- ──
- みなさんのお話を聞いて、
アートは心の状態から生まれるという、
そんなことを思いました。
- 山下
- ああ、そうですねえ。
- ──
- すごく当たり前のことだと思いますが、
1人1人の作品がちがう、
それは1人1人の人間がちがうからで。
- 山下
- ええ。
- ──
- そういう、まったく当たり前のことに、
あらためて気づかされましたし、
その当たり前のことが、
自分にはできてるかなとも思いました。
- 山下
- まあ、あのラーメンの人とか見てたら、
究極ですよね。
- ──
- ラーメンの酒井さん‥‥ほんとですね。
- 山下
- ていうか、何してんねんって、
ツッコミどころ満載の人間ばっかりで。
- ──
- でも、酒井さんのラーメンも、
やっぱり、何らかの表現なんですよね。
アートと言いにくいかもしれないけど。
- 山下
- その日の心の精神状態によって、
ラーメンの終わり方がちがうんですよ。
落ち着いていた日は、四角のままだし。
イライラしてた日は粉々になってたり。
- ──
- はー‥‥過去、何年にもさかのぼって、
ある日の心の状態が
「ラーメンの姿」でわかる‥‥のって、
思えば、唯一無二のことです。
- 山下
- 大げさに言ったら
あの人の「生きてきた証し」だし、
大げさに言わなければ、
ま、膨大なただのラーメンですし。
- ──
- あの日のラーメン、この日のラーメン。
- 山下
- 朝、起きた瞬間から寝る10秒前まで、
ずっと触ってますから。
ごはんのときも、トイレのときも、
お風呂のときも‥‥。
- ──
- え、お風呂でも。
- 山下
- だから、過去に
完成してしまいそうになったことが、
ある言うてましたもん。
- ──
- え、ほんとですか!
お風呂で、ラーメン一丁上がり(笑)。
- 山下
- そう、お母さんが言うてました。
風呂の温度で、できちゃうって。
- ──
- はああ‥‥。
- 山下
- アートかどうかはわからないですけど、
でも、あのラーメンは、
ひとりの人間の生き様であることには、
間違いないですよね。
自分の本当にやりたいことを
誰が何と言おうとも貫きとおす、美学。
- ──
- 単純におもしろいです、この話自体。
- 山下
- ぼくらにとっては、
もう、ただの諦めだったんですけどね。
わかった、ええわ、好きにすればって。
- ──
- ラーメンと切り離して、
作業をしてもらおうとしていた時期も、
あったと聞きました。
- 山下
- だからね、正直、
こんなしても一銭にもならないよって、
ぼくらは、一生懸命、
自分らの価値観を押し付けようとして。
でも、結局、根負けですわ。
- ──
- 根負け(笑)。
- 山下
- ええわ、わかった、おっちゃん諦めた。
ラーメンとことんやってみよかって。
それから20何年も経ってね、
こんなことやっててどうするのーって、
思ってる人もいるかもしれないけど、
あの人は、誰が何と言おうと
自分の人生で
いちばんしたいことをしてるわけです。
- ──
- 映画を拝見したときも、
こうしてお話をしてても思うんですが、
この山下さんのナイスなキャラが、
いろいろなことを、
何となく解決してるような気がします。
- 山下
- え、ああ、そうですかね?
- 笠谷
- はじめてここへ来たとき、
どなたかの頭を、どついてて(笑)。
もちろん、よくある
友だち同士のツッコミっていうか、
信頼関係があったうえでの、
愛情からの行為なんですが、
この人、大丈夫かなとは思いました。
- ──
- はあ(笑)。
- 山下
- 暴力じゃないですよ!
なんでやねんというツッコミです!
おでこをポンって!
よく問題になってる虐待とかとは
違いますからね! 汗でますわ‥‥。
- ──
- いやいや、わかります。
施設長とみなさんとの関係を見たら。
- 山下
- 映画の上映会で、学生さんたちから、
「障がいのある人たちに、
あんな冗談を言っていいんですか」
とか言われるんですけど、
障がい者像って、
なんか、そこまで来てるんだなあと。
- 笠谷
- 考え方によっては、
まるで腫れ物に触るように接したり、
そういう施設もありますし。
これ以上近寄らないで、みたいな。
- ──
- そうなんですね。
- 山下
- でも、ぼくにとっては、
障がい者であろうがべつに関係ない。
大切なことを教えてくれますし、
ときには
許せないって腹立たしく思ったり、
当たり前のように、
いろんな気持ちになりますから。
- ──
- そうですよね。
いっしょに生活してるんですもんね。
- 山下
- 障がい者にはこうしなさい、
こういう接し方はダメですとかって、
何か違う線を引きすぎてると思う。
- ──
- 今まで、障がいがあるとかないとか、
何のために何をわけていたのかが、
ここにいると、わからなくなります。
- 山下
- インサイドとか、アウトサイドとか、
健常者とか、障がい者とか、
何かができるとか、できないとかで、
選りわけてね。
- ──
- いわゆるアウトサイダー・アートや
アール・ブリュットという言葉は、
ぼくらふつうの人の耳にも、
入ってくるようになってきましたが。
- 山下
- そうですね。
- ──
- 正規の美術教育を受けていない人たちの
アートを、
「アウトサイダー・アート」って
言うそうですけど
一瞬「アウトサイダー」と聞くと、
何だか、ネガティブな感じも受けますね。
- 笠谷
- ええ。ただ、その言葉をつくった人は、
どっちかと言えば、
肯定的な意味を込めていたようです。
つまり従来のかしこまったアートより、
もっとブッ飛んだ、
アートの世界のパンクみたいな意味で。
- ──
- 既成の価値観をひっくり返す的な。
- 笠谷
- いまは「アール・ブリュット」という
似たような概念との間で、
言葉の意味についての論争もあって、
まあ、そんなの、
どうでもいいかなとは思うんですけど。
- ──
- 山下さんは、
見た目がアウトサイダー的ですよね。
- 山下
- あー、そこですか。ま、そうですね。
- ──
- もともと、どういう人だったんですか。
- 山下
- たしかに高校を卒業してから
定職も就かずにプー太郎してたりとか、
社会性の欠片もなかったんで、
言ってみれば、
アウトサイダー的だったかもしれない。
でも、この笠谷さんと出会ってからは、
結局、障がい者にたいして
偏見を持っていたのは
自分のほうだったのかなあと思います。
- ──
- そうですか。
- 山下
- ぼくらは、どこか彼らの「上」に立ち、
こんなことはできない、
こんな場所にいたら不安定になるって、
決めつけていたのかもしれません。
笠谷さんたちは、
そんなふうに、
ぼくらが「タブー」としていた部分に
どんどん踏み込んでいって、
想像しなかった場へ導いてくれました。
- ──
- 「PR-y」の活動をはじめ。
- 山下
- 結局、彼らの可能性を止めていたのは、
ぼくらだったんだなあと。
- ──
- でも、定職に就かず
プー太郎さんとしてブラブラしていた人が、
どうやってここへたどり着くんですか。
- 山下
- たまたま届け物に来たんです、ここに。
そしたら居心地よくて居ついちゃって。
- ──
- こうして、施設長になるまで。
- 山下
- それは、ただ辞めなかっただけですね。
でも‥‥そうですね、
辞めなかったっていうのはようするに、
ここの人らが、
ぼくを、受け入れてくれたんですよね。
- ──
- ああ‥‥なるほど。
- 山下
- 受け入れてくれたんです、ぼくを。
- 笠谷
- いまや、みんなにモテモテですから。
- ──
- ええ、山下施設長のことが、
大好きだとおっしゃる女性がいました。
- 山下
- ああー、あの人ねえ‥‥。
ちょっと、タイプじゃないっていうか‥‥
ごめんなさい、悪いんですけど‥‥。
<おわります>
2019-07-17-WED
やまなみ工房のアーティストの作品を、
TOBICHI2に展示します!
山下完和(まさと)施設長はじめ
やまなみ工房のみなさんが、
滋賀から車で運んできてくださいます。
やまなみ工房まで行かずとも、
直に作品を鑑賞できる貴重な機会です。
また会期中は連日、
19時30分〜20時30分のスケジュールで
『地蔵とリビドー』を上映します。
会場はTOBICHI2で、料金は1000円。
料金の中に山際正己さんの作品
「正己地蔵」代が含まれていますので、
当日ご観覧くださったかたは、
お好きな「正己地蔵」をお持ち帰りいただけます!
今後、東京近郊での上映は未定なので、
どうぞ、おみのがしなく。
ぜひ、展示作品を鑑賞したあとに、
ドキュメンタリーを観て帰ってください。
初日18日(木)の上映終了後には
山下施設長と
映画を撮った笠谷圭見さんの
アフタートークを開催(30分の予定)。
詳しいことは、
こちらの特設ページでご確認ください。
- 会期
- 7月18日(木)〜28日(日)
- 時間
- 11時〜19時 ※会期中無休
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 無料
- 会期
- 7月18日(木)〜28日(日)
- 時間
- 19時30分〜20時30分 ※1日1回上映
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 1000円(正己地蔵1体つき)
参加方法など詳しくは、こちらの特設ページで。
協力:RISSI INC
8月24日(土)〜8月30日(金)
「地蔵とリビドー」上映
@京都シネマ:20時20分〜
※初日のみ、笠谷監督・山下施設長の舞台挨拶あり
〒600-8411
京都府京都市下京区水銀屋町620
COCON KARASUMA3F
https://www.kyotocinema.jp
8月24日(金)25日(土)
DISTORTION3 2020SS
@しまだいギャラリー:11:00〜19:00
〒604-0844
京都府京都市中京区 仲保利町191
http://shimadai-gallery.com
8月16日(金)〜8月26日(月)
「いのちといのちーやまなみ工房のいとなみ」
川内倫子写真展
@アンテルーム京都:11時〜21時
※17日(土)17時より18時30分まで
川内倫子と施設長・山下完和のトークショーあり
〒601-8044
京都府京都市南区東九条明田町7
https://hotel-anteroom.com/