矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 歌もうたって、ステージもやって、
お金のことも考えて、
矢沢永吉という人は、
ずーっと一所懸命だよね。
- 矢沢
- そうだねぇ(笑)。
でも、そういうことでいうと、
ちょっとぼくは一所懸命過ぎるね。
- 糸井
- はははは、真面目すぎる?
- 矢沢
- うん、真面目なのよ。
だから、そろそろね、
一所懸命も真面目もいいけど、
もうちょっとこう、力を抜いたもの。
そこをうまく出せるようになったら、
ぼくは歌手として、ミュージシャンとして、
もう1ランク2ランク上に
行けるんだけどな、というのは思うね。
- 糸井
- ふーん。それは、具体的にはどういうこと?
- 矢沢
- あのね、一所懸命は、時として、
やかましいとき、あるわけだ。
- 糸井
- あー(笑)。
- 矢沢
- それがようやくわかるようになってきたわけよ。
だから、もうちょっとね、なんつーのかな、
ここをこうしろ、もう少しこうしようって、
真面目に全部がんばるんじゃなくて、
「オッケー、オッケー」っていうところ?
「わかった、わかった、いいよ、好きにして」
っていうところがあると、
もうちょっと、もう一味よくなるのになぁ、
というのが、最近はわかってきた。
- 糸井
- あー、それはおもしろい話だね。
- 矢沢
- たぶん、むかし、ぼくのそばにいた人が
「ボス、ちょっと熱すぎない?」
って思ってても、ちょっと怖くて
言えなかったんじゃないかと思う。
- 糸井
- そう思うよ。
怖いって、勝手に思われてたと思う。
- 矢沢
- うん、だから、
これ言っちゃいけねぇだろう、って、
感じさせてたんじゃないかと、いまは思う。
なぜかといったら、本人はいつも
真面目に、一所懸命に、
「Let's Do It!」ってやってるから。
- 糸井
- 永ちゃんって、どの時代のどの写真も、
真面目で一所懸命で、怖いもんね。
- 矢沢
- ほんと、ほんと、どの写真も真面目だもん。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- でも、いまから10年くらい前かな。
ちょっとこの力を抜くことができたら、
もっといいのになぁ、
と思うようになりましたね。
- 糸井
- それは何かきっかけがあったの?
- 矢沢
- そりゃ、あーた、経験よ。
- 糸井
- (笑)
- 矢沢
- たとえば、わかりやすいところで言うと、
ミックスダウンの音を決めるときなんかでも、
この一所懸命な人間が何するかって言ったら、
ギター! っていったら、もうそこは、
ワッッバァーーーン! と来ないと
ギターじゃねぇじゃん、みたいな話で、
だから、ちょうどいい加減のところで、
クッと抑えてればいいのに、
もうちょっと、ほしいわけね。
- 糸井
- ああー。
- 矢沢
- スネアのカッ! っていうのも、
そのくらいでちょうどいいのに、
もうちょっと‥‥ほしいよね? って。
それで、あとでゆっくり聞くと、
全部やかましいのよ。
- 糸井
- ははははは。
- 矢沢
- うるさいの。ちょっとうるさい。
で、これ、ちょっとうるさいな、
って言うと、エンジニアが言うの。
「やったのはボスですよ」
- 糸井
- ああー(笑)。
- 矢沢
- だよね、って。
俺があそこ、ちょっと上げる、
ここ、ちょっと上げる、
それを2回も3回も繰り返すと、
そりゃもう、うるさいよ。
で、なんで俺は、こう、
もう一個ほしいんだろう、と思うんだね。
欲張りなのよ。もう一個ほしい。
- 糸井
- クソ真面目だったんだね。
真面目というよりは。
- 矢沢
- そ。で、欲張りなの。
- 糸井
- あー。
- 矢沢
- だけど、いまは、
さてここは欲張りになるのがいいのか、
ちょっと引く加減がいいのか、って、
ちゃんと考えるようになったんだよ。
あのね、ちょっと、引く。
加減って、よく言ったものでね。
これでいいんだ、というところは、それでいいの。
ちょっと引いたところっていうのは、
あとあと、飽きないんだよね。
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- あとあと聴いても、飽きないんだよ。
なんとも言えない、ふくよかなあの感じ。
ひょっとしたら、これ、
いま、音楽の話をしてますけど、
人生も、そうかもしれないよ?
- 糸井
- そう思うよ。
- 矢沢
- 人生もそうなのかもしれない。
ちょっとこう、ここにもう一個、
というところを、抑える。
抑えるところが、あとあと、
ちょーどいいバランスになる、みたいな。
- 糸井
- あの、ダムがあってさ、
ものすごく水が貯まってるわけじゃない?
でも、こんなに貯まってるから全部出す、
っていって全部出したら、
もう、ダムじゃないじゃん?
- 矢沢
- ん。
あの、あれ、調節してるんでしょ。
- 糸井
- ん‥‥これは、うまく伝わらなかったな。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- まぁ、まぁ(笑)。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- 俺さ、キャロルのときに、
バカだったなと思うのはさ、
ジョニー大倉がリードボーカルで、
「Just little boy
good all rock'n roll」
って歌ってるとき、
ハーモニーのところをぼくがやるわけだ。
それで、彼が
「ナントカカントカ!」って言ったときに、
俺も、負けずにマイクに向かって、
「ナントカカントカ!」
- 一同
- (笑)
- 糸井
- そう(笑)、デカい声なのよ!
- 矢沢
- 絶対、俺のほうがバカでかいの!
- 糸井
- それ、思ってた、思ってた(笑)。
- 矢沢
- 「ナントカカントカ!」
って彼が言ってるのに、俺が、
「ナントカカントカ!」
- 一同
- (笑)
- 糸井
- そうそう、そうそう。
- 矢沢
- ダメだ、ダメだ。
ハーモニーっていうのは、
メインが10だったら、
7ぐらいで行くからバランスがいいのに、
俺、13ぐらいで行く。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- それはね、永ちゃんね、ダメなんだけど、
キャロルはそういう個性だったと思うよ。
- 矢沢
- だから、それを個性にしちゃったのよ、もう。
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- そんなことばっかりやってた。
(そろそろ、ですかね。ヨロシク)
2019-06-18-TUE
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN