第6回 死ぬのは無念だったと思います。
糸井 そんなふうにいろいろ探しているときに
「ひまわり」を今更みたいに観ました。
淀川 ソフィア・ローレンですね。
糸井 かみさんが前から
「ひまわり」が一番泣けるって言ってて。
「何だろう、それ?」と思ってたんですよ。
それこそね、ぼくはそういう、
ヨーロッパの映画、好きじゃないって
知ってるから、
「あなたは観ないでしょう?」
っていう言われ方をしてたんです。
で、‥‥こっそり観たんですよ。
淀川 (笑)。
糸井 そんなに言われるんだったら、
俺がつまんないっていう理由を
教えてやろうじゃないかと思って観たら、
もう‥‥感動しちゃって。
しかもほら、何て言うの、
女側なんだけど、
男側の悲しみが同時に描けているでしょう。
淀川 ええ。
糸井 で、ただ一面の、ひまわり畑。
ちょっと泣けてきます、言ってても。
淀川 (笑)。
糸井 たまらなかったですね。
ああいうのを探しては人にこう、
薦めてみたい気持ちがあるんですよ。
淀川 そしてやっぱり「旅情」ですよ。
糸井 「旅情」ですか。
淀川 うん、「旅情」。
「シェルブールの雨傘」「冒険者たち」
「旅情」も、他愛のない話なんですけども、
よき時代の映画ですよね。
映画観て、ほんとに良かったなって思える、
糸井 他愛もないですよっていうのは
知ってるんでしょうね、観客ってね。
知っているけど、その他愛のなさっていう、
シンプルな木のおもちゃみたいなものに
全てを込められるっていう、
精巧なプラモデルと
木で簡単に作ったしろくまの玩具と、
どっちが他愛もないかなんていうのは
分かりゃしないと思うんですね。
みんなが、リアリズムの方にいったり、
どれだけディテールが描けてるかって
言うんだけど、
それはその監督の趣味なんで、
その、他愛もないですよっていうところで
みんながどれくらい、
受け手として進化できるか。
淀川 はい、そうですね。
糸井 そういえばあれですよね、思えば美代子さん、
若い子が読む雑誌とか作ってたから。
淀川 そう。
糸井 そこのやり取りは
ものすごくなさってるでしょ、きっと。
ずっと編集の生活をなさってきて、
読んでくれる方と、
自分の考えとっていうのが
必ずしも一緒であるはずがないわけで、
で、そこで貰ったりプレゼントしたり
っていう繰り返しを
ずっとなさってたと思うんです。
その面白さみたいなものと、
淀川長治さんが映画について
テレビで解説してる面白さと、
もしかしたら共感できるのかな。
そういうふうに、
思ったことはないですか?
淀川 うーん、わたしは違いますね。
叔父は叔父で、
わたしなんかはもっと
下の方のものですので。
糸井 でも似たことですよね、思えば。
淀川 相手から受け取るっていうのは
わたしの場合は楽しんでもらえて、
買ってもらうっていうことだと思うんです。
単に、何冊買ってもらえたか、
っていうことで、
叔父の場合はもう自己完結じゃないですか。
自分がうまく、いかに映画の面白さを
伝えたかっていう。
誰がどこでどう喜んでくれたか、
っていうのは、あんまり。
視聴率とかたまに気にはしてましたけど。
糸井 あ、そういう、昔のご隠居さんの
道楽みたいなところが
同時にあったんですかね。
淀川 どうなんでしょう、
喋ることが好きなんです。
とにかく映画の話をする。
わたしなんかを相手に
もったいないからしなくていいのに、
すっごく、するんですよ。
篠山先生が一回写真、撮りたいって
言ってくださっていらしたときに、
少なくても二時間ぐらい映画の話を
してるんです!
篠山先生が「もったいないなあ、
もっと皆に聞かせたいなあ」
って(笑)。
糸井 はあ!
淀川 もうすっごく、話すのが好きなんですね、
映画の話をするのが。
糸井 それは何て言うか、
いい意味でアマチュアとも言えますね。
淀川 そうですね、だから多分、
死ぬのは無念だったと思いますよ。
糸井 ずっと映画の話を‥‥、
淀川 延々喋っていたかった、と思います。
ずーーっと。
ほんとに無念だったんじゃないのかな。
糸井 それって、一生‥‥として
すごく幸せですね。
淀川 幸せですよ。わたしもつくづく
叔父は幸せだと思います。
だって、50何歳から花開いて、
89歳までずーっと脚光浴びてるんですよ。
こんな言い方、変かもしれないですけど、
ずーっと、自分の中で、華やかだったんで、
とても幸せだったんじゃないかなって。
映画があったおかげだっていうふうに
思うんですよ。
糸井 死ぬのを残念だっていうふうに
最後に言える人って
やっぱりすごく幸せな人ですね。
淀川 叔父は言ってはいないですけど、
きっと思ってると思います。
糸井 そうですね、ずっと喋ってたかったって。
淀川 そう、ずーっと
喋ってたかったと思いますよ。
病院でもいつも喋ってましたもん、
病院でもビデオ持っていって、
これはどうのこうのって。
元気なときですけれどね。
糸井 (笑)そういうときは毒舌になるんですか?
淀川 いや、毒舌になりました!
だいっ嫌いな映画とかありましたしね。
糸井 そうですか。その、
病院の生活っていうのは長かったんですか?
淀川 いや、短かった。
2回ぐらい入院したんですけど、
えっと、最後は‥‥3ヶ月ぐらいです。
糸井 そうですか。その後で
花開くっていう人生についても
珍しい方ですね。
淀川 そうですね。後で花開くって
すごく理想じゃないですか。
多分その『映画の友』とか、
やってたときもこの人なりには
花開いていたと思うんですよ。
30代から50代まで。
糸井 でもみんなが聞いてくれるっていうのとは
違いますよね。
  (つづきます)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
当然ですが、淀川さんはお忙しいかたでした。
手帳はいつもびっしり埋まってましたね。
きょうはこの映画を観にいく、あしたは誰々の講演会、
あさっては映画の友の会‥‥。
映画に関わる人生としては
ものすごく忙しい人だったと思います。
頼まれると断れなかったんでしょうね、
講演の仕事もしょっちゅう引き受けていました。
お話の内容は、映画のこととは限らず
人生論なんかもよく話されていましたよ。
「きょうという日は、いましかないんですよ。
 だからこの日を大切にしなさいよ」というような具合で、
誰にでもきちんと伝わる、わかりやすい話しかたを
そこでもされていました。
とにかく、「やることがなくて暇だ」なんて様子は
一度もみたことがありませえんでしたね。
それだけ多忙なのに、
『日曜洋画劇場』のオンエアはかならず観るんですよ。
ご自分が映っているところをチェックするんですね。
さらに、テレビで放送されるほかの洋画もチェックして、
よそで自分の好きな名作が放送されていたりすると、
「なんで、あれをうちでやらないの!?」なんて、
スタッフに不満をもらしてました(笑)。
 
映画通は初めまたは終わりに流れ出る
出演者たちの名前を読み取って楽しむこと。
10数名の俳優たちの名前が出てくる
その終わりのほうで、
かつて有名スターだったリチャード・アーレンや
子役からすっかり中年太りの
ジャッキー・クーガンの名を
見つけてハッとなるお楽しみをどうぞ。
解説では、ときに、時間がないので
そこまで申しきれぬことがあるからです。
紙とエンピツを持って、
映画の中の言葉や会話を素早くメモしてみませんか。
「こう寒いと、人が恋しい」。
これは牧童が荒原の夜につぶやく独り言。
「いまあの人は高いところを綱で渡っています。
 叫ぶと落ちてしまいます」。
これは夫がほかの女に夢中になっているのを
近所のおかみさんが知って、
浮気している夫をしかりつけなさいと
妻君に忠告したときの妻君の返事。
「悲しいから泣くんじゃない。
 あんたは泣くから悲しいんだよ」。
元気のいい女が友人の泣いている女にいった言葉。
なんでもない一瞬の映画の中の言葉が
人生の諭しの言葉になることがあります。
家の中でごらんになっていると
ゆっくりメモができます。
しかも映画の見方に深みが生まれます。
夏はパンツひとつ、
冬はフトンにもぐり机にアゴをのせて見てはいかが。
あまりおすすめできませんけれど。
解説者がうまくしゃべったときは
手をたたいてやりましょう。
下手にしゃべったときは雑巾で
ブラウン管の解説者の顔を
ふいてやりましょう。
 
2007-08-20-MON
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