音楽家の細野晴臣さんと
美術家の横尾忠則さんが出会ったのは
1976年あたりのことでした。
そこからはじまる長いつきあいで、
対談回数はお互い「最多」相手なのだそうです。
はじめて会ったその日に
「いっしょにインドに行こう」という話になり、
ともに病気になり、YMOを結成しようともしました。
濃く薄く、かなったりかなわなかったりの交流を経て、
それぞれの世界で伝説化しているおふたりが
いま考えていること、抱腹絶倒の思い出話、
どうぞたっぷりおたのしみください。
取材協力:堅田浩二
編集:ほぼ日
- 横尾
- 細野さんは晩年って感じ、
しないよね。
- 細野
- 横尾さんだってそうでしょう。
全然しないです。
- 横尾
- いやいや、全然するよ。
- 細野
- いいえ、人の弱った感じって、
わかるじゃないですか。
横尾さんにはそういうものはない。
弱ってないです。
- 横尾
- まぁ、そうかな。
- 細野
- 会ってない人でも、
弱ってる感じは伝わってきます。
そういうのは横尾さんには全然ないです。
弱ってない横尾さんを、
ぼくの10年先を行く人として
参考にしています。
- 横尾
- でもね、細野さん。
細野さんがぼくの年になった頃には、
世の中も10年進んでいるわけでしょう。
- 細野
- ああ、そうですね。
変わってますね。
- 横尾
- いままでの10年とこれからの10年、
時間の進み方も違うと思う。
だから参考にはならないよ。
これからの10年は、ぼくには想像できないです。
- 細野
- できない。ぼくもできないです。
- 横尾
- ぼくは向こうへ行って、上から
「ああ、細野さん、まだやってるな」
って見ますよ。
いろいろ変わるよね、これから。
ぼくは最近‥‥まぁ、
昔からこういう考え方なんだけれども、
人には宿命というものがあるじゃないですか。
- 細野
- うん。
- 横尾
- 生まれる前に決められた約束事があって、
その約束事に従って今生を生きるわけだけども、
それに対して運命というものも、またある。
運命がつねに宿命と並走しているわけです。
- 細野
- そうですね。
- 横尾
- 宿命どおりに生きれば、楽なんですよ。
だって約束されて、
ここに来てるんだからね。
ところが、運命がそれに「ノー」と言う。
宿命どおりに行ったらアカンということで、
いろんなことやってみたりするわけ。
それで具合が悪くなったり、商売失敗したりする。
ぼくは横着なところがあるので、
わりかし宿命に従っている。
そのかわり、なるようにしかならない。
いじくり回してなにかすれば
自分の力ですごいことができる、
この考えは運命論者のものです。
ぼくは宿命論者だから、なにもしない。
- 細野
- うん。その感じはぼくも持ってます。
ぼくは祖父がタイタニック号に乗って、
生きて帰ってきたでしょ?
- 横尾
- ああ、そうですよね。
- 細野
- 祖父はまだ若かったんですよ、30代で。
帰ってきたあとに、末っ子の父が生まれた。
もし海で祖父が死んでいたら、
ぼくはいないわけです。
それは宿命だと思っています。
ぼくにとっては、どっちかというと
「そっち」のほうが大きいんですよ。
だからぼくは
「ああ、なんだか生まれちゃったな」と思って
生きています。
- 横尾
- おじいちゃんがもし
タイタニックでそのまま溺れてたら、
細野さんはいま、ここに座ってないね。
- 細野
- そうです。
おじいちゃんは帰ってきて、
世間にいじめられました。
「なんで生きて帰ってきたんだ」ってね。
大きくなってそのことを聞かされて、
「え、ぼくは生まれてきちゃったのに」
と思ったんですよ。
- 横尾
- 細野さんを存在させるために
おじいちゃんは生き延びたんだ。
三島(由紀夫)さんは徴兵検査に行って、
はじかれて帰ってきたでしょう。
黒澤(明)さんも、はじかれた。
- 細野
- ああ、黒澤さん、
そうなんだ。
- 横尾
- そう考えると不思議なんだよ。
いまの日本は、三島さんがいたから、
こういう日本なんだ。
黒澤さんがいたから、
こういう日本なんです。
- 細野
- それはつまり、はじかれたことが
宿命ですね。
- 横尾
- そう。
彼らは徴兵に取られずに、
定められた宿命に従いました。
だけれどもね、いまは宿命という考え方は、
前近代的と言われます。
- 細野
- うん、そうだな。
いまはあんまり聞かないですね。
- 横尾
- でもいろんなことは、
科学でも運命でも解明できない。
解明したって、あんまり意味もない、
ろくなことが起こらない。
細野さんとだって、いままで
10回ぐらい対談やってるけど。
- 細野
- 宿命ですね(笑)。
- 横尾
- なぜかはわからないけど、そういうものでしょう。
もっと20回ぐらい
やってもいいかもしれないね。
10年後にまた、やりましょうか。
でも10年後はぼくはいないだろうから
細野さんひとりになっちゃうね。
- 細野
- いやいや、ひとりじゃ対談できないです。
10年後だと、
横尾さんは90越えてるんですね。
ぼくはいまの横尾さんと同じ歳。
いったいどうなってるんだろう。
- 横尾
- まぁ90になると、
いかにもじいさんって感じがするだろうな。
80の細野さんは、
きっとじいさんって感じはしないと思うよ。
- 細野
- いや、それはご自分のことでしょう(笑)。
いまの横尾さんは
おじいさんって感じはしないですよ。
横尾さん、制作はいまはどんなペースで?
- 横尾
- 1日に、描かない時間のほうが多いかもしれないね。
絵を描くのは面倒くさいんだよ。
もう飽きちゃった。
音楽はいいよね。
- 細野
- いやいや、音楽も面倒くさいです。
- 横尾
- ああ、そうか。音楽も面倒くさいね。
絵より面倒くさいだろう。
- 細野
- 面倒くさい、面倒くさい。
もう、スタジオに行かないです。
- 横尾
- そうですね、人を集めなきゃいかんし。
- 細野
- そのとおり。
- 横尾
- ぼくは生まれ変わったら、
もう絵なんか描きたくない。
- 細野
- え(笑)。それはおもしろいな。
- 横尾
- ぜんぜん違うことやりたい。
第一、生まれ変わりたくないよ。
- 細野
- うん。生まれ変わりたくないです。
休みたい。
- 横尾
- ああ、いいね。
(終わります。ご愛読ありがとうございました)
2021-08-28-SAT
※細野さんと横尾さんのこれまでの対談をまとめた本
(いったい何回分の対談を掲載しているのでしょうか!)が
近日刊行予定だそうです。
発売日が決まったら、
ほぼ日のTwitterなどでお知らせします。
『YOKOO LIFE』
横尾忠則(著)
糸井重里(聞き手)
1,320円(税込)
打ち合わせや旅のあいだのおしゃべりが、
宝もののようで、聞き逃がせなかった。
だから録音機をできるだけまわした。
どうおもしろいのか、説明はできない。
そんなふうにおそるおそるはじまった、
横尾忠則と糸井重里による
「ほぼ日」のおしゃべり連載は、
通な方々のあいだでじわじわと話題となった。
「あれ、本にすればいいのに!」
という声をいただくも、
編集方針について迷いに迷い、数年経過。
この記念すべきYOKOOイヤーに、
思い切って追加の対談を収載し、
奇跡のような本を誕生させます。
本になって、さらに宝もののような、
貴重な内容です。
2021年7月17日(土)→10月17日(日)
東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
2021年7月21日(水)→10月17日(日)
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
2021年7月17日(土)→9月5日(日)
丸の内ビルディング、新丸の内ビルディング
ジャケットとパンツを
2021年7月1日(木)から順次発売
ISSEY MIYAKE SHIBUYA(渋谷PARCO2階)、
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA、
ISSEY MIYAKE SEMBA、
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI、
ISSEY MIYAKE ONLINE STORE
(C) HOBONICHI