「世界よわいの会議」
〜よわいかも座談会〜

 


『よわいかも座談会』
第1弾:糸井重里さん
連載 第3回め


イトイ「あと、僕、美容院を経営してる人と
    話したことがあって。
    で、『お痒いとこ、ございませんか?』
    とか、
    美容師さんの、
    ああいうセリフがあるじゃない?
    あれに、僕は指導したんですよ、一回
    『ぜんぶお客が、 「ハイ」だけですむような
     質問の仕方にしてくれ』
    って」
ソブエ「それは、楽チンかも!」
イトイ「でしょう?
    で、それはね、一時は なってたのよ。
    とにかく、ぜんぶ『ハイ』って言うと、
    一通り終わるっていう」
ソブエ「すごーい」
イトイ「でも、最近ね、やっぱりこう、
    何回も何回も洗う子も変わってくから、
    そうとは限らなくなったけど。
    …一昨日髪切りに行ったばっかりなんだけど、
    あの、どんな質問も、ぜんぶ『ハイ』で、
    『ハイ』じゃおかしいって質問も、
    『ハイ』で済ましたの。
    …『お痒いところございませんか?』
     って言われて、
    『ハイ』はおかしいよね。だけど、
    『無いです』っていうのを、
    『ハイ』っていうのに気持ちのほうを変えて、
   …『ハイ』と」
MM 「あ〜、ニュアンスを込めてね」
イトイ「そう。
    しかもあれね、表情がないんだよ。
    タオルを顔に被ってるから」
MM 「そうそう」
イトイ「あとね、頷きも、ないんだよ(笑)」
MM 「タオルが、落ちるといけないからね」
ソブエ「下手に顔動かすとね、ズレちゃうしね。
    そうするとまた、…直させるのも悪いしねぇ。
MM 「そうなんだよね、うん」
ソブエ「なんだか便利だね〜。
    …でも、よく考えると
    ちょっと困ったお客さんかも?」
イトイ「あの、咳が出たいときに、
    タオル被ってるとき、どうする?」
ソブエ「咳が出たいとき?
    口をつむってするかな?」
イトイ「俺、そういうときね、
    『すいません、咳が出るんですけど』
    って言っちゃう(笑)」
MM 「あれ、どうなんでしょうね、
    やってるほうは。
    別に、咳されて、フッてタオルが落ちたら、
    新しいのに変えればいいくらいにしか
    思ってない気も…」
イトイ「うん。
    単純にそうなんでしょうね」
MM 「向こうは、どうとも思ってないんだろうけど、
    でも、これは自分に掛けてくれたもんだから、
    落とすわけにはいかないっていう(笑)」
イトイ「そうなんです。そうなんです」
ソブエ「…あと、やってもらってるうちに、
    ちょっとずつズレていくのが
    わかるときがあるね。
    あれも、気をつかっちゃうぞ」
MM 「そう。
    片目が、ちょっと出てたりするんだよね」
ソブエ「要するに、顔を覆ってるのが落ちないように、
    顔をそのままにして、
    微動だにしないのがいいんですけど、
    …でも、それは難しい」
イトイ「難しい。
    それで、相手が気づいてくれる人だったときに、
    もう、メッチャクチャ嬉しいよね。
    あのズレを直してくれる人」
MM 「そうそうそうそうそう。
    ぜんっぜん知らない子だけど、
    『いい子だ。』とか思ってね(笑)」
ソブエ「『嬉しいなぁ。うん、よく気がついてくれた』
    って思うよね」
イトイ「でも、あれって、
    関西の美容院では、
    『お痒いとこ、ございませんか?』
    って言ったら、
    絶対に言うんだって」
MM 「『(痒いとこ)ある』って言うんですか?」
イトイ「『もっと前の方を強く』とかね。
    痒いとことか言うのが当たり前の文化圏では、
    『ハイ』で済ませるっていうのは、
    違うらしいよ。
    で、いちいちそこで応答しないと、
    シャンプー代っていうのは、
    入ってるわけですから」
MM 「あぁ、料金にね」
イトイ「うん、おかしいらしいですよ、
    その文化圏では。
    でも、シャンプー代取られてても、
    なんか、『ハイ』ですませたい(笑)」
ソブエ「美容院では、なるべく思考停止のまま
    すごしたいかもね…」



これまでの『よわいかも座談会』

連載 第1回め


連載 第2回め

2003-07-23-WED

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