第2回カーリナ

黒いジャケットをさらりと羽織り
赤いブラウスに 白いパンツ
サングラスをかけ 足元は朱色のパンプス 
きれいな白髪 しゃんと伸びた背筋
彼女が市役所に現れると空気が変わった。

『毎年クリスマスにはお揃いの
 このジャケットを着て 電話をするのよ』

この町の人達とはどこか違う
少し気取ったようにもみえたマダムが
頬をゆるませ エピソードを熱っぽく語りだす。
お直し依頼のジャケットはノルウェーの伝統衣装。

《カーリナ84才。ノルウェーに住む彼と遠距離恋愛中。
 詩人の彼は病院で寝たきりで会うことは叶わない。
 電話だけが2人を繋ぐ。年に一度 クリスマスに
 お揃いのジャケットを着て電話をすることが
 お互いのたのしみになっている。
 その彼は もうじき100才の誕生日をむかえる。》

カルストゥラ滞在 たった十数時間で 
映画にでもなりそうな 物語のある服に出会ってしまった
…濃い…濃すぎて身体がビックリしているのがわかる。
カーリナは彼と一緒に載った新聞のコピーを
ジャケットに添えて じゃあね と去っていった。
残念ながらその新聞からは ノルウェー人の
16才年上の彼とどのように出会い そしてなぜ 
離ればなれになってしまったのかはわからなかった。
けれど カーリナが “彼のこと” “彼とのこと ”を
誇らしく思っていることが
ありありと伝わってきて とても愛おしかった。

物語の濃さに対し お直しの依頼内容は
「もう長いこと着て汚れているし 
 丈も長いからカフス外しちゃっていいわ 」
という あっさりしたものだった。
え?いいの?カフスけっこう重要なのでは??
大切なジャケットにハサミを入れてカフスを外すと
埃や枯れ葉のようなものが はらはらと落ちてくる。
袖口を赤いパイピングテープで包み かがっていく。
その上から ザ・クリスマス!といった感じに
編んだ白いモコモコを縫い付ける。

お直しは終了。けれどこのジャケットのお直しは
ここからが始まりのような気がしていた。
この1セットのカフスを
そのままにしておくなんてことはできない。
ひとつずつ彼らに持っていてもらいたい。
それぞれにあっていそうな小物を考え作りだす。

雪深いカルストゥラの冬。
外を歩く時にも 耳元に彼のぬくもりを
感じられるよう カーリナにはイヤーマフを。
眠るとき 彼女の手のぬくもりを感じながら
夢の世界に入れるように 彼にはアイマスクを。
目の当たる裏地部分には 情熱的なカーリナが
きっといいそうな言葉を刺繍しておいた。

『 Unelmissani olen luonasi. 』
  ~夢で逢いましょう~ 


2014-12-25-THU

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