第2回願わなかったからこそ叶うことがある。
- 糸井
- だけどヨシタケさんの絵は小さいから、
「壁画を描け」とか頼まれたら困りますね。
- ヨシタケ
- そうなんです、困るんですよ。
だけど先日「ほぼ日手帳」のカバーが
完成したのをきっかけに、
ほぼ日さんの「TOBICHI」で
展示をさせていただいたんですが、
壁面があったんです。
- 糸井
- そうだ(笑)。
- ヨシタケ
- 打ち合わせのときに、スタッフの方から
「ヨシタケさんは絵を描く仕事ですよね」
と。
「ええ」と答えますよね。
そうしたら
「ギャラリーの壁が一面あけてあります。
どうぞご自由に、
のびのび思いのまま描いてください」
と言われまして。
「えっ‥‥そりゃあもう」っていう、
どれだけその言葉がうわずったか。
- 糸井
- ほかの部分はヨシタケさんの絵を拡大して、
パネル展示などをしてましたけど、
ナマで描ける場所があったのが運の尽き(笑)。
- ヨシタケ
- 「白い壁があるんですよ。
皆さん、いろんな方が壁に直接ナマで
描いてくださるんですよ。
ヨシタケさんも、ね?」
みたいな感じで「ああー」みたいな。
そのときの生返事っぷりったるや、
この場の皆さんにも
お聞かせしたいぐらいだった(笑)。
- 糸井
- でも、それなりに大きく描かれてましたね。
- ヨシタケ
- 頑張りました。
そのとき分かったのは、壁に描くのって、
まあ難しいんですね。
学校の先生が黒板にすらすら書くのは、
独特なスキルということがよくわかりました。
ぼくは泣きそうな顔でやってました。
- 糸井
- そんなことさせて、申し訳なかった。
- ヨシタケ
- いやすごくね、やりがいがありまして。
勉強になりました。
- 糸井
- これでもう、次に同じ仕事ができますね。
- ヨシタケ
- ええと、まあ‥‥そうなんです(笑)。
逆にそんなことでもないと、
ぼく、新しいことをやらないですから。
ほんとうに保守的で
「新しいことは嫌い!」
とか言っちゃう人間なんで。
新しいお店とかぜったい行かないですし。
- 糸井
- 朝ごはんは、毎日同じものを食べる
ようなタイプですか?
- ヨシタケ
- そんな感じです。
「前例がないとダメ!」とかって。
- 糸井
- 依頼されると「しょうがないな」と思って?
- ヨシタケ
- そうですね。
とはいえ外から新しいものが来ると、
やるんです。
「せっかくいただいたお仕事なので
チャレンジさせていただきます」
が基本姿勢なので。
そうやってやったら、
それなりにはできるんですよ。
- 糸井
- それ、もう証明されてますね。
- ヨシタケ
- ただ、そうやって
「なんとかできるね」「えらいね」
「頑張ったじゃん」とはなるんですけど、
だからといって自分からは
とくに新しいことにチャレンジしない
という限界があります。
- 糸井
- それは流れに任せて、いい感じにやってきたと
いうことでもありますよね。
- ヨシタケ
- まぁ、よく言えば。
- 糸井
- 実は昨日、一見正反対みたいに見える
芸術家タイプの横尾忠則さんと
長い時間しゃべったんですが、
結局、ヨシタケさんと
横尾さんの言っている内容は同じでした。
- ヨシタケ
- ‥‥ええ? 皆さん、聞きました?
今日はこのフレーズだけ
覚えて帰っていただけたらと(笑)。
- 糸井
- 横尾忠則とヨシタケシンスケは同じ。
共通して言えるのは
「自分から何かやりたいと思ったことはない」
「頼まれるからやる」
「流れに任せてやる」
「なんかあんまり考えないでやる」。
‥‥で、
「途中でやめようかなと思ったらやめる」。
- ヨシタケ
- なるほど。そうですね。
- 糸井
- だから『MOE』のヨシタケさんの特集で、
絵を描こうか悩み続けて結局描けない
「描こうかなマンガ」があったじゃないですか。
ぼくはあれが大好きなんですけど、
横尾さん、あれに近いことを繰り返し言ってます。
- ヨシタケ
- ほんとですか、やったー。
- 糸井
- 横尾さんってアトリエにいる時間が
すごく長いんです。
だからみんな横尾さんのことを
「アトリエにずっとこもって働き者だ」
と思うんです。
だけど本人曰く
「家にいてもしょうがないし、
アトリエにいれば仕事をしてるって思われるし、
何もしてなくてもいいじゃない。
だからまあ、何もしないで
ここにいることも多いよ」って。
- ヨシタケ
- (笑)そうですよね、そうなんですよ。
「何をするか」じゃなくて、
ただ「どこにいるか」の話であって。
- 糸井
- 似たような話で、
会社にいると仕事してると思われやすいから、
みんな労働時間を長くするんですよね。
- ヨシタケ
- そう、そしてなぜ会社を休めないかというと
「自分がいなくても仕事が回ることが
証明されるのが怖い」と。
- 糸井
- そう、横尾さんも同じこと言ったし、
ヨシタケさんも同じこと言うんですね(笑)。
- ヨシタケ
- そっかー。
- 糸井
- よく「なにかを成し遂げるには意欲が大事」
とか言うじゃないですか。
「俺はやるぞ!」みたいな。
横尾さんにも、ヨシタケさんにも、
そこはないですね。
- ヨシタケ
- ないです、ないです。
ぼくに関しては、すべてを
怒られたくない一心でやってますから。
お仕事をくださった方に怒られないように。
- 糸井
- 何かをするときに、目的を設定して
ゴールに向かうやり方もあるけど、
目的があると速く行きたくなるし、
立ち止まったり、
脇の景色を見たりできなくなる。
目的がないことで、驚くような風景に
出会えることもあるんですよね。
- ヨシタケ
- ぼくはやっぱり絵本でそれを
実感したというか。
ぼくはほんとに
「絵本作家になれると思ってなかったからこそ、
いま絵本を描かせていただいてる」
という感覚が、すごくあるんです。
願わなかったからこそ叶うことがある。
そういう人もいるんですよ。
- 糸井
- ああー。
- ヨシタケ
- もちろん、目的を掲げてがむしゃらに
「ネバーギブアップ!」
と掴みとる喜びもある。
けれども、世界には実はもうひとつ、
「流されて流されて、
目的がなくて行き着いた場所が
そこそこおもしろい」
という生き方の人もいるっていう。
- 糸井
- わかります。
ぼくもそういうことを肯定したいんですよね。
小学校のとき、絵がうまいやつが
「ちょっと似顔絵描いて」とか言われて描いて
「お、いいね」とかなるじゃないですか。
その似顔絵に目的なんてないけど、
あれ、描くほうも描かれるほうも
ちゃんと嬉しいわけで。
- ヨシタケ
- そうなんですよ。
- 糸井
- そして、そういう得意なことで
人が喜んでくれることを重ねていけば、
それはもう「プロ」ですよね。
- ヨシタケ
- そうですね、仕事って結局
誰かを喜ばせたことの対価ですから。
別に目的がなくてもいいんですよね。
(つづきます)
2018.08.03 FRI