横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- 横尾さん、こんにちは。
- 横尾
- どうもどうも。
- ほぼ日
- ええっと、手みやげを持ってきまして。
- 横尾
- それはどうも。なにかな?
- 糸井
- なんでしょうね、
横尾さんに持ってくる手みやげだからね。
- ほぼ日
- いや、すみません、ふつうの焼き菓子です。
- 糸井
- ああ、それはきっと、すごく考え抜いて、
そして失敗しているかもしれないね。
- ほぼ日
- マドレーヌです。
- 横尾
- ‥‥ああ。
- ほぼ日
- これは失敗しましたね、すみません。
- 横尾
- いや、「考えない」って、大事なことですよ。
もしかしたら考えたあげくの
傑作かもしれないけれども。
- 糸井
- つまり、横尾さんが
「あんこは最近胸焼けがする」と
ツイッターか何かでお書きになっていたから、
あんこを避けるかどうかを考えたんでしょう。
彼女は考え抜いたんです。
- 横尾
- 形としては、そっちだね。
で、それはマドレーヌなの?
- 糸井
- 歯にこう、カチッと詰まりそうですね。
- 横尾
- だいたい、これを見て、
ぼくは味がわかりますよ。
- 一同
- (笑)
- 横尾
- 糸井さんもわかるでしょ。
- 糸井
- わかります(笑)。
- 横尾
- 食べる前からわかる。
まぁ、いまはどちらかというともう、
わかったほうがいいですね。
- 糸井
- 食べものも印象派ですね(笑)。
じゃ、わかるなりにも、
フォークを入れてみようかな?
いただきます。
- 横尾
- (食べる)
うん、想像どおりだね。
- 糸井
- イメージどおりのストライクですね(笑)。
考え抜いてこれですよ。
- 横尾
- えらいよ、考え抜いて
想像できる味を持ってきたところが。
いまはあんこは控えてるんだけど、
糸井さんの作るあんこは、おいしいよね。
本当に上手だよ。
- 糸井
- 注文あれば、いつでも作りますよ。
- 横尾
- でも、お医者さんがね。
- 糸井
- ダメだって?
- 横尾
- ダメとは言わないけど、
ぼくはあんこを見ると食べちゃうからね、
まぁ、ちょっと控えましょう、という感じ。
あんこは疲れたときにいいというけれども、
本当はそうじゃないって、お医者さんが言うんだよ。
そういえば、あんこって、
開けて2週間ぐらい経って大丈夫だったら、
そこからなぜか腐らないよね。あれはなんで?
- 糸井
- たぶん、お砂糖漬けだからじゃないでしょうか。
羊羹もあまり腐らないでしょう。
- 横尾
- ああ、そうか。
- 糸井
- でも、ぼくが横尾さんに贈った
瓶詰めのあんこだったら、
手作りだし、2週間くらい経ったらもう
食べるのはよしたほうがいいですよ。
- 横尾
- いや、全部食べちゃったんじゃないかな。
朝食で食べちゃった。
あんこバターでね。
- 糸井
- じゃあ、お具合がよくなったら
またお贈りしますね。
横尾さん、最近のお加減はどうですか?
足のほうは?
- 横尾
- 足はね、骨折したんだけれども、
レントゲンの結果を見ると、お医者さんは、
骨はすでにくっついていると言うわけ。
1ヶ月に1回、レントゲンを、
これまで3回撮ったんだけど、
その結果、治ってると言うの。
でもぼくは痛いんです。
- 糸井
- じゃあそれは、
骨のせいではなく
脳のせいでしょうか?
- 横尾
- そうらしい。神秘だよね。
ほかの患者さんも次々と
「具合悪い」って入院してくるから、
病院からすると、ぼくには退院してもらいたいわけよ。
もう治ってるわけだから。
- 糸井
- 追い出したいんですね(笑)。
- 横尾
- 試しに退院してみたら、
こんなふうにグタグタになっちゃう。
- 糸井
- はぁあ。
- 横尾
- 医学の神秘っていうのかな、謎だね。
- 糸井
- 医学のことはよくわからないんですが、
「ま、こういうことだろう」
という部分でやってるところが
きっとあるんでしょうね。
犬や猫の病気でも、
「この病気ですよ」って、
ズバリ言われたことはないですから。
- (木曜日につづきます)
2017-09-04-MON
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN