横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 横尾
- うちの猫、すごい痩せててさ、
上から見てもムニャーっとなってるわけ。
病院に連れてって、注射を打ってもらったの。
そしたら元気になった。
お医者さんに聞くと、
うちの猫は年齢的に80歳ぐらいだから、
病気なわけではなく、
ちょっととぼけてるんだろう、って。
だから注射で即調子がよくなったんだね。
- 糸井
- 老猫は、徘徊しないんですか?
- 横尾
- 家の中しか徘徊しない。
- 糸井
- いま、その猫は元気なんですか?
- 横尾
- 元気さでいうと、
ぼくとどっこいどっこいの勝負だね。
お医者さんは
「いつでも尊厳死させますので」って、
メチャクチャ言うんだよ。
- 糸井
- 元気なら、いくらなんでも。
- 横尾
- うん、ぜんぜん苦しんではないんだからさ。
お医者さんは、命をものとして扱うね。
我々は、どうしても心理的なもので
判断してしまうけれども。
- 糸井
- そうかもしれないですね。
老犬老猫になってからも、愛情は湧きますし。
- 横尾
- 愛情ね。犬や猫はキャッチするよね。
愛情というより感情をキャッチする。
ちょっと優しくしてあげると、
体も積極的になるみたい。
だから「治れ、治れ」とか、
いろんなこと言って撫でたりしてると、
3日か4日で、
背中のゴツゴツに丸みが出てきたのよ。
- 糸井
- 横尾さんも、どこか、
かわいがってくれる人のところに、
撫でられにいきたいものですね。
- 横尾
- そうね。
- 糸井
- 按摩やマッサージはどうですか?
望むとおりの人がいて、撫でてくれるとか‥‥。
- 横尾
- でもそれは、マッサージであって、
愛撫ではないでしょう?
こっちが勝手に思ったとしても、
する側が「マッサージ」という概念を
持ちすぎてるからダメだよ。
- 糸井
- そうですね、優しさが足りないですね。
- 横尾
- 「これは愛撫なんだ、愛撫なんだ」
と、こっちが勝手に思えばいいのかも
しれないけれども、
相手がそういう気持ちになってないからダメ。
- 糸井
- 確実に、なってないですね。
- 横尾
- なるように仕向けてもダメでしょうね。
「この人を治してあげようという、
優しい気持ちでやると、
あなたもどんどん上達していって、
手から生命エネルギーが出るよ」
なんて言ってもさ。
- 糸井
- そう思っても、そのことを
その場で言うわけにはいきませんね。
- 横尾
- その場で言ってるよ。
- 糸井
- え? 言うんですか?
ええ?
- 横尾
- うん。
そんなもの、
最初から直接は言わないよ、
ほかの話題から、もっていかなきゃいけないんだよ。
- 糸井
- じゃあ、
「外は雨がふってましたよ」
とか?
- 横尾
- いや、雨じゃないよ。
雨じゃダメだよ。
- 糸井
- もうすこし心の奥に届く話題にするんですか?
- 横尾
- 天気の話って、老人しかしないよ。
- 糸井
- でもだいたい、お店をやってる人は
部屋に閉じこもってるから。
- 横尾
- ああそうか、外が気になるのか。
- 糸井
- 外の空気と一緒にお客が来るんで、
「まだ雨ふってました」という話題だと
いいのかな、と思いますよ。
- 横尾
- 商売と絡んでんだね。
- 糸井
- マッサージはひんぱんに行ってるんですか?
- 横尾
- マッサージは週1回。
しょっちゅうやってるって感じも嫌だから。
- 糸井
- それでも足は治らないでしょうか?
- 横尾
- だって、足のマッサージはしてないから。
- 糸井
- あ、そうなんですか。
- 横尾
- 足が悪いと運動できないから、
マッサージで体の運動を
してもらってるという感じ。
- 糸井
- 横尾さん、以前はけっこう散歩をしてましたよね?
- 横尾
- そうね、だからいまはあんまり散歩もできないね。
このアトリエから降りて、
川のところまで行くと、
ビジターセンターのテラスがあるんですよ。
テラスったってテーブルふたつぐらいです。
そこで自販機でココアかなんか買って飲むと、
太陽に真正面から当たるから、快適なんですよ。
- 糸井
- 寒い日は散歩はしないんでしょ?
- 横尾
- いや、寒い日も、その一画だけは角になってて
あんまり風が当たらない。
寒いよりも、お日さんのほうが暖かいの。
- 糸井
- このアトリエ、
高台ですごくいい場所に建ってますね。
何年前に建てられたんですか?
- 横尾
- もう30年ぐらい経つんじゃない?
でも、窓から冷気が伝わるから、
テントを張ってもらおうかと思ってるんだよ。
それから、窓をはずして、
あちら側の壁につけちゃおうと思ってて。
そうすると、太陽がバーッと入るでしょ。
太陽光線で絵が描けるわけ。
- 糸井
- 太陽光線で絵を描く。
- 横尾
- そう。
- 糸井
- いまの、カッコいいですね。
- 横尾
- 光線アートだよ。
- 糸井
- 太陽光線で絵を描く画家。
- 横尾
- 光線絵画っていうのかな?
- 糸井
- ちょっと豪華な気がしますね。
- (日曜につづきます)
2017-09-07-THU
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN