ヨコオとイトイの THE エンドレス
 
第8回 隙間を見るほうがおもしろい。
糸井 ああ‥‥横尾さんの背中に
後光が出はじめちゃった。
横尾 うん。夕陽だね。
糸井 写真、撮りたいけど
こりゃうまく撮れないな。
横尾 夕陽がもうちょっと
上に上がったらよく撮れるよ。
‥‥‥‥あ、夕陽は上がらないんだった。
糸井 (笑)夕陽は下がるんでしょう、
下がるばっかりです。
横尾 あれは肉眼より
ちっちゃく写るからさ。
糸井 そうですね。残念至極。
横尾 撮れないんだよね、なんでか。
糸井 Y字路を撮った写真が、
ご自分の絵に似てるとは
思っていらっしゃいますか。
横尾 それは思うよ。
写真になってからはね。
糸井 彩度みたいなものが似てるんでしょうか?
横尾 絵に似てるというよりも──いまは逆に、
「こういうふうに描けばいいんだな」
というふうに思ってます。
糸井 はい。
横尾 今度描くときは、
こういうふうに描いてやろうかな、と思う。
空なんか、紫色使っていいんだ、みたいなさ。
糸井 写真が教えてくれるわけですね。
横尾 そう。
糸井 どうでもいい話ですけど、
この写真集はものすごく
価格が安いですね。
横尾 安いよ。
ふつうだったら、
まぁ倍とは言わないけど、
7〜8千円ぐらいはするでしょう。
糸井 こんなに頑張って3千円台って、
ぼくはその企業努力に頭が下がります。
横尾 がんばったよねぇ。
糸井 横尾さんがカメラを持って
写真を撮っていたのは‥‥たしか、
ジョージ・ハリスンを撮られた頃が
ありましたよね。
横尾 あの頃ね、けっこう撮ってた。
だけど、やめちゃったの。
ぼくは性格的に、カメラマンにはなれない。
糸井 それは、まずはめんどくさいから?
横尾 めんどくさいよ。
カメラを持つだけで、もう。
こういうのって、すごいめんどくさいこと
やってるんだよ。
糸井 写真を撮るために
立ち止まったりするのは、
横尾さんには向いてないですよね。
横尾 でもね、ときどき
スケッチみたいに撮ることはあるの。
ちいさいカメラでね、
「あ、おもしろいな」と思ったところで
一応、シャッター押すわけ。
糸井 なるほど。
横尾 シャッター押さないで
見てるだけだったら、
もうそれで済んじゃうでしょ。
押すと、なんだかそれが
自分のものになるような気がする。
それで「見た」ということになる。
糸井 それは、日記のようなことで。
横尾 自覚というのか、認識ができるんだね。
例えば、飛行機が飛んでますよね。
飛行機なんてしょっちゅう飛んでるんだけど、
電線と電線の間に、
飛んでる飛行機がはさまった瞬間、
バッと入ったりすると、
あ、すごいな、形がきれいだな、と思う。
五線譜に飛行機が
引っ掛かってるように見えるわけよ。
ぼくはそれを撮ります。
だけどそれを焼いて
もう一度眺めるということは
ぜんぜんない。
糸井 撮ったという合図だけが大事で。
横尾 そう。でも、
おもしろいと思うだけだと
次に見たもののほうへ
意識が移るから、忘れちゃうわけ。
写真を撮ればその瞬間は肉体化される。
糸井 横尾さんの目に見えてる、
そういった映像の材料というのは、
ぼくらよりずっと多いわけでしょう。
横尾 入ってくる情報という意味?
糸井 うん。
変だなとか、おもしろいなとか、
きれいだな、というものが
多いんじゃないでしょうか。
横尾 それは、糸井さんだって持ってるんじゃないの。
同じものを、同じ気持ちで見るかどうか、
それはわかんないけどもさ。
糸井 いや‥‥まず量が、
ぜんぜん違うんじゃないか思うんですよ。
横尾 それは一個一個、
確認しなきゃわかんないよ。
いくら長い距離歩いたって、
なんにも覚えてないこともあるし。
糸井 いや、おそらく、
目で見ることを仕事にしてる人が見るものは、
「違うものを見てるんじゃないかな?」
というくらい、分量が多いと思います。
横尾 まぁ、量は同じでも、
見方はちがうかもわかんないね。
たとえば、木を見るときは
一般的には葉っぱを見るけれども、
そうじゃなくて隙間の空の白い形を見ちゃう、
ということはあります。
隙間は空ですよね。
葉っぱがポジだとすると、隙間はネガ。
ネガの形のほうがポジよりも
はるかにおもしろいふうに見るとかさ。
こういうこと?
糸井 そうかそうか。
それをことばの話に置き換えると、
ぼくは、人が話している内容とは別に、
そこからしょっちゅう
ダジャレを思いついたりしちゃいます。
つまり、ことばの隙間を見てる。
横尾 そうそう。
そういうふうに、いろんな風景を
ちがうように見てるのは
あるかもわかんない。

(続きます!)
2009-11-30-MON
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