矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- どう言ったらいいかなぁ、
永ちゃんは、スターである一方で、
ふつうの人がやってるたのしみに、
いつも基準を置いてるよね。
ふつうの人がよろこんでることを、
ちょっと俺にもやらせて?
みたいなところが。
- 矢沢
- あー、あるよ、あるよ、
それは、糸井だってそうじゃないですか。
- 糸井
- そう。それは、ふたりとも同じだね。
- 矢沢
- うん、同じかもしれない。
- 糸井
- それはさっきの
「かっこいいってなあに」の話のときに出た、
かっこわるい、ふつうのことも
そこに混ざってるからこそかっこいい
っていうのと同じことだよね。
- 矢沢
- そうそう。
- 糸井
- だから、たとえば、なんでもないものに
ちゃんと愛情注げる人とか見ると、
いいなぁと思ったりする。
- 矢沢
- それは、まさに、あの犬の本だよ。
- 糸井
- ああ(笑)。
- 矢沢
- なんだっけ、あの、
ブイヨンの子どものころの物語。
- 糸井
- 『Say Hello!』ね。
ずいぶん前にほぼ日でつくった本。
- 矢沢
- あれ、笑っちゃうのはさ、
大昔、何年も前に、プレゼントで、
イトイ新聞が送ってくれたの。
それで、ぼく、あー、読まなきゃなと、
置いたまま、何年よ?
- 糸井
- もう、15年くらい前の本だよ(笑)。
- 矢沢
- なんか、ある日、手にとってね、
ゆっくり、ゆっくり、ページをめくったんです。
そしたら‥‥感動しちゃって。
- 糸井
- (笑)
- 矢沢
- それでぼく、すぐ電話入れたもん。
もしもし、あのさー、って言ったら、
あれ何年も前だよ、って。
ええーー、って。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ときどき、永ちゃんはそうやって、
ほぼ日のなにかに反応して
急に連絡くれるときがある。
- 矢沢
- あれ、感動しちゃったんだよ、
すばらしいな、って。
で、何を言いたいかというと、そういうこと。
そういういいものが、ふつうにあるんだよ。
- 糸井
- 感動するもの、いいもの、かっこいいものが。
- 矢沢
- あるねぇ。
- 糸井
- 永ちゃんはさ、
何か見つけたときとか、迷ったときとか、
ひとりで対話してるってよく言ってるよね。
「これはいいな」「そうでもないよ?」みたいな、
自己問答というか、自問自答というか。
- 矢沢
- あ、それは大事だね。すごく大事。
- 糸井
- それは、もしかしたら、人から見たら、
孤独な人に感じられるかもしれないけど。
- 矢沢
- そうじゃないよ。
- 糸井
- そうじゃないよね。
- 矢沢
- だって、孤独、孤独ってみんな言うけど、
孤独だろ? 人は。
- 糸井
- ああ、いいなぁ(笑)。
- 矢沢
- 人は孤独だろ?
それを「孤独じゃない」というふりをしたり、
「孤独じゃない」と言い聞かせてることのほうが、
よっぽど、俺、変な話だと思うよ。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- シンプルに、人間やってると、
基本、孤独だよね、ということを、
決めて、アンダースタンドして、その上で、
さーて、どうやって自分は立てばいいんだろう?
立ち位置はどこ? みたいなことでやるほうが、
ぼくはナチュラルだと思うな。
- 糸井
- 孤独を怖がるから、騙されたり、
間違ったほうへ引っ張られたり‥‥。
- 矢沢
- そう、ヘンなことになるんじゃないの?
人間は孤独だと思うよ。
すくなくとも、ぼくはそう思う。
- 糸井
- でね、永ちゃんの孤独って、
なんとなくね、みんなにバレてる気がするの。
- 矢沢
- えぇ?! ほんと?
- 一同
- (笑)
- 糸井
- バレてるというか、
「永ちゃーん!」とか言ってる人って、
ひとりひとりみんな孤独でさ、
永ちゃんはそれをちゃんと
わかってくれる人だって知ってるから、
みんなが集まるんじゃないかな。
- 矢沢
- はぁーー。
- 糸井
- それは、ぼくがそうだもの。
永ちゃんとの付き合い、ほんとに長いけど、
自分とすごく共通してるのは、
その孤独についての考えかなぁ、
って思うときがある。
- 矢沢
- うーーん‥‥いいこと言ってるね。
- 糸井
- (笑)
- 矢沢
- いいこと言ってるよ。
ほんとに、孤独、その通りよ。
- 糸井
- 永ちゃんのひとりの時間って、
俺、想像つくんですよ。
渋い顔しているだろうなと思うわけよ。
で、それは、ぼくらの顔でもある。
- 矢沢
- いやー‥‥ねぇ。そんなもんですよ。
ずっと、そうなんじゃないですかね。
- 糸井
- そうだね。
年をとって、急に孤独になるんじゃなくてね。
- 矢沢
- ずっとそうなんじゃないの?
だから、よく歳取った人がね、人生は速いよと、
時間が速い、一瞬だってみんな言うじゃない?
ぼくも同じようなこと言うんだけど、
それでいいんじゃない?
それでいいんじゃないの?
ということを最近思うよね、すごい。
- 糸井
- ああー。人生は速い。それでいい。
- 矢沢
- だから、なおさら、ぼくはいま思うよね。
無駄なことは、なんにもない。
ぜーんぶ、必要なのよ。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- もうこう言ったら年寄りくさいですけど、
行く先なんて見えないし、
確信もないし、みんな怖い。
だから、探すんじゃないの?
- 糸井
- どっちにどう行けばいいのかって、
しょっちゅうわからなくなる。
で、そういうときは、
明るいほうに行けばいいんじゃないのかな、
っていうのを、ぼくはむかしから思ってる。
なんかあっちに光があるよ、
って言ったら行く、みたいな。
- 矢沢
- それ、わかりやすくて、いいね。
- 糸井
- 路地に入ってさ、
どっちが正解とか考え出すと、
どんどん知りたくなるからだめだよ。
それより、光の差すほう、っていうだけで。
- 矢沢
- すごい抽象的だけど、
「明るい方に行く」っていうのは、
それ、いいかもしれない。
- 糸井
- うん。だって、暗い方に行って、
うまく行ったことってある?
- 矢沢
- なるほどね。
- 糸井
- 暗さって、自分の孤独のなかに十分あるから。
- 矢沢
- いいこと言うねぇ。
ほんと、そうかもしれないね。
だから、さっきも言ったけど、
ぼくは、迷ったときに
自己暗示をかけるじゃない?
- 糸井
- うん。「おまえならできる」って。
- 矢沢
- そうそう。
それは、つまり、ひとりのときに、
自分と会話をするわけだよね。
おまえだったら絶対できるよ、
行け、行け、って。
それは、糸井が言ったことと一緒ですよ。
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- 孤独なんだから、もともとは。
- 糸井
- もともと孤独なんだからね。
- 矢沢
- 孤独なんだから、人は。ねぇ。孤独上等。
- 糸井
- うん(笑)。
- 矢沢
- 孤独上等よ。孤独なんだから、もともと。
自分と会話しながら、自己暗示をかけながら、
「おまえだったらきっとできる」
って言って、やる。
- 糸井
- もう永ちゃん、お墓に「孤独」って書く?
- 矢沢
- いいねぇ!
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 「孤独」って書かれたお墓にみんなが集まるの。
じゃあ孤独じゃないじゃん、みたいな(笑)。
- 矢沢
- さっきイトイ、なんて言ったんだっけ、
俺が大ウケしたやつ。
ほら、さっき、なんだっけ?
俺がそれいい! って言ったの。
- 乗組員S
- 「犬小屋ごと犬」?
- 矢沢
- (手をパチンと叩く)
それ! それいい。
それ、やっぱ、めちゃくちゃいい。
「犬小屋ごと犬」‥‥いいねぇ、それ。
- 糸井
- そんな気に入ると思わなかった(笑)。
‥‥こんなところでしょうかね?
- 矢沢
- はい、ありがとうございました。
- 糸井
- いや、こちらこそ。
はい、矢沢さんでした。
- 一同
- (大きな拍手)
- 矢沢
- どうもー。
(ああ、おもしろかった。
現場もサイコーでしたし、
こうして編集していてもサイコーでした。
ありがとうございました。)
2019-06-20-THU
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN