第7回 「ララミー牧場」から「日曜洋画劇場」へ。
淀川 叔父がメジャーになったのはテレビで
「ララミー牧場」の解説してる頃。
その頃が一番、
いわゆるメジャーでしたね。
糸井 「ララミー牧場」。
なんだ、これは、と思いましたもん。
淀川 そうですよね。何かあの頃はちょっと、
恥ずかしくって!
糸井 そのとき淀川さんは
まだ小学生とかですよね。
淀川 そうですよ。もうすごい恥ずかしくって、
嫌だな嫌だなと思っていました。
だって町に出ると、
テレビに出ることが珍しい時代だったから
みんなが声をかけるんですよ。
いちいち相手するの! それがまた。
糸井 (笑)。
淀川 小学生とかまで相手して喋ったりして!
糸井 あ、ボク、観てくれたの? みたいな。
淀川 無視してもいいってもんじゃ
ないんですけど、
それなりの対応でいいのに、
とことん長話したりするんですよ。
横浜の中華街に行ったときも
声を掛けてくださったかたと
ずっと話していて、
「もう二度とこの人とは外出しない!」
と思った覚えがあります。
もうすごく嫌だった。
そういう目立つことが嫌だったんで‥‥
それなのに「叔父さんのおかげで
みんなの人気になっていいだろう」
とかって言うんですよ。
何言ってるの! って。
糸井 (笑)。
淀川 でもわたしが社会に出てからは、
「淀川先生の姪御さんですか」
って言われて、
それはとても感謝しています。
相手の人の対応がちょっと変わるのを見て
親の七光りっていうのは
こういうことだなっていうのは、
ものすごくたくさん経験しました。
それがいいのやら悪いのやらですけど。
糸井 確かに、一緒に暮らしてたときの
映画環境の話とか聞くと、
人にはない何かがあるんだろうなと
思っちゃいますよね。
英才教育だもの。
淀川 映画に関してはそうなんですけどね。
糸井 だから、とっても卓球が
うまいっていうのと同じように、
みんなが尊敬するんじゃないですか。
淀川 ちょっと違いますねえ。
身に付いてはいませんから、わたしの場合。
糸井 どうして映画の道に
結局は行かなかったんでしょうね?
あまりにも同じだったから?
淀川 いや、無理ですよ。こういう人がいて、
同じようなことをやるのは無理ですよね。
糸井 すごいものを見ちゃったから?
淀川 じつは叔父の縁故で、最初、
映画会社に就職したんですけど、
やっぱりちょっと違ったんです。
叔父は、雑誌も好きで、
家にいっぱい雑誌があったんで、
それを見てて、
あ、雑誌がいいなと思って、
マガジンハウスの創業者の清水さん
叔父がよく知っていたので
紹介してもらって入ることができたんです。
わたしの人生の大半は叔父のおかげです。
ほんとにもう、ほんとにそうなんです。
糸井 そういうきっかけがなかったら
なかなかそんなふうには
いかないですもんね。
いいとこが伸ばされたというね。
淀川長治さんはお年を召してから
どんどん有名になっていった方だから、
それこそコネクションは
すごくありますよね。
淀川 そうなんですね、すごく。
糸井 若い人がぽんと有名になったっていっても
いろんな人を知るわけに
いかないですもんね。
淀川 ま、知らない人はいないですよね。
相手が知ってくれてるんで、
それはすごくよかったんじゃないですか。
糸井 町歩いてて声かけられて相手する、
って、笑福亭鶴瓶さんとか、
時々いるんですよね。
林家三平さんという人が
やっぱりそうだったんですよ。
淀川 でもああいう人はね、
芸人だからいいんですよ。
叔父は芸人じゃないもん。
糸井 (笑)本人は芸人だと
思ってたかもしれないですよ。
接客業だみたいなつもりが
あったんじゃないですか?
淀川 そうですね、やっぱりテレビに出てる以上は
そんな気取ってちゃいけないみたいなのが
あったんじゃないですかね。
糸井 多分誰も知らないと思うから
ちょっと解説をしておきますけど、
「ララミー牧場」っていう
西部劇の外国ドラマがあったんです。
それが大人気だったんですよね。
で、毎週普通の連ドラなのに、
解説が入るんですよ。
それが淀川長治さんだったんです。
それがあったんで、
日曜洋画劇場の解説っていう
流れがあるわけで。
淀川 そうですね。
糸井 そういうことですよね。
淀川 はい。
糸井 だから、その登場人物の俳優の名前を
知ってたりするの、ぼく、小学生の時。
たとえば主人公はジェスって言うんだけど。
淀川 そう(笑)。ロバート・フラー?
糸井 ね。
糸井 うん、淀川先生が、言うんだ。
(ちょっとモノマネで)
「ロバート・フラー、
 先日、来日しましたね。
 来たんですよね」なんて。
淀川 もう、来た時すごかったんですよね。
わたしもファンになっちゃって
会いに行きたくて
叔父が連れてってくれたんですが、
入れなかったです、ホテルに。
人、人で。
糸井 そうですか!
淀川 今の、ヨン様じゃないけど、
ああいう感じで。叔父も、
自分も人気者になったつもりに
なっちゃって、何か喜んでました、すごく。
ロバート・フラー、ちょっと陰があってね。
糸井 ああ、陰があって。
ちょっとね、ちっちゃいんだよ。
淀川 そう、小柄で。
泣いちゃったんですよ、日本に来て。
ファンがあんまり来たんで、ビックリして!
アメリカではそんなこと
あり得なかったんですね。
テレビのああいう西部劇のドラマで、
主役がそこまでスターになることって。
聞いた話ですけれど、
カーテンのところでこうやって
泣いちゃったんですって、感激して。
糸井 いい話ですね。
  (つづきます)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
1年に1回くらいでしたか、
強羅の温泉にスタッフみんなで行きました。
淀川さんはお風呂が大好きで、一晩に何回もはいるんです。
夜中にたったひとりではいるのはやっぱり危険だから、
スタッフが交代で様子をみにいくんです。
で、忘れもしない、僕がみにいったとき、
淀川さん、湯ぶねから出て風呂場の床に
ばーっと寝てるんですよ。
ちょっとのぼせただけだったんですけど、
あれは、びっくりしましたねぇ。
あと、プライベートなお付き合いといえば、
収録が終わったあと、かならずみんなで
食事にいきましたね。
焼きそばとか中華料理とか、うなぎとか。
淀川さん、うなぎがお好きだったんですよ。
一緒に遊びに行くというのはあまりなかったですねぇ。
淀川さんはお酒を飲まないし、ゴルフもしないし、
ギャンブルをするわけでもない。
ほんとに「映画」に集中してたかたですから。
一度ね、どこかでおしるこを食べたら、
それがたしか千円くらいしたのかな。
淀川さん、めちゃくちゃ怒っちゃって(笑)。
「もう二度とここには来ません」って。
映画以外のことには、ほんとに質素なかたでした。
 
ごらんになったあとはもう夜の11時前です。
それで11時から10分間、家族そろってパパの感想、
ママの意見、息子さんの感想、娘さんの意見、
中学1年生の仲間も加えて意見感想の交換を
おやりになることをおすすめします。
月一回の“その夜”と
決めておやりになってはいかが。
これはまたどこのコマーシャルがいちばん
テレビ表現がうまいか、の1分間ディスカッションを
家族そろってなさっても、
テレビ表現演出感覚の勉強になりましょう。
最初に原題が出るのを、素早くキャッチしましょう。
外国語に強くなる手段の一つになりますが、
これが映画のキーポイントになることを
知っておきましょう。
「日曜洋画劇場」を見ておりますと、
最後にプロデューサー圓井一夫とか
山田ゆみ子とか猪谷敬二とかいう名が出てまいるのは
ご存じでありましょうが、
はたしてこの“プロデューサー”とは
いかなることをしているのかご存じでしょうか。
じつはこの人たちは、この「日曜洋画劇場」の時間枠内に
見事な映画のオリジナルを傷つけないで収めるように、
10秒のカットでさえ3日がかりで試写を重ね、
カットする部分を決める大事な役目をしているのです。
そればかりではなく、声優の選択にあたっても
こまやかにその映画の中の俳優にぴったりの声、
エロキューション(話しぶり)の適役を
日夜考え抜いて選ぶ人たちなのであります。
まさに「日曜洋画劇場」の生死はこの人たちの
手中にあるといえるのであります。
だから今夜のはおもしろかったなァと思われたときには、
最後に出てくるプロデューサーの名を
素早くお目にとどめられ、
圓井さんがプロデューサーのときは安心だとか、
山田さんは女性ゆえ気を細かく遣っていてうれしいとか、
猪谷さんは大丈夫だとかと、御批評なさってください。
じつはテレビの洋画には
このような楽しみも隠されているのでありまして、
見終わられたあと、
やっぱり今夜は圓井さんだったなァと確認するのも、
楽しく、うれしく、おもしろい
「日曜洋画劇場」の見方です。
 
2007-08-21-TUE
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