- ──
- 根本さんのつくる「生きもの」って、
実際には存在しないのに、
眺めていると、
「ひょっとしたら、どこかにいるのかも」
という気がしてくるからふしぎで。
- 根本
- あ、それはうれしい感想です。
- ──
- つまり、その、存在している感じ?
まだ人間に見つかっていないだけで、
絶海の孤島の山奥とかに、
こういう生きものが
人知れず暮らしてるのかも‥‥って。
- 根本
- ずっと、いるようでいない動物を
テーマに制作してきたので、
そう感じてもらえると、うれしいです。
子どものころから
動物図鑑が好きで見ていたのですが、
なかには、
わりとギリギリな感じの動物って、
けっこういるなぁって。
- ──
- ギリギリ?
- 根本
- えっ、こんなの、ほんとにいるの?
‥‥みたいな(笑)。
- ──
- あー、うんうん。いますよね。
いなそうなのにいる生きもの。
神さまも無理やりだなあみたいな。
- 根本
- わたしの場合は、
こんな生きものがいてもいいよね、
みたいな気持ちで、
勝手に提案してるのかも(笑)。
- ──
- この部屋にいるのは、
犬っぽい生きものばっかりですね。
- 根本
- はい、ここ最近は、
野良犬をテーマに制作していました。
でも、どんな変な耳をしてようが、
どんな変な口をしてようが、
これは犬ですと言われたら、
犬に見えてきちゃい‥‥ませんか。
- ──
- はい、ディテールとかバランスが、
どこか妙な感じだけど、
たしかに犬以外には見えないです。
実際の犬と並べてみたら、
いろいろ違うのかもしれませんが。
- 根本
- 空想の動物ではあるんだけど、
生きものの雰囲気を入れてあげると、
ぐっと気配が出てくるんです。
- ──
- 「雰囲気」で、「気配」が。
- 根本
- 生きている兆し‥‥というか。
そういうものを足すと、
急に「存在してくる」んです。
- ──
- その、生きものとしての雰囲気とか、
生きている兆しって、
具体的に言うと、何なんでしょうか。
- 根本
- たぶん、皮膚のたるみとかシワや傷、
そういう「生きてきた痕跡」が、
重要なんだろうなと思ってはいます。
昔、シーズー犬を飼ってたんですが、
年をとって、認知症になって、
ヨボヨボになっちゃって、
片目も緑内障になった状態で、
最期までしっかり生き抜いたんです。
- ──
- わあ。がんばった。
- 根本
- そう、その姿を見てたら
「生きるって、こういうことなんだ」
と教えられた気がして。
- ──
- なるほど。
- 根本
- たとえば、山に住んでる野良犬って、
飼われている犬みたいに、
かわいいって感じじゃないですよね。
- ──
- そうでしょうね。むしろ‥‥。
- 根本
- 傷だらけだし、目つきはすごいし、
牙はするどいし、
よだれは垂らしてるだろうし、
ところどころ毛がハゲていて‥‥。
- ──
- ガルルとか言っちゃうイメージで。
- 根本
- ノミなんかもいっぱいついていて、
怒ったら噛みついてくるとか。
で、そうやって、生きてるうちに、
傷ついたり、ハゲたり、
たるんだり、シワがよったりして。
- ──
- そういう「痕跡」こそが、
生きものの雰囲気や、
生きている兆しを感じさせる、と。
- 根本
- 以前「皮」をテーマにして、
シワッシワの生きものばっかりを
つくっていた時期があって。
そのとき、ちょうど、
祖母の介護を手伝っていたんです。
- ──
- ええ。
- 根本
- 最後、家で亡くなったんですが、
そのときに
「おばあちゃんは、
自分の身体を使い切ったんだ」
って感じたんです。
で、それが「いいな」と思って。
- ──
- いやあ、でも「使い切る」って、
なかなか大変ですよね。
ボールペン一本にしたって、
最後まで使い切るって、難しい。
- 根本
- ですね。クリームとかも。
- ──
- だからこそ、気持ちよさだとか
憧れを感じるんですかね。
何かを「使い切る」ってことに。
- 根本
- そう、おばあちゃんの姿を見て、
わたしも、
自分の身体を使い切りたいって、
そんなふうに思ったんです。
- ──
- 作品をつくるまえには、
「ラフスケッチ」のようなものを
描いたりするんですか。
- 根本
- 描かないです。先に描いちゃうと、
そのイメージにとらわれて、
動きが出にくくなっちゃうんです。
- ──
- じゃ、手を動かしながら、
この造形が生まれてくるんですか。
- 根本
- はい。
- ──
- 一体につき、どれくらいで‥‥。
- 根本
- まあ、大きさにもよるんですけど、
だいたい3日から5日くらい。
- ──
- えっ、たったそれだけ?
- 根本
- 土は待ってくれないので。
それくらいの感じで仕上げないと、
うまくいかないんです。
- ──
- ばくぜんと、もう何ヶ月もかけて
つくりこんでるのかなあと
思っていたんですが、
そんな悠長なことは
言ってられないってことですね。
- 根本
- 固まってきちゃうんです、土が。
- ──
- その意味でも「生きもの」ですね。
- 根本
- そうですね。土は生きてます。
手びねりでつくってるんですけど、
下‥‥つまり足から、
いろんな装飾も同時にやりながら、
土を積んでいくんです。
- ──
- 手びねりっていうことは、つまり、
粘土を紐状にして、
くるっと輪っかにして積み上げて。
そこへ、固まるまえに、
引っ掻いたりシワを付けたりして、
表情をつけながら、
どんどん重ねていく‥‥んですね。
- 根本
- そうです。
- ──
- その間「寝食も忘れて」みたいな?
- 根本
- まったく寝てないって言ったら
嘘になりますけど、
まあ、寝るのも、食べるのも、
ちょっとあとまわしになりますね。
お腹が空いたら何か食べて、
眠くなったら寝てます。
製作中は、超不規則ですね。
- ──
- たしかに、規則正しい生活で
これができましたって言われても、
ほんとですか、って感じかも。
え、それじゃあ、
起きてる間はずっと手を動かして。
- 根本
- そうですね。なるべくは。
感覚的には、手を動かすってより、
三日三晩、
ずーっと考え続けている感じ。
- ──
- 何を?
- 根本
- 感情を分解できないかなあ、とか。
<つづきます>
2018-11-26-MON