淀川 |
叔父がメジャーになったのはテレビで
「ララミー牧場」の解説してる頃。
その頃が一番、
いわゆるメジャーでしたね。 |
糸井 |
「ララミー牧場」。
なんだ、これは、と思いましたもん。 |
淀川 |
そうですよね。何かあの頃はちょっと、
恥ずかしくって! |
糸井 |
そのとき淀川さんは
まだ小学生とかですよね。 |
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淀川 |
そうですよ。もうすごい恥ずかしくって、
嫌だな嫌だなと思っていました。
だって町に出ると、
テレビに出ることが珍しい時代だったから
みんなが声をかけるんですよ。
いちいち相手するの! それがまた。 |
糸井 |
(笑)。 |
淀川 |
小学生とかまで相手して喋ったりして! |
糸井 |
あ、ボク、観てくれたの? みたいな。 |
淀川 |
無視してもいいってもんじゃ
ないんですけど、
それなりの対応でいいのに、
とことん長話したりするんですよ。
横浜の中華街に行ったときも
声を掛けてくださったかたと
ずっと話していて、
「もう二度とこの人とは外出しない!」
と思った覚えがあります。
もうすごく嫌だった。
そういう目立つことが嫌だったんで‥‥
それなのに「叔父さんのおかげで
みんなの人気になっていいだろう」
とかって言うんですよ。
何言ってるの! って。 |
糸井 |
(笑)。 |
淀川 |
でもわたしが社会に出てからは、
「淀川先生の姪御さんですか」
って言われて、
それはとても感謝しています。
相手の人の対応がちょっと変わるのを見て
親の七光りっていうのは
こういうことだなっていうのは、
ものすごくたくさん経験しました。
それがいいのやら悪いのやらですけど。 |
糸井 |
確かに、一緒に暮らしてたときの
映画環境の話とか聞くと、
人にはない何かがあるんだろうなと
思っちゃいますよね。
英才教育だもの。 |
淀川 |
映画に関してはそうなんですけどね。 |
糸井 |
だから、とっても卓球が
うまいっていうのと同じように、
みんなが尊敬するんじゃないですか。 |
淀川 |
ちょっと違いますねえ。
身に付いてはいませんから、わたしの場合。 |
糸井 |
どうして映画の道に
結局は行かなかったんでしょうね?
あまりにも同じだったから? |
淀川 |
いや、無理ですよ。こういう人がいて、
同じようなことをやるのは無理ですよね。 |
糸井 |
すごいものを見ちゃったから? |
淀川 |
じつは叔父の縁故で、最初、
映画会社に就職したんですけど、
やっぱりちょっと違ったんです。
叔父は、雑誌も好きで、
家にいっぱい雑誌があったんで、
それを見てて、
あ、雑誌がいいなと思って、
マガジンハウスの創業者の清水さんを
叔父がよく知っていたので
紹介してもらって入ることができたんです。
わたしの人生の大半は叔父のおかげです。
ほんとにもう、ほんとにそうなんです。 |
糸井 |
そういうきっかけがなかったら
なかなかそんなふうには
いかないですもんね。
いいとこが伸ばされたというね。
淀川長治さんはお年を召してから
どんどん有名になっていった方だから、
それこそコネクションは
すごくありますよね。 |
淀川 |
そうなんですね、すごく。 |
糸井 |
若い人がぽんと有名になったっていっても
いろんな人を知るわけに
いかないですもんね。 |
淀川 |
ま、知らない人はいないですよね。
相手が知ってくれてるんで、
それはすごくよかったんじゃないですか。 |
糸井 |
町歩いてて声かけられて相手する、
って、笑福亭鶴瓶さんとか、
時々いるんですよね。
林家三平さんという人が
やっぱりそうだったんですよ。 |
淀川 |
でもああいう人はね、
芸人だからいいんですよ。
叔父は芸人じゃないもん。 |
糸井 |
(笑)本人は芸人だと
思ってたかもしれないですよ。
接客業だみたいなつもりが
あったんじゃないですか? |
淀川 |
そうですね、やっぱりテレビに出てる以上は
そんな気取ってちゃいけないみたいなのが
あったんじゃないですかね。 |
糸井 |
多分誰も知らないと思うから
ちょっと解説をしておきますけど、
「ララミー牧場」っていう
西部劇の外国ドラマがあったんです。
それが大人気だったんですよね。
で、毎週普通の連ドラなのに、
解説が入るんですよ。
それが淀川長治さんだったんです。
それがあったんで、
日曜洋画劇場の解説っていう
流れがあるわけで。 |
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淀川 |
そうですね。 |
糸井 |
そういうことですよね。 |
淀川 |
はい。 |
糸井 |
だから、その登場人物の俳優の名前を
知ってたりするの、ぼく、小学生の時。
たとえば主人公はジェスって言うんだけど。 |
淀川 |
そう(笑)。ロバート・フラー? |
糸井 |
ね。 |
糸井 |
うん、淀川先生が、言うんだ。
(ちょっとモノマネで)
「ロバート・フラー、
先日、来日しましたね。
来たんですよね」なんて。 |
淀川 |
もう、来た時すごかったんですよね。
わたしもファンになっちゃって
会いに行きたくて
叔父が連れてってくれたんですが、
入れなかったです、ホテルに。
人、人で。 |
糸井 |
そうですか! |
淀川 |
今の、ヨン様じゃないけど、
ああいう感じで。叔父も、
自分も人気者になったつもりに
なっちゃって、何か喜んでました、すごく。
ロバート・フラー、ちょっと陰があってね。 |
糸井 |
ああ、陰があって。
ちょっとね、ちっちゃいんだよ。 |
淀川 |
そう、小柄で。
泣いちゃったんですよ、日本に来て。
ファンがあんまり来たんで、ビックリして!
アメリカではそんなこと
あり得なかったんですね。
テレビのああいう西部劇のドラマで、
主役がそこまでスターになることって。
聞いた話ですけれど、
カーテンのところでこうやって
泣いちゃったんですって、感激して。 |
糸井 |
いい話ですね。 |
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(つづきます) |