタのようなことが
会計士になってから
よりクリアにわかるようになりました。
── 山田さんの本を読んだあとでは、
ニュースひとつとっても、
ぜんぜんちがって見えるんですよ。
経済のことだけではなくて、
たとえば政治の、予算のことなんかでも、
これまで自分の興味の外だったことが
おもしろくなっていくんです。
山田 何も知識がないとさっぱりわからないのですが、
ちょっとだけでもわかると、
ちがってくるでしょう。
そこから、何でもはじまるんですよ。

国も結局、さおだけ屋と一緒で、
成り立つには売上をのばすか、
費用を減らすかしかないんです。
ですから、売上をのばすという観点に立つと、
消費税の値上げや所得税を上げる
「増税論」に話がいきますし、
費用を減らすという観点に立つと、
郵政を民営化しようとか、公務員を減らそうとか、
市町村合併とか、そういう話になります。
いろんな話がバラバラにあるようだけれども、
何かを成り立たせていくためには、結局は、
「売上をのばしたいのか」
「費用を減らしたいのか」
という話しか、していないんですよ。
── そこがわかっているだけで
国会答弁でも、会社の経営の話でも、
いろんなニュースの話の流れが
とてもクリアになります。

(つづきます!)

2005-09-26-MON
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