── |
阪神大震災で、山田さんは、家が全壊した。
それから、性格も変わられましたか。
|
山田 |
震災前と後では変わりました。
いまでも
「まったりのんびり」することは
好きなんですけど、なんだか
そうもしてられないな、という気持ちがあります。
どちらかというと、
自分のやりたいことをやってから、
「まったり」したい(笑)。
|
── |
「会計士になろう」というのも、
震災後の、ちょっと急いでいる山田さんが、
そう決断なさったんですね。
|
山田 |
そうです。震災がなかったら、たぶん、
普通にサラリーマンをやっていたと思います。
何かをきっかけにして、
人の価値観がかわるということは
震災に限らず、きっと
いろんな出来事で、起こりうると思います。
震災は、やっぱりびっくりしましたよ。
だってまさか、
家がいきなりつぶれるとは、
おまけに借金を背負うとは、
思っていなかったですからね。
|
── |
ご両親は、ローンは組まれていましたか?
|
山田 |
うちは、ローンは完済していました。
でも、家がつぶれると、
1年間くらい避難生活をしたり、
再建までの間の賃貸マンションを
借りたりしなくてはいけませんし、
家の再建費用も必要になります。
うちの場合は、結局
2千万円くらいかかっちゃったんですよ。
自分で事業を興して借金を背負うのは、
予測の範囲内だと思いますが、
まさか、普通のサラリーマンをやっていて
突然借金を背負うとは、
誰も思っていないでしょう。
|
── |
突然そういうことが起こりうるんだ、
というショックを受けられたんですね。
|
山田 |
何が起こるかわからないから、
同じところに
無駄にジッとしていられないんですよ。
|
── |
一日の大切さがちがってくるんですね。
震災を体験した山田さんは、
就職したところもスパッと見切りをつけて辞め、
会計士をめざされました。
会計士の試験を1回でパスされたと
うかがったんですけれども、すごいことですね。
|
山田 |
試験は1年ジャストで受かりました。
1日に15〜20時間くらいは
勉強していましたよ。
|
── |
1日のうち4時間以外は勉強ですか!
|
山田 |
睡眠時間は3時間か4時間くらいで、
あとは勉強です。
食べながら勉強、
移動中もヘッドフォンで
民法の条文を一生懸命聞いて勉強。
|
── |
その努力のもとはなんですか?
|
山田 |
もちろん「生き急いでた」ということも
あるんですけど(笑)、
その状況では、僕は無職です。
就職して一度東京に行って、
2ヶ月で辞めて、神戸に帰ってきたんですよ。
近所の人や親戚に、
「山田さん家の息子はねぇ、何考えてるのかしらね」
と噂をされているにちがいないんです。
|
── |
ははは。
「あそこの坊ちゃん、いい大学を出たのにねぇ」
|
山田 |
「そうよねぇ、何ぷらぷらしてるのかしらね、
会社をすぐに辞めたらしいわよ、
いまどきの子だねぇ」
|
── |
そうとうつらい日々を(笑)。
|
山田 |
つらいです、無職って。
そういう目に見えない力が働きまして、
会計士の試験は一発で通りました。
|
── |
大きい原動力になったということは、
人の口も、あなどれないですね。
|
山田 |
一歩間違えれば、
落ち込みすぎちゃいますけれども、
プレッシャーは、大切ですよ。
「就職先、紹介してあげるよ」
「どうするんだ、何考えてるんだ」
なんて、親戚からよく言われていました。
宙ぶらりんの人間がひとりいると、
周囲のみんなの話題にのぼりやすいし、
ましてや試験にいつ受かるかわかんないし。
正直、公認会計士の試験に受かるほうが
ベストセラーを出すよりも難しいです。
何せ、人生がかかってるんでね。
ベストセラーは出さなくても生きていけますが、
試験に受からなかったらある意味死んじゃいますから。
|
── |
それが、24歳のとき。
合格率は何%だったんですか?
|
山田 |
現在はもう少し上がっていますけれども、
僕のときは、7%ぐらいでした。
受かるまでには
平均3〜5年かかります。
|
── |
大学受験のときより、
勉強した実感がありますか?
|
山田 |
大学受験の10倍くらいは勉強しました。
大学受験も一発勝負といえば一発勝負だけど、
いろんな大学を受けられるでしょう。
でも会計試験は、
「1年に1回、その日だけ」です。
プレッシャーが大きいぶん、
いっぱい勉強しようという気概が
生まれるのかな。
|
── |
大学は、レベルを下げれば、
どこかにひっかかりますからね。
でも、まわりのみなさんは、
就職して2ヶ月でお辞めになった山田さんが、
たった1年で会計試験に合格されたことに
驚かれたのではないでしょうか。
|
山田 |
「すぐ辞めるやつはダメなやつ」
というレッテルは、
どうしても張られてしまうのですが、
それは違うのにな、と内心思っているんです。
ま、僕の五月病は
たんなる若気の至りみたいなものだったんですよ。
仲のいい同期が何人か
「辞めるんだ」と言っていたのを聞いて
じゃ、僕もかなぁ、と(笑)。
でも、根底に漠然とした不安があったんです。
|
── |
そういう不安って、
当たっていることがかなり多いものですね。
|
山田 |
ええ。だったら、
はやく見切りをつけてしまったほうがいい。
|
── |
得意の「見切り」力を発揮された。
|
山田 |
ええ。得意の。
大事ですからね。
|
(つづきます!)