2021年の夏、東京では
横尾忠則さんの作品があちこちで見られます。
国内外の団体がここぞと力を出し合い、
類稀なる存在をあらためて知らしめる、
しずかで大きな芸術活動です。
ほぼ日もそのちいさな一端を担います。
吉本ばななさんは、
横尾忠則さんと糸井重里の対話の連載
「YOKOO LIFE」を、
気にいって読んでくださっていました。
いったい、どこがお好きだったのでしょうか。
そして、絵画や文学の果たしている役割とは。
- ──
- ほぼ日の菅野と申します。
横尾忠則さんと糸井重里の対話
「YOKOO LIFE」のコンテンツを
担当しておりました。
- 吉本
- はい、読んでました。
- ──
- 吉本ばなななさんが「YOKOO LIFE」の連載を
お読みになっていたこと、
横尾さんから聞いていたのですが、
‥‥それはほんとうなんですか。
- 吉本
- ほんとうです。
リアルタイムで読んでました。
- ──
- ありがとうございます。
もしも「おもしろい」と
思われていたのでしたらば、
どのようなポイントで‥‥。
- 吉本
- まず、ここは、
ほぼ日の記事にするときに、
なるべく残してもらいたいところなんですけど。
- ──
- はい(ごくり)。
- 吉本
- 私は古くから、
糸井さんと交流がありました。
子どもの頃からです。
- ──
- はい、糸井は吉本隆明さんご一家と、
家族ぐるみのおつきあいがありました。
- 吉本
- もちろん糸井さんが
天才なのは知ってます。でも、
「いったいなにが天才なんだろう」ということが、
私はずいぶん長い間、わかっていなかったんです。
それはべつに
「天才じゃないんじゃないか?」と思ってた、
という意味ではありません。
つまり、すごいということはわかっていたけど、
いったいどこが
「ほんとうのすごいところ」なんだろう? と
思っていたのです。
あの、ほぼ日の連載
「YOKOO LIFE」のすごかったところは、
糸井さんのすごさを、横尾さんが
引き出してるところだと思います。
- ──
- おお、おお。
- 吉本
- まるで「イトイライフ」のようでもあるんですよ。
- ──
- 「ヨコオライフ」は「イトイライフ」でもある‥‥。
- 吉本
- 横尾さんは、生きているだけで、
糸井さんのどこがすごいかを、
おのずと見せちゃっている。
それはものすごく印象的で、
ほかの誰にもできないことだと思います。
- ──
- もちろん、横尾さんは
すごい人であることは、
充分わかっているんですが。
- 吉本
- ええ。横尾さんはもう、
横尾さんですからね。
- ──
- あの対話は、糸井でないとできないということは、
ほぼ日のスタッフとしては
ひそかに思っていたところです。
でも「糸井重里のすごさが出ている」とは、
あまり誰も気づかないのではないでしょうか。
- 吉本
- いや、けっこう多くの人が気づいたと、
私は思います。
この書籍に関しては、ほんとうに
そこは見所だな、と思ってます。
これ、書籍になるんですよね。
- ──
- はい、なります。じつは横尾さんから、
「吉本ばななさんが、
これはおもしろいから本にしたほうがいいと
おっしゃっていたよ」
と教えてもらったことが、
書籍制作開始のきっかけで。
- 吉本
- 責任を感じます(笑)。
- ──
- いえいえ。私たちもやりたかったので、
背中を押してくださってありがたいです。
ばななさんが「本にしたほうがいい」と
思ってくださった理由は、なんでしょうか。
- 吉本
- 横尾さんって、
けっこうなんでもお話しされるようで、
じつはあんまり、そうでもないんですよ。
ご本人が「おもしろいと思っていること」と、
ほんとうに天才さが出ているところが、
ちょっとずれてたりもする。
聞き手が糸井さんで、ちょうどいいところが
表現できているんじゃないかと思います。
「YOKOO LIFE」ってね、
糸井さんがボールを投げても、
横尾さんからまったく返ってきてないところが
10箇所ぐらいあるんです。
私だったらなんとかして引き出そうとして押すか、
あとは話題を変えてしまうか、
やってしまいそうだけど、
糸井さんはそういうことをしない。
くじけないわけでもなく、流してるわけでもない。
すごいと思います。
- ──
- 「ほぼ隠し録り」だったということが、
影響しているでしょうか。
- 吉本
- それは関係ないような気がしてならないです。
しかも、ふたりやりとりのおもしろさに加えて、
横尾さんの話の中に、
これまで読んだことのないようなことが
出てくるじゃないですか。
美術界のビジネスのこととか、
あんなことを言う人、ちょっといないですよね。
あんなふうなほんとうのことを、
みんな言いそうで、言わないから。
- ──
- コレクターが「おもしろくない」と言うだけで、
美術の価値が一気に下がるという話ですね。
- 吉本
- そうそう。
話の飛び方もたまらなくおもしろいし、
やっぱりなにしろ、
糸井さんと横尾さんの
組み合わせが最高と思いました。
「最高!」って、連載時は毎日思ってた。
- ──
- ありがとうございます。
- 吉本
- 横尾さんに関してはもうね、
何回も書いているから
知ってる人もいると思うんですけれどもね──、
最初にお会いしたのは、対談だったんです。
そのあとまた別の仕事でおうちにうかがって、
そしてしばらく会わなくて、
別のパーティーのような場所で、
横尾さんをお見かけしたんです。
- ──
- はい。
- 吉本
- そのパーティーの席で、横尾さんは
奥様と並んで座っておられて、
猛然と、カナッペを召しあがっていました。
- ──
- (笑)
- 吉本
- まわりの人は、横尾さんがいるから
話しかけたくてしかたがないのよね。
だけど、ほんとうにおふたりで並んで、猛然と、
お寿司を食べるみたいな感じで、
ダーッと、並んでいるカナッペを食べていらして。
それを見て、なんだか
「やっぱりすっごいなあ」と思いました。
- ──
- すごく印象的なシーンですね。
すべてをあらわしているかのような。
- 吉本
- 「カナッペ食べてて、誰も話しかけられない」
という人って、すごいですよ。
しかもそんなときは、たいてい奥さまが
「あなた、みなさんが
話しかけたくていらっしゃるわよ」
なんてことをおっしゃるような気も
するんですけれども、そういうところもない。
なんだかすばらしかったのです。
- ──
- はい。すばらしいです。
- 吉本
- そのあと渋谷陽一さんに会ったとき、
「私、年を取ったら、
横尾さんみたいになりたいな」
という話をしました。
30代前半ぐらいの頃だったからね。
そうしたら渋谷さんが
「いやあ、ばななさん、ああ見えてもね、
横尾さんも大変みたいですよ」
とおっしゃったんです。
なんだかそれもまた、すごく印象に残ってて。
- ──
- ああ、渋谷陽一さんが。
- 吉本
- あれだけの人だから、
人間関係やお金のもめごともあるだろう、と。
パーティーで見かけた横尾さんご夫妻、
そして渋谷さんのその言葉が、
私のなかの横尾さんを象徴する、
エピソードです。
- ──
- 猛然とカナッペを食べてはいるけど。
- 吉本
- 自由そうに見えても、楽ではないんだ、と。
(明日につづきます)
2021-07-09-FRI
この夏、横尾忠則さんの作品が
東京のあちこちで見られます。
ほぼ日は渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」で
横尾忠則さんのお人柄や生活にスポットをあてた
展覧会を開催します。
また、みなさまからの熱い要望により、
連載『YOKOO LIFE』を
糸井重里との新規対談を加えて書籍化します。
みなさま、この夏、
『YOKOO LIFE』の本を片手に
「東京YOKOOめぐり」をなさってください。
(めぐった方には横尾只海苔をプレゼント!)
『YOKOO LIFE』
横尾忠則(著)
糸井重里(聞き手)
1,320円(税込)
渋谷PARCO ほぼ日曜日で
7月17日より注文販売。
7月21日より先行販売。
東京都現代美術館のショップ、
横尾忠則現代美術館、豊島横尾館で、
7月21日より先行販売。
ほぼ日ストア、全国書店で
8月3日より販売開始予定。
打ち合わせや旅のあいだのおしゃべりが、
宝もののようで、聞き逃がせなかった。
だから録音機をできるだけまわした。
どうおもしろいのか、説明はできない。
そんなふうにおそるおそるはじまった、
横尾忠則と糸井重里による
「ほぼ日」のおしゃべり連載は、
通な方々のあいだでじわじわと話題となった。
「あれ、本にすればいいのに!」
という声をいただくも、
編集方針について迷いに迷い、数年経過。
この記念すべきYOKOOイヤーに、
思い切って追加の対談を収載し、
奇跡のような本を誕生させます。
本になって、さらに宝もののような、
貴重な内容です。
「YOKOO LIFE
横尾忠則の生活」
会期/2021年7月17日(土)→8月22日(日)
11:00→20:00
会場/渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」
入場料/450(¥OKOO)円
主催/ほぼ日
協力/朝日新聞社
2021年7月17日(土)→10月17日(日)
東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
2021年7月21日(水)→10月17日(日)
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
2021年7月17日(土)→9月5日(日)
丸の内ビルディング、新丸の内ビルディング
ジャケットとパンツを
2021年7月1日(木)から順次発売
ISSEY MIYAKE SHIBUYA(渋谷PARCO2階)、
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA、
ISSEY MIYAKE SEMBA、
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI、
ISSEY MIYAKE ONLINE STORE
横尾只海苔
(よこおただのり)
プレゼントします。
横尾さんの描き下ろし直筆文字入り!
渋谷PARCOの「YOKOO LIFE」展入口で、
東京都現代美術館で開催する
「GENKYO 横尾忠則展」のチケット
(電子チケットの画面可)をご提示の方に、
横尾忠則書きおろし文字入り
「横尾只海苔」(ホンモノの海苔)を
プレゼントします。
※「横尾只海苔」はなくなりしだい配布終了します。
「GENKYO 横尾忠則展」チケットは
観覧前、後どちらも可です。
(C) HOBONICHI