第5回カティ
はにかみ屋で 照れた笑顔がとってもかわいいのに
『写真は絶対にイヤ!』と かたくなに拒否し
ちょっとでも写り込みそうになると
すっと身をかわし 少しふっくらした身体を
小さくする カティ。
わかる わかりますとも その気持ち。
カルストゥラ市役所が主催してくれた
わたしのお話会に ユヴァスキュラという
車で2時間半ほど離れたところにある都会から
わざわざ カティが持ってきてくれたのは
おばあちゃんのおさがりだというパジャマのズボン。
穴だらけだけど 肌触りの良さから手放せず
自分でお直ししては 着続けていたという。
その言葉通り 裏っ返すと白い糸や紺色の糸で
ところどころに 繕った跡がある。
なんだなんだ この気持ちは…
じんわりと胸と目頭がが熱くなって
こどもの頃に大事にしていたぬいぐるみに
再会したような気持ちで むぎゅっとしたくなる。
このかわいい子の 大事なパジャマをどう直そうか…
『やっぱりサルミアッキは好きですか?』
わたしはカティに聞いた。
『もちろん大好きよ!』
サルミアッキという強い塩味のする真っ黒い
グミのようなキャンディーのような お菓子のことを
日本人で好きだという人に ほとんど会ったことはないが
北欧の人は子供から大人まで ほんとうに大好きなようだ。
なぜ カティにそんなことを聞いたかと言えば
サルミアッキの形と パジャマの花柄が少し似ていたから。
ひし形のサルミアッキモチーフをいくつか編み
お尻のほつれた部分をふさぎながら
尻尾のように縫い付ける。
裾の切り替え部分の裂けたところには
昔ながらのサルミアッキの箱の柄を編み
ポッケにして縫い付ける。
『ここにサルミアッキを入れておいて
夜中にお腹が空いたら こっそり食べてね』
といって手渡すと 笑っているのか泣いているのか
顔をしわくちゃにしたカティが
懐かしいぬいぐるみを むぎゅっとするように
わたしを抱きしめるから わたしは照れてしまった。
2015-02-05-THU