矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 話を聞いていると、永ちゃんは、
自分が歌手だっていう意識が
すごく強いんだね。
- 矢沢
- だって、歌手じゃない(笑)?
- 糸井
- いや、ぼくらからすると、
矢沢永吉っていう人は、
「歌手」っていうところにとどまらないから。
その、なんだかわかんない人なんだよ。
- 矢沢
- ハッハッハッ!
- 糸井
- 「歌手も、やってる」みたいな感じ。
- 矢沢
- うん、歌手も、やってる。
歌手も、やってるし、会社も、動かしてるし。
- 糸井
- そうそうそうそう。
だから、なんだろう、
その、歌手であるというのは
植物の「花」の部分に見えるんだよね。
その下の根っことか茎の部分が、
「矢沢永吉」全体のなかにドーンとあって、
いろんなものを咲かせてる、というような。
- 矢沢
- ああ、そうかもね。
だから、たとえば、ぼく、6年半アメリカにいて、
帰ってきてすぐ赤坂にビル建てたよね。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- 2個目のビルも建てて、
スタジオとか、全部手を出していくよね。
だから、あれ、ふつう、
歌手っていうだけなら、そこまでやんない。
- 糸井
- やんない、やんない。
- 矢沢
- でもぼくはスタジオが必要だと思った。
- 糸井
- それが、根や茎になるからだね。
スタジオも、ぜんぶ含めて矢沢永吉なんだ。
- 矢沢
- そうそうそう。
- 糸井
- だから、犬で言えば、
「犬小屋ごと、犬」なんだね。
- 矢沢
- (手をパチンと叩いて)
‥‥いいこと言うねぇ(笑)!
(まわりの乗組員に向かって)
犬小屋ごと犬、だって。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- (笑)
- 矢沢
- イトイって、すごいね、やっぱりね。
「犬小屋ごと、犬」。
どっかで使おう、これ(笑)。
- 糸井
- いやいやいや(笑)。
- 矢沢
- まぁ、でも、そういうことなのよ。
ぜんぶ合わせて矢沢なのよ。
それは、イトイもそうでしょ?
自分でなにか書くだけじゃなくて、
「発信する場所」として、
このイトイ新聞が必要だったんでしょ?
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- 一緒なのよ。
だからぼくも、ただ歌うだけじゃダメなの。
歌うためには、いろんなものが必要になる。
それを自分以外の人に全部任せて、
誰かのいいようにされることはイヤだったんだね。
だから、自分の中に全部取り込んでいく。
自分の目で見て、自分で感じられるようにする。
わかるよね?
- 糸井
- うん。わかる。
- 矢沢
- そういうなかで歌を歌ってるから、
「歌手も、やってる」なのかもしれない、
でもね、ぼくは、こうも思うんだよ。
「歌手も、やってる」って、
矢沢の歌が好きなファンからしたら、
ちょっと待ってよ、と。
「歌手も、やってる」って、それさ、舐めてない?
と、思う人も少なからず、いると思う。
でもね、違うんだよ。
- 糸井
- 違う、違う。
- 矢沢
- 歌をうたうためには、
花だけじゃなく、幹や茎や根の部分もいる。
スタジオも、会社もうまくいってるからこそ、
歌がちゃんとうたえるんだよ。
だからね、ぼくは思うんだけど、
たとえば、サッカー選手でも、
ちゃんとお金や契約のこともやって、
「ぼくの足、いくらで買ってくれますか?」
ってやってる人のほうがいい記録出すと思う。
と、ぼくは信じてるの。わかります?
- 糸井
- うん、うん、うん。
- 矢沢
- ところが、我々日本人は、
「歌手も、やってます」っていうのは
ちょっと不真面目だというのが
カルチャーとして、あるわけだ。
だから、お金や契約のことはわかんないけど、
「歌にだけ、命かけてます!」
って言ってるほうがいいと思われる。
でも、それって、俺、イヤだから。
- 糸井
- ステージの上で、
心を込めて歌う時間をつくるためには、
ほかのいろんな心配事を
できるだけなくしたほうがいいんだよね。
だから、歌のためにも、
歌以外をしっかりやらなきゃいけない。
- 矢沢
- そうなの。あの、昨日ね、
ホイットニー・ヒューストンのライブ、
しかもデビューしたばかりのころの
ライブ映像を観てたんだけど、
もう、ほんと、ヤバいんだ。
この世のものとは思えないほどすごい。
やっぱり、世界ナンバーワンのボーカリストですよ。
でもね、彼女、晩年は麻薬で不幸な死を遂げるよね。
これ、いま、なんで急に、
ホイットニーの話するかっていったら、
彼女が歌だけじゃなく、ほかのこともやって、
「歌手も、やってます」っていうことだったら、
あんな死に方しなかったんじゃないかなぁ‥‥。
- 糸井
- あぁーー‥‥。
- 矢沢
- いや、わかんないよ? 本人じゃないから。
そんな簡単なことじゃないのかもしれない。
でも、ぼくはね、
あのすごい歌を聞いて、悔しかったんだよ。
こんなすごい人が
なんて終わり方したんだ。と思ったんです。
だから、ホイットニーに
「歌手も、やってます」っていう感覚があったらさ。
もっと長く、いい歌をうたえたと思う。
- 糸井
- なるほどね。
- 矢沢
- それじゃなくても、我々芸能人は、
ちょっと有名になってくると、
まわりからヨイショされて勘違いするじゃない?
- 糸井
- アメリカのスポーツ選手なんかでも、
あまりにも多くのお金を稼ぎすぎた人は、
引退後にかなりの確率で潰れちゃってる
っていうデータを見たよ。
- 矢沢
- そう、そっちに引っ張られちゃうんだよ。
- 糸井
- 永ちゃんは、どうしてなんないんだろうね。
- 矢沢
- いや、でもね、そんなこと言ったら、
ぼくだって、オーストラリアで
35億やられたじゃない。
- 糸井
- ああー、そうか。
- 矢沢
- いま思えば、あれは必要だったね。
- 糸井
- 高い月謝として。
- 矢沢
- あの事件が起きたときにね、
うちの嫁さんが、
ぼくを慰めるつもりかなんか知らないけど、
「あなた、これは、厄払いよ」って言ったからさ。
おまえふざけんなよ、バカヤロー、
厄払いにしちゃ高すぎるだろ!
って思ったんだけど。
- 糸井
- あの奥さんなら言うね(笑)。
- 矢沢
- 言うよね、あいつは(笑)。
ぼくは、そのときはふざけんなと思ったけど、
月日が経って、経って、経って、
70歳を迎えるいまになったらね、
ああ、たしかに、ぼくの人生において、
あれは厄払いだったかも知れないなと思うね。
だから、ぼくにだってありましたよ、
そういうものに引っ張られちゃうことは。
なんか知らねーけど、
あっちに行っちゃったんだもん。
ゴールドコーストに本気で俺、
音楽スクールのビルつくっちゃおうって、
本気で思ったもん。
- 糸井
- それが俺にもできるのかなぁ
っていう、うれしさがあったんだね。
- 矢沢
- あった。
だから、みんな一度や二度は、
ヨイショされて、のせられて、
ちょっと勘違いしちゃうんだね。
ただ、ぼくの場合は、
人に迷惑かけたわけじゃないからね。
もう、自分の問題ですから。
- 糸井
- ちゃんと借金も返したし。
- 矢沢
- そう(笑)。
(つづきます。ヨロシク)
2019-06-16-SUN
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN