矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 「自分は歌だけ」というのでは長く続かない。
それを知ったのが永ちゃんにとって
すごく大事なことだったんだね。
- 矢沢
- 大事だね。
もう、キャロルのころから、うすうす思ってた。
何かがおかしい、って感じるんだよね。
歌が売れて、人気が出ても、何も変わらない。
この芸能界の仕組み、どうなってんだ? って。
- 糸井
- 若いころから、ずっと考えてる。
どうなってるんだ、って。
- 矢沢
- そういうことでいうと、悔しかったのは、
矢沢っていうのは、どっちかって言ったら、
イメージが先行くじゃないですか。
『成りあがり』だったり、不良だったり、
広島から夜汽車にやってきた、だったり。
もう、わかりやすいよね。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- それで悔しかったのは、
矢沢という存在が話題にはなるけど、
ぼくの音楽っていうのが、
二の次とか三の次とか
言いたくなるぐらいなんだよ。
わかりやすくいうと、みんなから
永ちゃん永ちゃん言われるけど、
当時、バカヒットってしなかったんですよ。
- 糸井
- あーー。
- 矢沢
- ぼくが、こんなにいいメロディー書いてる、
こんなにいいアルバムつくってる、
こんないいアレンジして
アメリカもイギリスも行って
いろんな連中たちとコラボしてやってるのに、
音楽は二の次の扱いになってる。
だから、もっと音楽聴いてほしい、
ってのは、ずっと思ってた。若いころはね。
- 糸井
- でも、いまはもう思わない?
- 矢沢
- うん、いまはもうやっとね、
なんていうのかな‥‥いま、だって、
『ALL TIME BEST ALBUM』なんて、
ずーーーっと売れてんだもん。
- 糸井
- ああ、それはそうだ。
- 矢沢
- いま、レコード売れない時代よ?
それが、3枚組のベストが
30万セットぐらい行っちゃうんだもん。
だから、たぶんぼくの
コアなファンじゃない人が聴いてるんだよね。
ふつうの、矢沢永吉って名前は知ってるけど、
音楽、別に聴いたこともないし、
ちょっと聴いてみようか、
ったら、ベスト買うよね。
たぶん、そういう人が
『ALL TIME BEST ALBUM』を聴いてんの。
だから、いまはもう、話題だけじゃなくて、
音楽もちゃんと聴いてくれてる。
- 糸井
- だって、野外フェスとか出ると、
一般のお客さんがものすごく集まるし、
楽屋がカラになるそうじゃない、
永ちゃんのステージのときは。
- 矢沢
- そうそうそう(笑)。
ロッキンオンジャパンで
俺、夏フェスって、はじめて出たの。
そしたら、主催者の渋谷陽一さんが
うれしそうに教えてくれたんだけど、
俺が出たとき、楽屋がカラになったらしい。
なに、どうしたの? って言ったら、
みんな客席のほうに回ったんだって。
- 糸井
- わかるなー、それは(笑)。
それまで、フェスは出てなかったもんね。
- 矢沢
- ま、ある意味、世間知らずだし、
矢沢、ちょっと頑固だから、
「夏フェス? 俺が出るわけねぇーだろ」
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- っていうのがあったんですよ。
- 糸井
- 「俺は俺」だから(笑)。
- 矢沢
- うん、俺は俺。
もうこのナルシストど真ん中の矢沢です、
ヨロシク、みたいな感じで、
俺がひと山いくらのフェスなんか出るか!
って言ってたの、ずっと。
- 糸井
- ところが出てみたら。
一般のお客さんも盛り上がるし、
楽屋もカラになるし。
- 矢沢
- 出て、思ったですね。
あー、もっと早く出りゃよかった!
- 一同
- (笑)
- 糸井
- たのしかったんだね(笑)。
- 矢沢
- あとね、そのあと、
ものすごい来たんだよ、レター。
それを渋谷さんがまた得意げに
うちに転送してくれたわけ。
「ヤバいよ、こんなに来てるよ」って。
で、読んでみたら、書いてる内容、全部一緒。
矢沢なんて聴いたことなかった若い子が、
こんなふうに書いてる。
「こんなチャンスでもなかったら
観る機会ないからって感じで観ました」
「え、矢沢?
あのコマーシャル出てるおじさん?
歌、うたえるの?」
「そしたら、1曲目でもうぶっ飛んじゃって、
気づいたらもう、これもんになってました」
っていう手紙ばっかりよ。
だいたい、二十代の若い子たち。
- 糸井
- ああ、その子たちは、
永ちゃんとあんまり接点がないかもね。
- 矢沢
- 世代なんかもう二世代ぐらい違うからね。
そういう子が、もうぶっ飛びましたとか、
なんでいままで観なかったんだろう、
みたいなことを言ってる。
だから、ひと山いくらのフェスなんて、
とか言ってる場合じゃねぇなと。
俺はここに出て、
アピールしないとまずいと思ったよ。
- 糸井
- やっぱり永ちゃんのステージって、
実際に観るとぜんぜん違うからね。
行かなきゃわからないものがある。
それはね、このあいだ横浜でやってた
永ちゃんの展示会(『俺 矢沢永吉』)に
行ってしみじみ感じたんだよ。
あそこに昔のステージ衣装が
飾ってあったじゃない?
あれ、マネキンが着てるとかっこ悪いんだよ。
で、そのとなりに実際の永ちゃんが
ステージで着てる写真ががあるわけ。
そっちはもう、ぜんぜん違うんだよ。
- 矢沢
- ああ。
だから、変えるんだよね、変わるんだよ。
- 糸井
- 永ちゃんが変えるんだよ。
あれ、なんだろう、観てる側の力じゃなくて、
永ちゃんの信念みたいなもんだよね。
- 矢沢
- ぼくがそう思って着てるからでしょうね。
これがかっこいいんだ、っていう。
で、そこに、なんか、
おふざけも何パーセントか、入り。
- 糸井
- ああー、そういう要素もちゃんと入れて。
- 矢沢
- 絶対あるんだと思います。
- 糸井
- たとえば、コンサートのときに、
ハーレーで入ってくるなんていうのは、
ちょっとおふざけだよね。
- 矢沢
- おふざけもちょっと入るし、
自分がおもしろがっちゃう気持ちもある。
同じ意味なんだけどね、
それで、もうやり切っちゃう気持ち。
見せきっちゃう気持ち。
- 糸井
- 矢沢永吉を、矢沢永吉が、
もう一段、上にあげてやるんだ。
- 矢沢
- そう。なんかねぇ、
ショーというものはその要素がないとダメ。
その要素がないと、おもしろくない。
- 糸井
- そうだ。ほんとに。
- 矢沢
- おふざけの気持ちもあり、
やり切っちゃう気持ちもあり、
見せきっちゃうところもあり。
それがショーというものであり、
そもそもファッションというものが
そういうものなんだと思うんですよ。
(まだつづきます。ヨロシク)
2019-06-17-MON
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN