横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 横尾
- 話がぜんぜん変わるけれどもね、
キムジョンウンのお兄さんが
マレーシアで殺されたでしょ。
トランプがあのお兄さんの息子を
アメリカに亡命させようとしていたらしいね。
- 糸井
- その話はどこから
横尾さんのところに来るんですか?
- 横尾
- 週刊現代。
- 糸井
- 週刊誌。
- 横尾
- 週刊現代を読んだだけです。
もうちょっとくわしいことが知りたければ、
みなさんも読んでください。
- 糸井
- (笑)
- 横尾
- アメリカにもどの国にも、
ぼくらが知らない裏の政府があるみたいだね。
国同士が裏で取引きをしてるんですよ、
それは我々にはわからないもんね。
- 糸井
- でも横尾さんは知っている、
なぜなら「現代」を読んでるから。
成城でネコの絵を描きながら。
- 横尾
- 週刊誌は、
女性誌も含めてほとんど読んでるよ。
- 糸井
- 自分で買いに行くんですか?
- 横尾
- 自分で買うという肉体行為がないと
身につかないんですよ。
一昨年だっけ、骨折して入院したでしょ。
そのとき、テレビ観ようにも
耳が聞こえないんだよ。
だから、字幕の入る番組以外は観られない。
しかたなしに病院のコンビニで週刊誌を買ってきた。
そのころはスキャンダルばっかりでしたよ、
スマップのスキャンダルとか、清原の問題とか、
毎週のようにスキャンダルが集中したわけ。
それがおもしろくなって、週刊誌を買い続けて。
- 糸井
- それまでは読んでなかったんですか?
- 横尾
- あんまり読まなかった。
「週刊新潮」だけは家に送ってくるから、
パラパラと見ていたんだけれども。
病院にいるとさ、もう退屈でしょうがないわけよ、
週刊誌しかないわけ。
あれがいちばんいい治療になる。
あそこには、仏教の世界がある。
- 糸井
- 仏教?
因果応報ですか?
- 横尾
- すなわち自業自得。
こんな簡単な法則がどうしてわからないのか。
この法則さえわかっていたら、
あんなスキャンダルは起こさないですよ。
スキャンダルを起こす人は、
「因果応報自業自得」に関心がまったくない。
そんなものはないと思ってるんじゃないですか。
- 糸井
- きっと「俺だけは大丈夫」と思ってるんでしょうね。
- 横尾
- そうでしょう。神はお見通しなんですよ。
我々はなんとなく体の中に
「因果応報自業自得」の感覚を
持っているものでしょう?
だからこそ、できることとできないことを
自分で区別できるんです。
けれども、週刊誌に載る人たちはできてないわけ。
週刊誌は仏教書ですよ。
- 糸井
- いま、だいぶ説得されました。
- 横尾
- 週刊誌を読んでみたくなったでしょう。
- 糸井
- 「食べれば太るよ」
「だませばつかまるよ」
なるほどなぁ。
- 横尾
- カルマですよ、カルマ。
- 糸井
- 因果応報の法則があるにもかかわらず
「自分だけは逃げられる」と思うのはなぜだろう。
宝くじを買うときに、
「当たるような気がする」というのと同じですね。
- 横尾
- 要するに、もうひとつ、
上から見る視点がないのよね。
- 糸井
- 横尾さんはそういう視点を
いつから意識しはじめたんですか?
- 横尾
- どうかねぇ。
うちの両親は、
すごく熱心な神道の信者だったわけよ。
- 糸井
- 神道だったんですか。
- 横尾
- 黒住教です。
朝起きて、太陽があがるでしょ。
パンパンと手を叩く、日拝する。
それだけしかないんだよ。
そして、「清潔にすることが心を浄化する」といって、
朝から晩まで家の掃除ばっかりしてるわけ。
畳に何かこまかいものが落っこってると
拾って捨てるし、
新聞紙も足で踏んだりしない。
つまりアニミズムなんです。
ものに精霊が宿ってるという考え方が
生活の中に溶け込んでるわけ。
- 糸井
- うん、うん。
- 横尾
- 子どものころ、外で立ち小便したときなんかはさ、
おしっこがいろんな虫や草にかかったりするから、
「何もかもごめんやす」と言ってしなさいと
両親は言ってたね。
そういう影響を多少は受けてるかもわかんない。
因果応報は仏教だから、
そういう思想はなくても、
なんとなく「ごめんやす」はあったかなぁ。
- 糸井
- そうなんですねぇ。
それと髪が黒いこととは関係ないんでしょうけど。
- 横尾
- うん。
髪が黒いのは、これ黒住教だから。
- 一同
- (笑)
- (月曜日につづきます)
2018-02-23-FRI
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