第1回絵本の世界は広いから。
- ヨシタケ
- こんにちは、ヨシタケシンスケです。
今日は『MOE』の40周年記念の
5人展の記念イベントで‥‥といいつつ
今日は私1人ですが(笑)。
皆さんを代表して
「ありがとうございます」と
お伝えしたいと思います。
なぜここに糸井重里さんがいるかというと、
昨年『MOE』でヨシタケシンスケ特集を
していただいたんですね。
そのとき対談してくれたのが糸井さんで、
今日も一緒に話してくださることになりました。
- 糸井
- じゃあ、何の話から‥‥というと、
お世辞かというくらい強い言葉で
『MOE』を褒めますけど。
- ヨシタケ
- はい(笑)。
- 糸井
- まずは『MOE』があってよかったです。
というのも、たぶん
『MOE』がなければぼくは、ヨシタケさんや
今回の5人展の皆さんと
いまのようなかたちで出会えてないですから。
『MOE』のジャンルを
何と言えばいいのか分かんないんですけど
‥‥何と言えばいいんですか?
- ヨシタケ
- 実は今回5人展に入れていただいてますけど、
ぼくも初めて絵本を出したのが
5年前なんです。
まさか自分が『MOE』に載る側になるとは
思ってなかったほうなので、
ジャンルを説明できる立場じゃないんですよ。
ぼく自身、5年後にはもう
いないかもしれないですし。
- 糸井
- 『いないかもしれない』って絵本を出して、
いなくなるかもしれない(笑)。
- ヨシタケ
- かもしれない(笑)。
- 糸井
- 『MOE』のジャンルの話に戻すと、
たとえばもしこれが
「文学がテーマの雑誌」だったら、
もっとわかりやすいですよね。
「イラストがテーマ」とか
「芸術がテーマ」でも分かりやすい。
だけどこの『MOE』は、
絵本がテーマというものの、
何でも飲み込みそうな感じがあるんですよ。
「かわいい」だけかと思ったら、
「ちょっと怖い」も当然あるし、
どのようにいまに至ったかはわからないけど、
でもおもしろがれて、という雑誌ですよね。
- ヨシタケ
- そうですね。
- 糸井
- ぼくはミヒャエル・ゾーヴァさんの
『ちいさなちいさな王様』っていう絵本も
好きなんですが、
あの本を読んでみようと思ったきっかけも、
たしか『MOE』なんですね。
- ヨシタケ
- ぼくもあの本、大好きです。
- 糸井
- そしてヒグチユウコさんとか、
酒井駒子さんとか、
イラストレーターでもマンガ家でもないし、
じゃあ絵本作家かというと、
本人たち自身も
「わたしはそう断言していいんだろうか」
という感じがある。
そういう独自の才能を持った人たちが
『MOE』という大きいお皿には
ドドドドッと入っているんですよね。
その感じがぼくは大好きなんですけど。
- ヨシタケ
- そう、『MOE』って懐が深いんですよ。
もし『MOE』がほんとに
「10年以上続けてる絵本作家じゃなきゃダメ!」
みたいな雑誌だったら、
ぼくはまったく関われてなかったと思います。
- 糸井
- そうですよね。
- ヨシタケ
- そして最近わかってきたのが、
『MOE』の持つ懐の深さは、
実はそのまま「絵本」自体の
懐の深さでもあるらしいぞと。
- 糸井
- はい、はい。
- ヨシタケ
- 変な言い方ですけど、前は自分にとっては
「絵本」というと、もっと「ちゃんとしたもの」
というイメージだったんです。
- 糸井
- そのイメージはぼくにもありました。
どこか「教育」の匂いがしてね。
別に言われてないけど
「何かを感じ取りなさい」と
強制されてるような。
- ヨシタケ
- そうなんです。だからぼくは最初に
「絵本を書いてみませんか」と言われたとき、
まあできる気がしませんでした。
絵本ってほんとに
「子どもとは何か」「教育とは何か」
「子どもに与えるべきものが何か」
といったことへの答えを持ってる人でないと、
描いちゃいけないと思っていたんです。
- 糸井
- ちょっとそんな気がしますよね。
- ヨシタケ
- だから、ぼくみたいな人間が
参入できる業界じゃないと思っていたんですね。
さらにぼくは絵に色をつけるのも下手だし、
絵もちっちゃいし。
- 糸井
- 確かにヨシタケさんの絵は小さい(笑)。
- ヨシタケ
- ちょっと話が外れますけど、
今回5人展をやって、びっくりしたんです。
全員の原画展ですけど、
ほかの4人の方々の原画には
「緻密なタッチ」とか「キレイな色」とか
それぞれ見所があるんです。
だけど自分のコーナーを見たら
「うわ、小さい‥‥」という
感想しか持てなかったんです。
だから皆さんにも今回は
「うわ、小さい!」とおもしろがってもらう
しかないなと思ったんですよ。
- 糸井
- 小さいってつい、価値が少ないみたいに
扱われやすいんですよね。
実際にはまったくそんなこと
ないんですけれども。
「大きなカンバスに大胆に描いてる」
なんて言われると、
人間が豪胆に思えたり(笑)。
- ヨシタケ
- いや、だけどぼくも、そっちのほうが
そりゃあ喜ばれるだろうと思いますよ。
やっぱりぼくも、絵本作家は
そうあってほしいと思ってましたから。
- 糸井
- ヨシタケさんでも(笑)。
- ヨシタケ
- そして自分のことを思うと、
ほんとにそういう絵本作家の姿から
かけ離れている気がするんです。
たまに作業場の取材とか来てくださるんですけど、
いつも申し訳なくてしょうがないんです。
アトリエでもなんでもなく、普通の仕事机で、
A4のコピー紙に向かって肩をちぢめて
描いてるだけですから。
「そういうのを撮りに来たわけじゃない」
とか思われてそうで。
- 糸井
- イーゼルとかあると、
雰囲気が出るんでしょうけど。
- ヨシタケ
- そういうの、何もないんです。
絵本作家のアトリエって、道具が散らばっていて、
絵の具だらけのエプロンを着て
出てきてほしいじゃないですか。
ぼく、まったくそんなことないんです。
- 糸井
- 「絵本」とか「作家」というと、
つい作品じゃないところでも
仕事のイメージから離れた純粋さや
伸びやかさを期待されたりするんですよね。
- ヨシタケ
- そうなんです。
‥‥あ、いまスライドに仕事場が。
- 糸井
- 出してもらってよかったです。
- ヨシタケ
- これ、写真だと広めに見えますけど、
広角レンズを使って壁に頭をくっつけて撮って、
やっとこれなんで。
- 糸井
- ってことは、
ちいさなコンテナがひとつあれば、
ヨシタケさんは絵本が描けるんだ。
- ヨシタケ
- そう、もっと言うと、
A4の紙が横に置けるスペースがあれば、
ぼくは絵本が描けちゃうんです。
‥‥あ、「絵本が描ける」は言いすぎですね。
色つけ前の絵本の原画ができるという。
- 糸井
- お世辞的に言うと、そのぶんだけ頭の中に
広い世界があるわけですね。
- ヨシタケ
- 前向きに捉えていただけるならば、
そういうことなんです。
この広さでも、楽しんでいただくことは
可能な場合がある。
- 糸井
- そして、そういうタイプの絵本作家である
ヨシタケさんの特集が組まれるほど、
絵本の世界は広いともいえますね。
- ヨシタケ
- そうなんですよね。
(つづきます)
2018.08.02 THU