同じ東京大学で解剖学と薬学を追究し、
それぞれ「脳」を研究してきた
養老孟司さんと池谷裕二さん。
おふたりはいつからかつきまといはじめた
ある思いを拭いきれないでいます。
2019年5月15日に「ほぼ日」から発行する絵本
『生きているのはなぜだろう。』を前に話す全14回。
途中で質問をはさむのは、ほぼ日の担当、菅野です。
生きものの定義は‥‥そうです、「生きていること」!
第13回同じという概念。
池谷ぼくはよく、
「多様性の違い」ということについて感じています。
ひとくちに「多様」といっても、
「ダイバーシティ」と「バラエティ」の
2種類があります。
ダイバーシティのように、
幹があって派生する多様性については、
ぼくは大好きなんです。
けれども、バラエティのように、
ごった煮みたいな多様性はダメです。
──何が違うんでしょうか。
池谷バラエティには幹がないんです。
とりあえずみんな一緒くたにして多様じゃん、
みたいなことになってる。
養老「好きじゃない」という気持ちはよくわかります。
そういうとき、ぼくが感じるのは、
「美しいかどうか」ということです。
池谷そうですね。木って美しいんです。
幹があるんですよ。
養老それって大事なことです。
自然界のように
「省エネで落ち着いてる場所」が
人間にとっても美しいんですよね。
池谷審美眼のようなものでしょうか。
羽生善治さんは
「AIは美しい手を打ってこないんだ」
とおっしゃってました。
──へぇえ。
池谷将棋でもチェスでも、
人工知能に解かせると、考えることなしに、
しらみつぶしに計算して証明します。
だから強い。
それをリスペクトしたうえで思うのは、
やっぱり「美しくない」ということなんです。
養老コンピューターが数学の問題を
いじりはじめたときに、
プロの数学者たちが
「高エネルギー数学」って言ってましたよ。
──いっぱい計算しつくすから。
池谷コンピューターは、
進歩には貢献してるんですけどねぇ。
養老ぼくら育った時代には、
矢野健太郎さんの『エレガントな解答』が
流行ってました。
エレガントは省エネで、きれいなんです。
コンピューターは、力まかせ。
高エネルギーです。
池谷そういえば、脳って
とことん省エネなんですよね。
1日わずか20ワットぐらい。
──それはとっても暗い電球ですね。
池谷1か月ずっとつけっぱなしでも、
電気代にして400円ぐらいで、
脳は動くんですよ。
養老虫なんかもっとすごいよ。
見えないくらいの小さな脳味噌で、
けっこう立派なことをしやがりますよ。
池谷虫の神経系の凄さって、はんぱじゃないです。
だってサナギから成虫に変態するとき、
神経張り直すなんて
アクロバットなことをやってる。
あれも美しいです。
──いろいろわかったつもりでいたけれども‥‥。
養老ほんと、人間ってわかったつもりでいる。
池谷でも人間は、ここまで来るあいだに、
いろんなことをたくさん試してきましたよ。
養老人間って、
いちばん形を変えてきた生きものだと思います。
5億年前は、おそらく
シーラカンスに近かったわけです。
シーラカンスがなんで
こんなになっちゃうんだよ、ってことですから。
──シーラカンスから、5億年でここまで。
養老シーラカンスはシーラカンスで、
そのままいるわけですよ。
「俺、変えたくない」って奴らがいたから、
あれはあれで生きてる。
人間はどんどん変えていって、
変えていくことを戦略としてきた。
池谷人間は、まだ試作品ですよね。
養老当然、試作品です。
池谷未来に向かって進化してる途中です。
5億年先の人が、
「当時の人類ってこんな形してたんだ」
って、驚くかもしれない。
養老そうそう。
──顎より脳を取って、
変化をよしとしてきた生きもの。
3原色を手に入れ、言葉を手に入れ、
時間と空間を軸にものごとを認知している。
そして、記憶があるから、
ものごとを前に進む方向でしか考えられない。
池谷結局、ぼくらの人格も、すべてが記憶なんです。
朝起きて、昨日の自分と今日の自分が
一貫した同じ人間だと
どうしてわかるかというと、記憶があるからです。
養老ほんとうは、「俺は俺だ」というのは、
「究極的に同じ」というふうに
言うしかないんですよ。
──『生きているのはなぜだろう。』を読むと、
なにをもって自分とするの?
ということも心配になります。
池谷そんなことを考えているのも
人間の大人だけかもしれませんよ。
発達の段階で、
いつから「私」が芽生えるのかも
気になるところです。
人間は、鏡を見て「私だ」とわかるのは、
1歳半だと言われています。
でも、「あのときの私」と「いまの私」が
同じかどうかはわかっていないと思う。
「個」としての自分を確信するのは、
1歳半ではないと思います。もっとあと。
養老ぼく、カニクイザルを飼ってたことがありますけど、
鏡見せたら、後ろを探しましたね。
仲間がいると思ったんだね。
池谷うちの犬もわかってないです。
犬も訓練すれば
鏡の中にいるのが自分だということは、
わかるようになるらしいですけれどもね。
鏡にうつったものを認識できたり、
写真のお母さんを「お母さん」と
認識できたりするのは、
たぶん、人間の、かなり独特なものです。
猿もわかるのでしょうか。
養老ぼくは「動物には同じという概念がない」という
意見ですよ。イコールがない。
猿にとっては、
「a=b」と「b=a」は違う。
池谷人間にとって
「a=b」と「b=a」が同じというのは、
ごく自然です。
この同一視は、数学的には、
まちがってるんですけどね。
──写真にうつっている人はお母さんで、
お母さんは写真にうつっている人で。
養老それを「交換」と言うんです。
レヴィ・ストロースという人が、
「人類社会は交換からはじまる」と言っています。
交換ができるのは人だけなんですよ。
だから、人間にとっては
「イコール」が大事なんです。
池谷等価交換ができるってことですね。
──経済はぜんぶそのしくみですね。
養老等価交換は同じの2乗なんです。
等価は同じでしょ?
交換も同じで、同じの2乗。
同じが1個もない動物に、わかるわけねぇだろって。
だから、猫に小判って言うんですよ。
池谷そうですね(笑)。
ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。生きているのは
なぜ
だろう。
この本には、答えがあります。
『生きているのはなぜだろう。』を
学校の理科の先生にプレゼントします。
『生きているのはなぜだろう。』は科学の分野から
人が生きている理由を示そうとする本です。
絵本の形をとり、本文はふりがなつきですが、
子どもたちだけに向けた本にはしあがっておりません。
巻末に池谷裕二さんによる
2ページ半の解説もついておりますが、
この内容を理解するためには、雑談やおしゃべりを含めた
大人の助けが必要になることもあろうと思います。
そこで、小・中・高校の理科系の先生がたに、
この本を抽選でさしあげたく思っております。
当選は20名さまです。
ご希望の方は、下記の案内のとおり、
メールでお申し込みください。
当選の方には5月14日までにメールでお知らせします。
※当選した本のお送り先は学校宛とさせていただきます。
※同じ学校の方が重なって応募された場合、
ひとつを当選とさせていただきます。
※メール本文にお名前や住所を書く必要はありません。
メールの件名 | 生きているのはなぜだろう。理科の先生応募 |
---|---|
メールの宛先 | present@1101.com |
メール本文 | 学校名 |
応募締切 | 2019年5月12日(日)24:00 |
当選の方にはほぼ日から
住所をおうかがいするメールを差し上げます。
落選のご連絡はいたしません。
『生きているのはなぜだろう。』を
授業で教材として使用したり、
生徒さんとのおしゃべりで
どんな話をしたのかなど、
お聞かせいただければとてもうれしいです。
ご応募お待ちしています。