横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- ~夕食の場で~
- 糸井
- YOKOO LIFEというほぼ日の連載が、
妙に人気がありましてね。
- 横尾
- ぼくね、あそこに書いてあることを、
どこでしゃべったのか、何を言ったのか、
ぜんぜん記憶にないんです。
- 糸井
- 横尾さんがしゃべったまんまを載せてます。
- 横尾
- そうなの?
あれは創作で、つくったのかと思ってた。
- 糸井
- あんなのはつくれません。
- 横尾
- いや、なんか、つくれそうだよね。
- 糸井
- しかし、ああいう横尾さんの一面は、
意外とこれまで出てなかったですね。
- 横尾
- たしかに出てないね。
- 糸井
- おそらく話に「テーマがないから」です。
- 横尾
- テーマがなかったら
意味のないことをただ言ってるだけになりますね。
やっぱりものごとには、
テーマと意味がないとダメなんでしょう。
- 糸井
- 「ほぼ日」はなくてOKですので
安心してテーマのないことを話してください。
- 横尾
- これはもうね、
二十一世紀の文学ですよ(笑)。
そのうち文学全集に入ったりしてね。
- 糸井
- カレーをあたためて4日間食べる話が。
- 横尾
- あの話には目的もないし、何にもない。
ぼくは「何もない」ことは
とても大事だと思いますよ。
糸井さんは、新聞のインタビューでも、
よくしゃべっているけどさ。
- 糸井
- かたいことをしゃべってますよね。
- 横尾
- あれはかたくつくるんじゃないですか?
- 糸井
- そうかもしれませんね。
それこそ、意味をなるべく
載せようとしてくれるから。
- 横尾
- 意味のないことをしゃべると、
それを載せる側のほうは、
仕事した感じがしないでしょうね。
- 糸井
- そうでしょうね。
- 横尾
- (夕飯を食べるようすを見て)
糸井さんはおかずを
片っ端から食べるね。
- 糸井
- ええ。片づけていこうと思ってしまいます。
- 横尾
- 見事に平らげるね。性格が出てる。
- 糸井
- 性格の問題でしょうか。
- 横尾
- ぼくは未完。
プロセスだけが残ってる。
(ちょっとずつおかずがお皿に残っている)
- 糸井
- 食べ方は性格だったのか。
- 横尾
- ここでぜんぶの力を
使い果たしてしまったらダメなんですよ。
いつも余力を残しておかないと。
つまり、ネコ派の食べ方です。
だいたいいま、寝起きだから食べれないんだよ。
- 糸井
- 寝起きですか。
- 横尾
- うん。「うたた寝」起き。
3時にぼたモチ食べたから、
それもきいちゃってるのかもわかんない。
- 糸井
- 3時にぼたモチ食べて、うたた寝ですか。
- 横尾
- 1個は食べないよ、半分だけ。
- 糸井
- じつはいま、ぼくは
ゆでたまごを持ってるんです。
横尾さんもおひとついかがですか。
(袋からたまごを取り出す)
- 横尾
- 糸井さん、たまご屋さんをはじめたの?
- 糸井
- いやいや(笑)、
朝、よけいにゆでちゃったんで。
- 横尾
- 半熟なのかな。
- 糸井
- ええ。
よく混ぜると半熟具合がわかりますよ。
- 横尾
- お茶碗のごはんを半分減らして
たまごごはんにしよう。
- 糸井
- 殻をむくのがめんどうだから、やりましょうか?
- 横尾
- あ、これはパッとむけないやつか。
- 糸井
- やりますよ。
- 横尾
- いや、大丈夫です。
こういうことは
ちゃんとやらないといけないんだよ。
- 糸井
- そうなんですか。
- 横尾
- こういうちいさなことから、
生活感がなくなっていくらしいよ。
- 糸井
- ぼくは昔、横尾さんから
「生活をちゃんと大事にしてて、いいね」
と言われました。
- 横尾
- 誰から?
- 糸井
- 横尾さんから。
- 横尾
- そんな失礼なこと言わないよ。
- 糸井
- おっしゃいましたよ。
でも、ほんとうににそのとおりだと思います。
ぼくも生活を意識していますし、
横尾さんもそうだから、
いつもいいなと思っています。
横尾さん、醤油がそこにありますよ。
- 横尾
- うん。醤油ね。
- 糸井
- まぜて食べてください。
おいしいです。
- 横尾
- だけど、ああだめだ、水がなくなったね。
清涼飲料水がなくなったよ。
飲みものはいまここにお酒しかないんだよ。
近くにコンビニがあるといいのにね。
ぼくはコンビニが好きなんです。
- 糸井
- ここに来る途中、サービスエリアに寄って
いろんなものを買ってきましたから、
どうぞコンビニのように選んでください。
(袋を取り出す)
- 横尾
- 移動コンビニですね。
- 糸井
- そうです、ミーが移動コンビニです。
- 横尾
- 糸井さん、今度はコンビニをはじめたんですか。
- 糸井
- はじめてないですよ。
- (水曜日につづきます。月水金の連載です)
2018-02-19-MON
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN