矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- うちの人たちから、
1、2個、質問受けていい?
- 矢沢
- あ、はい。
- 糸井
- (乗組員に向かって)
ありますか、質問って。
永ちゃん、怖いから、みんな訊けないかな。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- ハハハ!
- 糸井
- 永ちゃんは怖いんだよー。
はい、はい、どうぞ。
- 乗組員I
- 私は、学生のときに、アルバイトで、
矢沢さんのコンサートの
警備をしたことがあります。
最前列でお客さんを押さえる係だったので、
コンサートの間中、矢沢さんじゃなくて、
お客さんを観ていたんですけど、
そのとき感じたのは、矢沢さんのお客さんって、
ほかのコンサートのお客さんと違って、
全体がものすごくファミリーというか、
独特の一体感があって、
これはなんなんだろうなと思ったんです。
矢沢さんは、コンサートに来るお客さんを
どんなふうに感じてらっしゃいますか?
ちなみに、それは山形のコンサートでした。
- 矢沢
- うーん、まぁ、ぼくのお客さんは、
熱いからね。
よくも悪くも、熱い。
- 糸井
- お客さんは、熱いよね。
- 矢沢
- とくに、昔は、熱すぎたくらい。
でも、いまはもう、
そういう時代もだんだん過ぎて、
ちょっと変わってますけどね。
- 糸井
- 昔は、男ばっかりだったよね?
- 矢沢
- 昔はもう、ほぼ、9割以上、
ほんとに男ばっかりだったからね。
女の人がいるとしたら、
熱い男に連れてこられた、みたいな感じ。
- 糸井
- もう、男子トイレがぎゅうぎゅうでね。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- ふふふふ。
- 糸井
- それで、いまもときどきそうなんだけど、
俺、男子トイレに行くと、
譲ってもらえたりするんだよ。
まあ、トイレに限らないんだけど、
コンサート会場を歩いてると
「あ、どうぞ」みたいな。
- 矢沢
- え、なんで?
- 糸井
- つまり『成りあがり』の人だから、
熱いファンからすると、
永ちゃん側の関係者みたいな扱いなのよ。
だから、「あっ、どうぞ!」みたいな。
- 矢沢
- ハッハッハッハ!
- 糸井
- そういう独特のノリが
たしかにありましたね。
- 矢沢
- でも、いまはもう、男性女性、
五分五分くらいになってると思いますよ。
昔はもう、熱かったねぇ。
- 糸井
- だって、永ちゃん、ステージの上から
喧嘩の仲裁とかしてたものね。
「あー、ちょっと演奏やめてくれる?
あの‥‥そこ! そこ!」って。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- まぁ、むかしの話です(笑)。
- 乗組員I
- ありがとうございます。
- 糸井
- もうひとりぐらい、いますか。
はい、どうぞ。
- 乗組員N
- 矢沢さんのお話をうかがっていると、
上にあがりたいとか、
かたちのあるものがほしいとか、
強く目指すものがあって、
そこに向かっていく話が多いと思うのですが、
すべてがかなうわけではないと思うんです。
自分のことでも、組織のことでも、
何かをやめるとか、ここで諦めるとか、
そういう決断は、矢沢さんは何を基準に
どのようになさっているんでしょうか?
- 矢沢
- ああ、なるほどね。
うーん、あのね、これは、
うちの奥さんに言われたことなんですけど、
「あなたは大丈夫よ」ってぼくは言われた。
どういうことかっていったら、
「もうこれ以上はきついな」
っていうときには、
あなたやめるって言うんだよね、ちゃんと。
パッと、こう、閉じる。
- 糸井
- はーー、なるほど。
- 矢沢
- 自分からちゃんと閉じるっていうところも、
あなたはちゃんと持ってるから、
そこは私は心配してないと、こう言うんだね。
これ、ぼくは自分ではわからない。
だから、聞いて、えーって思ったけど、
言われて振り返ったら、
たしかにそうなんだよ。
つまり、さっきも言ったけど、
ベーシックは非常にぼく、ビビリ屋さんなので、
やるやるやる! ってバーっとやりますよ?
やるけど、あれ? ちょっと違うか?
っていったとき、パチっと止めるね。
それは、なんかあるねぇ。
サーモスタットみたいなのが
ちゃんと効くみたいなことなのかな。
- 糸井
- おもしろいね。
ベーシックは臆病で、
ビビリ屋だっていうことが、
ただの謙遜でもなくて、
永ちゃんのすごく大事な個性なんだね。
- 矢沢
- うん。自分が臆病であることっていうのは、
なんか大事かなぁと思ってますね。
たびたび、言ってますけれども。
だから、思ってるだけじゃなくて、
それを自分で認めて、ちゃんと言った方が、
自分がらくだなと思ってるんだね。
- 糸井
- うん、けっこう言ってるもんね。
- 矢沢
- ぼく、もう20年ぐらい前から、
「ぼくは臆病です」って、
ほんとの気持ちをさらけ出してます。
やっぱり、そのほうが、
自分がらくになれるっていうのもあるし、
あともうひとつは、
そうだよ、人はやっぱり臆病だよね、
って思ってるから、そう言うのかな。
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- だから、みんな、臆病なんだよ。
そのうえで、やるときゃやるんだよ。
まぁ、だから、ぼくもやってきましたよ。
まー、よくやってきたね。よくやってきた。
- 糸井
- よくやってきたね(笑)。
- 矢沢
- ねぇ。
(次回が最終回、ヨロシク)
2019-06-19-WED
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN