第6回サルメ
『こういう風に穴があいちゃったのって
どうやって直したらいいのかしら?』
サルメは亡くなった旦那さんからの
ロシア土産である 白地に鮮やかな花柄の
大判ウールスカーフを持って遠慮がちに聞いてきた。
なぜ遠慮がちにかというと 1つめに持ってきてくれた
ピンク色のセーターのお直しを わたしが断ったから。
10年前に若くして亡くなった娘さんのために
サルメが編み 薬で大きくなっていく体型に合わせ
親戚が丁寧にサイズを直したというセーターは
ついこないだ編み上がったように とてもきれいで
お直しする必要は 正直どこにも感じられなかった。
セーターの思い出を サルメが語れば語るほど
“お直しさせてください”と突然やってきた
どこの馬の骨とも知れぬわたしがそこに
手を加えてはいけないような気がしたし
きっと娘さんの話をしたかったんだよね?とも思い
『“お母さんが作ってくれたままがいい”
って娘さんも言ってるんじゃないかな…?』
と 感じたことをそのままに伝えると
『えー せっかくここまで車飛ばしてきたのに…』
と しゅんとしていたが 渋々了承してくれた。
数分後 “じゃあこっちは…?”
というよう持ってきたのが ところどころ
虫食い穴のあいた 先のスカーフだった。
編み物も縫い物も出来るし 絵も描くというサルメなら
自分でやってみるのもたのしいかもしれない。
『いっかい洗濯機で洗って 少し縮めたあとに
マニキュアで花を描いてごまかすのはどうかな?
マニキュアはホツレ留めにもなるしいいと思う』
おしゃれな彼女ならきっと明るい色のマニキュアを
いくつか持っているような気がして そう言うと
『わー!そうね それいいアイデアね!!』
と 目をまんまるくして きゃぴきゃぴする姿に
こちらもうれしくなって
『あ、そうだ 今度あなたのお家に行くから
その日までに あなたの描いた花にとまる
チョウとか虫を わたし編んでいきますね。
お互いどんな風に作っているか
想像しながら作業しましょう。』
と提案し わかれた。
10日ほどが経ち 家におじゃますると
素材からこだわっているのよ という
お手製のフィンランド家庭料理が
テーブルいっぱいに並んでいて驚いた。
ひとり暮らしのサルメがこんなにたくさんの料理を
作るのはひさしぶりだったのではないだろうか?
聞けばそうとうな手間ひまのかかる料理もあるようで
おもてなしに心から感謝しながら ぱくぱく食べた。
ずっと食べ続けていたいところだけど
そろそろ本題にも取りかからなきゃね と切り出すと
『えっと…全然できてないんだけど…』
モジモジしながらサルメが出してきた
スカーフを広げてみれば その言葉とは裏腹に
花だけではなく てんとう虫や蝶などの昆虫まで
しっかりと鮮やかに描きくわえられている。
『なんだよー やってるじゃん!!』
バトンタッチし 少し離れた部屋で
編んできたカタツムリやヘビや花を縫い付けていると
サルメはカンテレという楽器を手に現れ
わたしを応援するかのように おもむろに歌い奏で始めた。
2015-02-19-THU