- ──
- 感情を分解するって‥‥何ですか。
- 根本
- どう言ったらいいのか、
言葉では伝えきれないと思うけど、
あえて言葉で言うとするなら‥‥。
- ──
- はい。
- 根本
- 「感情という、自分を振りまわす、
これはいったい何?」
「どこまでいっても物体」にて 2017④
- ──
- ‥‥と、疑問に思っている?
- 根本
- そういう興味が昔からあるんです。
感情‥‥興奮、恐怖、不安、執着、
よけいなことで、
引っ掛かって動けない自分がいて、
自分だけじゃなく、
他人の感情にぶつかったりもして。
- ──
- その連続ですよね。人の日常って。
- 根本
- それらのすべての原因になっている
この「感情」って、何なんだ。
すっごく根本的な疑問なんですけど。
- ──
- それを「分解」することができたら、
「理解」できるんじゃないか、と?
- 根本
- そうです。
今の制作のテーマが「感情」なんです。
粒つぶ‥‥人間って、
粒子でできてるって言いますよね。
- ──
- 原子って意味では、そうですかね。
- 根本
- 人間が粒子でできてるなら、
感情も粒子じゃないかと思えてきて。
- ──
- 突き詰めて言ってしまうと、
粒と粒の「化学反応」なのかなあ。
いや、よくわからずに言いました。
- 根本
- そうですよね、よくわからないけど、
ようするに、
粒子でできたわたしたちのなかで、
ホルモンやら神経やら関係して、
「感情」がうまれて、
わたしたち自身、
それらに翻弄されてるわけですが、
でも、それはそれで、
ドラマチックなことだなと思ってて。
- ──
- ああ、なるほど。
- 根本
- で、わたしは土という粒子をこねて
陶芸の作品をつくっているので、
感情という粒子を
かたちにできたら、
何か安心できそうな気がするんです。
とするならば、
どうしようもない感情に襲われたら、
それを分解して、粒子に戻して、
ひとつひとつ、
確認することができないか‥‥とか。
- ──
- 分子記号の作品は、
じゃ、そういう興味からなんですか。
- 根本
- そう、そうなんです。あれは。
で、目に見えないけど存在している、
そういうものに興味が出てきたのは、
やっぱり、震災の影響が、
ぜんぜんないと言ったら嘘なんです。
アドレナリン(興奮、恐怖、不安)
- ──
- ああ、なるほど。
- 根本
- 震災後の福島に住んでいることも、
ミクロの世界、
目に見えないものの世界に
興味を惹かれていることと、
無関係ではないと、思うんです。
なんだか、抽象的な話だな。
- ──
- 感情、粒子、目に見えないもの。
- 根本
- たとえば、
わたし自身は無宗教なんですが、
実家が厳格なキリスト教徒の家で。
プロテスタントなんですけど。
- ──
- ええ。
- 根本
- 教会に来る人たちはときに切実で、
彼らが悩んだり、
牧師に告白する姿を見てきました。
で、わたし自身も、
どうしようもないような気持ちに
とらわれたとき、
これって一体、何なんだろうって、
ちっちゃいころから、思ってて。
- ──
- じゃあ、感情というものを、
ある意味でコントロールしたくて、
土に向かってるとも言える?
- 根本
- わたしにとって、
薬にも毒にもなりうる「感情」を
捉えたい、という気持ち。
- ──
- その「捉えたい」というのは、
「かたちにしたい」ということと、
イコールですか。
- 根本
- わたしの場合は、
かたちとかビジュアルが好きなので。
かたちにしたほうが、
捉えやすいということなのかなあ。
お守りと同じような感じですかね。
- ──
- お守り?
- 根本
- お守りって、きっと、ほんとうは、
「願い」という
かたちのないもののはずですけど、
かたちになったものを持つことで、
安心してる、そんな感じ。
- ──
- つまり、このゾウのような生きものを
かたちにすることも、
感情を分解して理解して安心しようとしている、
そのこころみの一環なんですかね。
- 根本
- どうなんだろう。そうかも知れない。
つくるときは、
いろいろと、あんまり決めないで
土に向かうんですが、
感情だけは「こうだ」と決めて、
とりかかっています。
- ──
- それぞれの作品に、
何らかの感情が込められているんだ。
- 根本
- ただ、分子記号とか
ホルモンのことを勉強していると
よくわかるんですが、
ひとつの決まりきった感情なんて、
あり得ないですよね。
感情って、
複雑にこんがらがっているんです。
悲しみと、怒りと、諦めと、
少し喜びも混じって‥‥みたいな。
- ──
- たしかに。
- 根本
- まあ、当然だって気もしますけど。
- ──
- たったひとつの名前では、
分類し切れないものですよね、きっと。
- 根本
- 笑っているともちがうし、
怒っているともちがうし、
悲しんでいるともちがう、
ちょっと不思議な顔をしてる作品が
多いのは、
もしかしたらそのせいかもしれない。
「どこまでいっても物体」にて 2017
- ──
- 今みたいなことを、
三日三晩の制作の間中にずーーっと、
考えてるんですか。
- 根本
- ええ、でもそれって楽しいんだけど、
つい考えすぎるというか、
今、自分がどこにいるのかを
見失ってしまったり、
世の中と離れていってしまったりは
しないように気をつけています。
- ──
- わかります。
深く入っていっちゃいそうですよね。
どうやって戻ってくるんですか。
- 根本
- わたしの場合は、
んー、見たくもないテレビドラマを
漫然と見ていたりとか、
そういうときに、
バランスを取ってるんだと思います。
ふだんの生活を送ることで、
元の場所に戻されている、というか。
- ──
- ごはんを食べて、テレビ見て、
お風呂に入って、眠って‥‥の強さ、
たしかさ、ってことですかね。
- 根本
- 昔から、
世のなかの既成概念とか常識とかとは、
すこしちがったものさしで
この世界を捉えたい、
たしかめてみたいと思っていたんです。
- ──
- ええ、なるほど。
- 根本
- 他の分野の作家さん、
他の素材をあつかう作家さんの場合、
わたしのやり方とはまたちがう、
その人なりの
世の中の捉え方がきっとあるんです。
アートや美術じゃなくても、
たとえば「農業」をやってる人なら、
自然や作物をつうじて、
この世界を捉えていると思うんです。
- ──
- はい。
- 根本
- わたしは土を積むという行為によって、
わたしなりに、
この世の中を捉えていると思ってます。
この世に対する自分なりの捉え方が
それぞれの人にあって、
で、わたしの場合は、それが土だった。
土を触ることで、
そうできているのが嬉しいと思います。
- ──
- そういうことを、
子どものころから考えてたんですか。
- 根本
- そうかも、わりと。
- ──
- じゃあ、ちいさいころから、
陶芸家になりたかった‥‥んですか。
- 根本
- いや、パン屋さん。
- ──
- おお、かわいい夢ですね(笑)。
でも、よく考えると今と同じですね。
こねるし、焼くしで。
- 根本
- そうなんですよ。
- ──
- こういうパンがあったらどうかなあ。
- 根本
- う~ん。まずそう(笑)。
イムヌスの為の出演者-1(撮影:姜哲奎)
<つづきます>
2018-11-27-TUE