ヨコオとイトイの THE エンドレス
 
第9回 机の角が気になる。
横尾 糸井さんは、さっき唄ってた
歌謡曲の歌詞を全部覚えてるでしょう。
ぼくなんか、子どもの頃は覚えてたけど、
もうそんなの必要ないし、忘れてる。
糸井 自分でも、そういう記憶は
いいほうだと思います。
横尾 そういう記憶が、ぼくにはない。
糸井 ないですか?
横尾 ないない。
糸井 でも、たとえば誰かと会ったとき、
「こういう表情をした」
というようなことは覚えてるでしょう。
横尾 いや‥‥とにかく、ぼく
人の顔がね。
糸井 ダメなんですか。
横尾 ものすごく苦手なの。
ほんとにひどいんですよ。
糸井 そういえば‥‥表情の変化を
横尾さんはあんまり
描かれないですね。
横尾 マンガ描いたりしてる人は
描くのかわかんないけど、
ぼくは描かないですよね。
ぼくは絵描きさんの目で
ものを見てないんじゃないかなぁ。
かといって、なんの目で見てるのか、
知らないけどもね。
糸井 ぼくも横尾さんの目で、見てみたいです。
横尾 ははは、なにを言ってるの!
糸井 取り替えてみたい気がしますよ。
横尾 でもさ、糸井さん。
ものを見ててね──たとえばあそこに
かばんがあって、
ヒモがデレンとなってるでしょう。
あのヒモに関心持ったり、
興味持ったりしない?
糸井 ‥‥いまそう聞かれると、
持つかもしれないとは思いますが‥‥
横尾 ふだんぼくはね、
いろんな形とか、いろんな色とか、
そういったものに
すごく執着して見てしまうの。
たとえば、机の角に
ものすごく興味持ったりさ。
糸井 ぼくは、どちらかといえば逆に
執着しないように
気をつけていると思います。
横尾 ぼくは、いったん、
机の角に興味を持つと、
そこをすごく見ちゃうわけ。
それを絵と結びつけようとしてるのか、
わからないんだけどもさ。
こういうのは、
ことばで説明しにくいんだけども、
あの‥‥目が移動するじゃないですか。
移動して、あちこちに
ひっかかるわけでしょうね。
そして、ひっかかる時間が、
もしかしたらぼくはほかの人より
長いのかもしれない。
ふつうの人がちょっとだけ見て
過ぎているところを、
少なくとも1秒か2秒、
立ち止まったりしてるのかもしれないね。
糸井 きっと、そういうことが
横尾さんは多いんでしょうね。
ぼくらは、そこを
立ち止まらないようにしてるんでしょう。
横尾 やっぱり立ち止まらない?
それはえらい。座禅の精神だね。
去来する雑念に立ち止まったらダメなんです。
やりすごさなきゃ。
糸井 はい。立ち止まると、
整理がつかなくなっちゃう。
それが怖いです。
もしも机の角に興味があったら、
机の角が気になって気になって、
日常生活に影響が出ちゃうような気がして。
横尾 そんなにさぁ、精神的なものと
すぐ結びつけちゃうから
そうなるんじゃない?
糸井 あぁ、そうかな。
横尾 ぼく、そんなもの、
精神的なものと結びつけないよ。
糸井 色ぐらいのものだったら
「きれいね」で
おしまいにできると思いますが‥‥
横尾 それでいいんじゃないの。
糸井 だけど、机の角になると、もう
意味をこめられちゃって、ダメですよ。
忙しくなっちゃう。
ぼくはそういうタイプなんでしょうね。
横尾 そうね。そういうタイプの人は
物書きに行っちゃうし、
ぼくみたいなタイプは
ビジュアルのもので
表現しようとしちゃうのかもね。

(続きます!)
2009-12-01-TUE
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