糸井 |
いざ! |
永田 |
い、いざ! |
西本 |
いざ? |
糸井 |
毎回「お疲れさまでした」で始めるのも
ちょっとどうかと思ってさ。 |
永田 |
ああ、なるほど。
それはぼくも気になっていたんです。 |
糸井 |
だから、今週は景気よく!
いざ! |
ふたり |
いざ! |
糸井 |
‥‥‥‥。 |
永田 |
‥‥‥‥。 |
西本 |
‥‥‥‥。 |
永田 |
最初だけですか、勢いは! |
糸井 |
うん、あとはまあ、
いつもどおり、だらだらと。 |
永田 |
せっかくですから
テンポよくいきましょうよ。
じゃあ、先にあれやっときましょう。
恒例の‥‥。 |
西本 |
誰にも会ってません! |
永田 |
早っ! |
糸井 |
もう、にしもっちゃんの
運もつきたんですかね。 |
西本 |
いえいえ、欽ちゃん風に言うと
「運を貯めている」状態です。
思わせぶりですが、
これからドーンと爆発しますよ。 |
永田 |
ともあれ、第37回を見終えたわけですが。 |
糸井 |
今回は濃かったですね。 |
西本 |
じつは、「駅の回」ですよね。 |
永田 |
時代の大きなうねりと、
新選組の抱える人間くさい事件の
2本軸がありましたね。 |
糸井 |
じゃあ、まあ、
小さいところからいきましょうか。 |
永田 |
はいはい、小さい話、大歓迎。 |
糸井 |
まず薩長同盟ですけどね‥‥。 |
ふたり |
デカっ!!! |
糸井 |
ん? まあ、そうか、デカいか。 |
西本 |
歴史の教科書に太字で載ってますよ。 |
永田 |
ちょとしたアメリカンジョークですよ。
「じゃあ、小さい話からはじめるぜ。
なんの話かって? 薩長同盟さ」 |
西本 |
ヤァーーーハッハッハッハッ! |
糸井 |
どっかで使えるかな? |
ふたり |
使えるわけないでしょう。 |
糸井 |
まあ、ともかく、史実としては大きいけど、
これまで薩長同盟なんてのは、
ぼくらがメインで語るようなことでは
なかったということですよ。 |
永田 |
そりゃそうですね。 |
西本 |
というか、この3人で
薩長同盟を語るというのも
ものすごくおかしな話ですよ。
もともとは、
「カニとスノボがテレビをダメにする」
なんてことを言ってたわけですから。 |
永田 |
「引田天功の番組を観たけど
意味がわからなかった。
まだ意味がわからない」
なんてことも言ってましたよ。 |
糸井 |
そんな我々が薩長同盟について語ろうとはなあ。
まるで多摩の若者が幕末の動乱に
巻き込まれていくようじゃないか。 |
永田 |
感慨にひたっているところすいませんが、
ちっとも薩長同盟について語ってませんよ。 |
糸井 |
語りましょう
ぼくが思ったのは、西郷と桂が、
じつはものすごくまともなことを
言っているということです。 |
西本 |
木戸です! |
糸井 |
‥‥ああ、失礼しました。
西郷と、桂あらため木戸が、ですね、
ドラマのなかではひじょうに堅物というか、
子どもじみた、わがままを言っているように
描かれていましたけれど、
それこそが三谷さんのセンスなわけですよ。
というのは、あれはやはり謀反の話なんです。
彼らはリーダーとして、
たくさんの人の運命を背負ってるわけですよね。 |
永田 |
はあはあ、なるほど。
龍馬が「まったくあいつらガキじゃきに!」
みたいなことを言っているので
たしかにそういう感じに思えるけれども‥‥。 |
糸井 |
ぜんぜん、子どもっぽくないですよね。
ぼくらは薩長同盟が歴史を動かすと
知ってるからそう感じるだけなんです。
当時の状況を考えると、勝算はあるとはいえ、
大博打だし、非常識だし、
とんでもない話なんですよ。 |
西本 |
幕府にたてつくわけですからね。 |
永田 |
犬猿の仲だったわけだし。 |
糸井 |
いや、もっと深い話ですよ。
というのは、ここでぼくらは
思い出すべきなんです。
我々の歴史のバイブルはなんでしたか? |
永田 |
『東方見聞録』! |
西本 |
『若草物語』! |
糸井 |
そういうボケはいいから。 |
ふたり |
『風雲児たち』! |
糸井 |
そうです。
つまり、1600年の関ヶ原から、
薩摩と長州がどれだけ幕府に
ひどい目に遭わされてきたかということです。 |
永田 |
ああ、萩へ追いやられた長州の行軍‥‥。 |
西本 |
薩摩に命じられた木曽川の大治水工事‥‥。 |
糸井 |
そういうことがずーっと
くり返されてきたんです。
幕府にしっぽをつかまれないようにして
生き延びてきたふたつの藩が
とうとうはっきりと
謀反へ転じようというときに、
そういう重い事実が、
もわーーっと
まるで真冬に急にサウナに入ったかのように
湯気となって立ちこめるわけですよ。 |
永田 |
旅先の宿で夜明けにふと目が覚めて
表に出たときに視界を覆う霧のように。 |
西本 |
ディナーショーでもくもくとたかれる
ドライアイスの‥‥。 |
ふたり |
そりゃ違うよ。 |
西本 |
お、また違いましたか。 |
糸井 |
どうもにしもっちゃんの比喩は
微妙にハズしますね。 |
永田 |
いや、にしもっちゃんの比喩は、
「微妙に違う」ということを
聞いた人が感じることによって、
そこに共通認識がしっかり生まれるので
結果的にはうまく作用するんですよ。
これを、「反面比喩」と呼んでいます。 |
糸井 |
なるほど。見事な反面比喩でした。 |
西本 |
恐れ入ります。 |
糸井 |
まあ、そういう歴史を背負っている両者が
手を組んで幕府に反旗を翻すのは
たいへんなことなんですよ。 |
西本 |
松平容保公が夜空を見ながらつぶやいた
「300年の‥‥」というセリフにも
同様のものを感じました。 |
永田 |
あそこは『風雲児たち』に対する
はっきりとしたオマージュに思えました。
ふだんずっと座っている容保公が
わざわざ部屋を出て
「300年の時を超えて
再び島津、毛利と相まみえるか‥‥」
で、見上げると、キラ星たち。 |
西本 |
『風雲児たち』ですよね。
ぼくらが教科書で学んだのとは違う
先祖から口伝えで教わった歴史の重さですよ。
「幕府に逆らったら何されるかわからんよ」
ということを血として
覚えているんだと思うんですよ。
いうならば、
「一子相伝の北斗神拳」みたいなことですよ。 |
糸井 |
そりゃまた微妙に違うんじゃないですか。 |
永田 |
一子相伝じゃダメじゃないですか。 |
西本 |
我ながら見事な反面比喩でした。 |
糸井 |
まあ、もちろん、みなもと太郎さんが
なにもかもつくったわけじゃないけれど
あのつながりでみていく歴史感というのは
あるんだと思うんです。
天皇につかえる立場だった毛利が
本州の端の萩に追いやられたり、
薩摩が木曽川改修工事を命じられたり、
それを辛抱しながら生きてきたふたつの藩が、
300年の歴史のなかで
曲がりなりにも外国にケンカを売れるくらいの
蓄えと力を持ったわけですよ。
あそこで西郷と桂が言ってるのは──。 |
ふたり |
木戸です! |
糸井 |
ああ、そうそう、西郷と木戸が言ってるのは
子どもっぽいメンツを言ってるわけでなくて
ふたりにどっしりとのしかかっている
「しかるべき重さ」なんですよ。
ということを考えていくと、
やっぱりね、龍馬なんですよ。 |
永田 |
あああ、なるほど。 |
西本 |
龍馬ですねえ。 |
糸井 |
歴史をつくる重さを両肩に感じてるふたりを、
平気で笑えちゃう龍馬がおもしろいんですよ。
根本的な教養と違うところに龍馬がいたから
ああいうことができたわけで
「薩摩と長州の気持ちはわかるぜよ!」
っていうふうに共感して
「安らぐのだ」なんてことを言ってたら
時代は動かなかったわけですよ。 |
永田 |
いま、関係ないセリフが入りませんでしたか? |
西本 |
聞こえたような気がしますね。
安らぐ、とかなんとか。 |
糸井 |
ともかく龍馬なんですよ。
誤解を恐れず言えば、
龍馬の「バカ」が歴史を動かすわけです。
世にあれほど龍馬ファンが多いわけが
よくわかりますよね。 |
永田 |
当時の教養が染みついている人なら、
まあ、ふつうに考えて、
「じゃあまあ、後日あらためて話すぜよ」
となりますよね。そんで、半年くらい
平気で過ぎちゃったりして。 |
西本 |
あああ、そういうふうにして
消滅していくプロジェクトってありますわ。 |
糸井 |
ありますよ!
「よ〜く考えてやらんといかんぜよ」
なんてことを言ってしまったら
できなかったわけですよ。
それを「握手&ほおずり」まで
持っていく龍馬という男の軽さが
300年の歴史の重みを
ひょいと持ち上げてしまうところに
ぼくは三谷ドラマの
パワーを感じてしまうんですよ。 |
永田 |
日本を変えたという単純なヒーローではなく、
別の考えを持った「バカ」の軽さとして
描いていることに。 |
西本 |
龍馬は所属先がないということが
大きな要因かもしれませんね。 |
糸井 |
そういうことですね。
バカ出身ということでパラダイムが違う。 |
永田 |
パラダイス? |
西本 |
‥‥楽園のことですよ。 |
糸井 |
パラダイムっていうのは
考え方の組立、枠組みみたいなものです。
他の人は、これとこれは
最低限知っているということで
思想は形成されているんですよ。
龍馬っていう人は泣き虫のねしょんべんたれで、
しかも下級藩士の子どもで
どうしようもないところから育ったことで
ものの見かたがあの登場人物の中で
ひとりだけ違うと思うんですよ。
近藤や土方だって、
最初はそんなに教養はなかったと思うけど、
「あっちも知らなきゃな」って
強く思ってるじゃないですか。
ところが、龍馬が見つめているのは
海の向こうとかですからね。
わけわかんないですよね。
そりゃ、みんな
「わしゃ龍馬が好きじゃ!」
なんてことを言うはずですよ。
だって基礎のないやつが
世界を変えるわけだからね。 |
永田 |
知識や分析よりも瞬発力、みたいな。 |
糸井 |
そうそう。解釈によっては
「理想と決断さえあれば
バカでも世界を動かせるぜ」
と見えるわけだからね。
ところが、それは運命をあとから
観ているから思うことであって、
「じゃあバカを磨けばいいか!」
って思ってしまう現代のオレらは、
すでに本を読んでしまってるわけだよね。 |
永田 |
うーーーん、なるほど!
こりゃ見事な脱線だ。 |
糸井 |
うん、脱線だけど(笑)。 |
西本 |
脱線ついでに言うと、
つねづね思っているのは
「龍馬は現場に居合わせているなあ」
ということですね。
できる電通の営業マンのように
とにかく、そこにいるという。 |
糸井 |
要するに、龍馬は、根本に
「こいつは何を欲しがっているんだろう」
というところをものすごい速度で
考えてますよね。
あれは子ども、というか、
「ガキ大将」の考えかたですよね。
土方が「誠」の旗を見つめるように、
ほかの人たちが、
義とか恩とか誠とか
昔の人が漢字一文字で表したことに
命をかけているような時代に、
「人が何を思っているか」
ということを考えているわけです。 |
永田 |
ぼくらはこれまで盛んに、
「あいつらは目的がわかっていない」とか
「誰ひとり正解をつかんでいない」とか
言ってきましたけど、
あの時代の人たちは「あの時代の知性」に
がんじがらめになっているわけですね。 |
糸井 |
そう。それが役に立たなくなったというのが
幕末という時代なわけです。
つまり、新しいパラダイムというのは
前の勉強をした人からは出てこない、
ということが表されていますよね。
だから、このドラマで時代を動かすのが、
パラダイムの違う、龍馬と捨助なわけです。
‥‥まあ、そういうわけで、
以上、「薩長同盟」という小ネタでした。 |
ふたり |
小ネタかいっ! |
糸井 |
話し出したら広がっちゃった(笑)。 |
永田 |
捨助といえば、今回の展開で
兼ねてよりウワサされていた、
「鞍馬天狗」以外の説が
現実味を帯びてきましたね。 |
糸井 |
それは、例の「実行犯説」ですね? |
西本 |
ええ。今回の一件で
動機がそろいつつあります。 |
永田 |
そのあたり、想像しながら観るのも
たのしみのひとつですね。 |
西本 |
まあ、どうなるかわかりませんが。 |
糸井 |
そういう、ほんとの小ネタを
もうちょっと話したいですね。 |
永田 |
あ、じゃあ、
これぞ小ネタという小ネタを。 |
ふたり |
どうぞどうぞ。 |
永田 |
今回のタイトルは
「薩長同盟締結!」なんですけど、
タイトルがいつも直球ですよね。
なんかもう、仮タイトルみたい。 |
糸井 |
ああ、そういやずっと直球だよね。 |
永田 |
そうなんですよ。
そのまんま、っていうものばかり。
「新選組誕生」「直前、池田屋事件」
「永倉新八、反乱」「山南脱走」って。
いままで観たなかで「友の死」くらいでしょ。
象徴として名づけているようなものは。
これ、三谷さんの配慮なのかなあと思って。
つまり、1年間をかけてドラマをつくるなかで
しばらくのあいだ観てなくても、
タイトルを続けて眺めるだけで、
どういう筋で話が流れて、
どのへんまで進んできたかって
わかるじゃないですか。 |
糸井 |
つまり、「ファイル名」ですね。
あとから見ても内容がわかりやすいという。 |
永田 |
そうですそうです。
以上、小ネタでした。 |
西本 |
こりゃたしかに小ネタでした。 |
永田 |
恐れ入ります。 |
糸井 |
ちょっとオレも小ネタだけど‥‥。 |
永田 |
ほんとに小ネタですか? |
糸井 |
や、これはほんとに小ネタ。
あのさ、ちょっとさ、新選組の一同さ、
みんな太ってきてないか? |
西本 |
ああ、そうかも。 |
糸井 |
個人的な深読みだけど、
みんなが慣れてきたんじゃないかと思うんだ。
というのは、つまり、撮影のはじめのころって、
みんな緊張しているわけでしょ。
しかも、あんな豪華メンバーだから
スケジュールもタイトだし。
そうとう、日々の暮らしを
変えられてたと思うんだよ。
さらにいうと、撮影って、
寒い時期に始まるじゃないですか。
だから、これまでってほんとに
緊張してやせてたんじゃないかと。 |
永田 |
それが、ドラマが進むにしたがって慣れてきて、
元に戻ってきたんじゃないかと。 |
糸井 |
うん。 |
西本 |
異議アリ! |
糸井 |
おお(笑)。 |
永田 |
いいねいいね(笑)。 |
西本 |
慣れてきたというのは同感ですが、
ぼくは「打ち上げ説」を理由に挙げます。 |
永田 |
「打ち上げ説」? |
西本 |
ドラマの中身が濃くなるにつれて
演者やスタッフの結束も
深まっていってると思うんですよ。
だって、毎回誰かが死んだりしているわけです。
撮影の終わりというのも
たんなる「お疲れさま」じゃなくて
お別れ会のようなものだと思うんです。
『太陽にほえろ!』でいえば、2〜3回に一度、
松田優作が殉職をするようなものですよ。
‥‥この例え、大丈夫ですか? |
ふたり |
大丈夫です! |
西本 |
ありがとうございます。
つまり、なにが言いたいかというと、
最近の回は、撮影の終わりに、
毎回「打ち上げ」が行われてるんじゃないかと。
まあ、手っ取り早く言ってしまうと、
太ってみえるのは「酒」なんじゃないかと。 |
糸井 |
おお! |
永田 |
なるほど! |
西本 |
たとえば土方演じる山本さん。
ぼくの個人的な読みから言えば、
山本さんは打ち上げの席でも途中で
「ちょっと抜けるわ」なんてことをせずに
最後まできっちり
飲みあげるタイプだと思いますよ。
一晩で喜怒哀楽、全部出しちゃう人かと。 |
糸井 |
まったく根拠はないけれど‥‥。 |
永田 |
説得力あります。 |
西本 |
ありがとうございます。
見てきたかのように言うのは得意です。 |
永田 |
じゃあ、そろそろ、今回のメインというか、
壬生心中の話に行きましょうか。 |
西本 |
「柔道の人」こと松原と、
「長州の後家さん」ことおはつの話ですね。 |
糸井 |
あの場面、ぼくはちょっと、
ふつうの人と解釈が違うかもしれません。 |
永田 |
どういうことですか? |
糸井 |
日曜日に最初に観たときは、
ふつうに「哀しいなあ」と思って観たんだけど、
今日観たらちょっと感覚が変わったんだよね。 |
西本 |
具体的には? |
糸井 |
ええとね、先週の女子部の情報で、
「土方がほんとうにイヤなやつに
なっていくかもしれない」
という情報があったじゃないですか。
今週なんかはまさにそういう回だと思うんだよ。
でもね、じつはぼく、観おわって
土方にけっこう思い入れが強いんですよ。 |
永田 |
あ、ぼくもそうですよ。 |
西本 |
ああ、ぼくもそっちです。 |
糸井 |
あ、やっぱり? |
西本 |
ああなってしまったことは
しかたないですけど、
あんなにぺらぺらしゃべっちゃダメです。 |
永田 |
同感です。
禁じられた恋は秘め事にしておきなさい
と言いたいです。 |
糸井 |
まあ、あそこに含まれる成分としては、
「おじさんもてちゃったんだよね」
ということだよね? |
ふたり |
わははははははは。 |
糸井 |
「おじさんもてちゃったんだよね」
というのは、考えてみると、
男の人生の中でいちばんいけないよね? |
西本 |
や、それはそうです(笑)。 |
永田 |
このニュアンス、伝わるかなあ(笑)。
哀しい話である、という
まっとうな解釈はさておいて、
という話ですよね。 |
糸井 |
そうそうそう。 |
西本 |
またイヤな解釈していいっスか? |
ふたり |
どうぞどうぞ。 |
西本 |
松原は新選組に入ったから
ああいうことになったんですよ。
新選組に入る前や
新選組がもっと小さいときの松原だったら
あそこはのめり込んでないはずなんですよ。 |
永田 |
わーーー。 |
糸井 |
ほんとにイヤなこと言うなあ。 |
西本 |
すいません、性分なんです。
「イヤなもの分析」が得意なぼくからすると、
「調子にのっちゃったな」と。 |
永田 |
泣ける要素を取っ払って、
まあ、たとえば松原を
にしもっちゃんの昔の同僚だとして、
飲み会の席なんかで肴にしたとすると──。 |
西本 |
「まあ、人間、
そういう時期ってあるんだよ」
っていう感じですね。 |
糸井 |
西本さんの分析でいうと
「一流企業の紙袋を抱えてる」
ようなことですね。 |
西本 |
そう、身の丈よりも
出世しちゃった人なんですね。 |
糸井 |
きっついなぁ! |
西本 |
それを隠すために
「純情」という手を使ってますけど
出世もて系なんですよね。
キャバクラで名刺でもてるようになって
その勢いで調子こいちゃったみたいな。
同じように後家さんとくっついている
ぐっさんも出世もて系なんだけど
それは天然だからオッケーなんですよね。 |
永田 |
ぐっさんは、呼び寄せて夫婦になるまでは
ちゃんと黙ってましたからね。 |
糸井 |
そうだね。その意味では、ぐっさんは、
「おじさんもてちゃったんだよね」
とはちょっと違うわけだ。
けど、その分析は恐ろしいことを突いてるね。
となると、ますます
土方が言っていることは正しいですよね。
あれを許しちゃったら、
相手を殺して女房をとるなんてことが
当然、出てきますからね。
そういう松原の「無自覚な甘さ」っていうのは
土方にとがめられた直後の
「いま腹を切ります!」ってところで
バレちゃってますよね。 |
西本 |
周囲が止めるに決まってますからね。
場所的にいっても、あそこは
西本願寺というお寺の中ですから。
寺でいきなり切腹なんて、
「ちょっと待て」ってことになりますよ。
掛け軸破るよりそっちの方が
よっぽど坊さん怒りますよ。 |
糸井 |
あいたたたたた。 |
西本 |
もちろん、松原がそこまで
シナリオを書いているわけじゃないです。
けど、「純情なんだけど一流企業」
みたいな成分が勝手にひとり歩きしている。 |
糸井 |
それは新選組という
田舎から来た人の弱みだよね。 |
西本 |
ええ。主役になっちゃったオレというのを
もてあましながら、うれしがりながら。 |
糸井 |
そのせつなさは痛い! |
西本 |
一時のビットバレーとかベンチャーとかと
似た匂いを感じますよね。 |
永田 |
いやいや、ちょっと待って、
そりゃちと言い過ぎじゃないか?
ていうか、含まれてる成分としては正しいけど、
的確すぎて、ちょっと引くわ。 |
糸井 |
めずらしく比喩が的確すぎるんだな(笑)。 |
西本 |
自分でもちょっとイヤなんですが、
こういう例えは得意分野なんですよね。 |
永田 |
バランスを取りたがる性分として言うと、
まあ、松原は甘かったんでしょう。
でも、その甘さは自分でも
わかってたんでしょうね。
「まちがったことはしてない」って
思いながらも、おはつに刺された直後の表情は、
自分の甘さを受け止めたというか、
土方の正しさにさえ気づいたように思えました。 |
西本 |
オダギリとの無言のやり取りは
そういう感じでしたね。 |
糸井 |
あそこに踏み込んだのが
永倉でも左之助でも、ああはならないよね。
また、松原と斎藤は以前に
やり合ってる背景もあるからね。
その意味での介錯役なんでしょう。 |
西本 |
せつないっす。 |
永田 |
せつないなあ。 |
糸井 |
一方、おはつのほうの動きはどうですかね。
ぼくは、最初に観たときは、
きちんと狙って殺した動きに見えたんですが、
もう一度冷静に観るとね、
途中のセリフとか、心の動きとかが、
なんかこう、複雑すぎて、
「殺しに行く」感じに見えなくて。 |
永田 |
ん? それは、
「殺す動機」の話ですか?
「殺す雰囲気」の話ですか? |
糸井 |
「雰囲気」のほう。旦那の仇なのか、
好きになってしまう自分を許せないのか、
その両方なのかわかりませんけど、
動機はわかる。別れるとしたら殺すしかない。 |
西本 |
つきあっても未来がないし
つきあってもつらいし。 |
糸井 |
うん。だから「殺す動き」だよね。
まあ、油断してたとはいえ柔道の達人に対して
女の細腕で小刀を刺す、と。
そこはドラマのフィクションでオッケー。 |
永田 |
うんうん。 |
糸井 |
だけどそのまえの緊張感がないというかね。
色仕掛けでメロメロにしたわけでもないし。
ついに実行するにしても、
力を出す寸前の緊張というか筋肉の動きが、
こう、ハンパだったかなあ、と。 |
永田 |
ああ、それ、ある意味で
ぼくも同じことを感じてます。
なんだけども、結果的に、
まったく逆の感じで作用しました。 |
糸井 |
どういうことですか? |
永田 |
あの前にまず、料理を出すところで
抜かれたあとの鞘(さや)が映りますよね。
つまり、明らかに
「殺しに行く」っていう伏線がはられた。
誰がどう観ても、女は殺すつもりだ、と。
しかも、糸井さんが言ったように、
ものすごい緊迫感があるわけじゃない。
というときに、観ていたぼくは、
「あ、こりゃ殺せないんだろうな」
って感じたんです。 |
糸井 |
あ、なるほどね。 |
永田 |
あそこまで殺しをにおわせておいて、
殺してびっくりというわけにはいかないから
こりゃ殺せないだろう、と。
殺しに行くにしても、松原に気づかれるとか、
気づいた松原が刀を止めて、
その刀で自分を刺しに行くとか、
とにかく失敗するだろうと。
そんなようなことを
ぼんやり予感していたときに
そのままブスリといったから
一周して「え!」って驚いたんです。
まあ、そんな複雑なことを
狙ったとは思わないけど、
もしもそこまで考えられていたとしたら
三谷さんに、もしくは演出家の人に、
まんまとハメられたということになります。 |
糸井 |
それはちょっとおもしろい考えかただね。
いろいろ感じかたがあるなあ。 |
西本 |
ところがぼくはまた、
ぜんぜん違うことを感じていました。 |
永田 |
おお! |
糸井 |
いいね(笑)! |
西本 |
女が懐に刃物を隠し、
障子をピシャリと締めた瞬間‥‥。 |
ふたり |
うんうん。 |
西本 |
こりゃ濡れ場だ! と。
『新選組!』初の濡れ場だ、と。 |
ふたり |
‥‥‥‥。 |
西本 |
まずは松原を裸にしちゃって、
刺すならそれからだろう、と。
ってことは、濡れ場だ!
大河ドラマで濡れ場だ! |
糸井 |
もうけっこうです。 |
永田 |
「土方支持!」のところでは
3人の意見が一致したのに、
女についてはバラッバラだなあ‥‥。 |
糸井 |
フォローするわけじゃないですけど、
最初にひとりで観たときは、
そうとう引き込まれましたよ。
ちょっと胸がキュンとするような
なんかを感じたのは確かなんですよ。 |
西本 |
や、ぼくもそれが前提です。 |
永田 |
斎藤の瞬時の苦悩とか、
近藤と土方と斎藤の結束とか、
そのあたりまで含めて、よかったです。 |
糸井 |
まあ、今回の感想はそのあたりで
まとめておいて、
いくつか報告がありますよね。 |
西本 |
そうですそうです。
まず、例のメッセージをお願いします。 |
永田 |
了解しました。ええ〜、コホン。
『新選組!』ファンのみなさん!
またしてもテレビガイド宛に、
三谷さんからメールが届きました!
そこにはこんなメッセージが! |
糸井 |
なんというメッセージですか! |
永田 |
「第13回『芹沢鴨、爆発』を
いますぐにでも観ておきたまえ」と! |
ふたり |
そして? |
永田 |
「観たらすぐに忘れてくれたまえ」と! |
西本 |
意味深です。 |
永田 |
ちょっとした愉快犯です。 |
糸井 |
たんなるイタズラだったらおかしいですね。 |
永田 |
ともあれ、我々はすぐ観るつもりです。 |
西本 |
そして報告がもうひとつ! |
ふたり |
なんでしょう! |
西本 |
以前、糸井局長が乱暴に宣言した
「京都へドライブ」企画ですが、
9月26日、日曜日に決行します!! |
永田 |
ほんとに行くとは思わなかったなあ。 |
糸井 |
行くと言ったら行くんだ。 |
西本 |
名づけて、
「ほぼ日テレビガイド男子部修学旅行!
〜京都に新選組を訪ねて〜」! |
永田 |
日曜日の朝10時出発予定!
無理矢理、中継もします! |
糸井 |
やると言ったらやるんだ。 |
西本 |
どうなることやらわかりませんが‥‥。 |
三人 |
おたのしみに! |