永田 |
第43回を、観おわりました‥‥。 |
西本 |
観おわりました‥‥。 |
糸井 |
‥‥チーン(鼻をかむ)。 |
永田 |
いやあ‥‥。 |
西本 |
今回は、すごい回だったんですね。
じつはぼくはいま観たのが1回目で、
とくに今回、ものすごく
身構えていたわけではないので、
「友の死」クラスの衝撃でした。 |
糸井 |
すごかったねえ。 |
永田 |
こんなことなら京都に行ったとき、
油小路をもっとちゃんと
見ておけばよかったなあ。 |
糸井 |
油小路はクルマの中から
覗いた程度だったからねえ。 |
西本 |
堺さんを京都駅に送りにいくときに
油小路の前を通ったんですよね。
いや、ぼく、もう1回京都に行きますわ! |
糸井 |
油小路が足りませんでしたか。
ぼくはどちらかというと、
いま、油を抜いているんですけどね。 |
永田 |
は? |
西本 |
は? |
糸井 |
いや‥‥食事の「油」の話ですけどね。 |
永田 |
ああ、「油」ね。 |
西本 |
ああ、「油」つながりで。 |
糸井 |
そういう冗談を言う
場面じゃなかったですかね。 |
永田 |
いやいやいや、脱線大歓迎ですよ。
ちょっとこう、口を軽くしたいです。
どんどん横道にそれていきましょう。
この雰囲気で「いやあ」「いやあ」ってのを
文字にしても読み物になんないですから。 |
糸井 |
そうですね。今日はほんと、
照明をつけて観てよかったと思いますよ。 |
永田 |
あ、それで、メシ食いながら、
「照明つけて観ようや」って
提案したわけですか。 |
糸井 |
そうそう(笑)。 |
永田 |
ちなみに報告しておくと、
ふだんはぼくら、
部屋の照明を消して観てるんです。 |
糸井 |
今回は、暗いなかで観ると
ちょっとヤバいなあと思ったから。 |
西本 |
おふたりは今回2回観たんですね。 |
永田 |
はい。先週はぼくだけが初見で、
ふたりとえらく温度差がありましたから、
今回はちゃんと2回観ようと思って。 |
糸井 |
ぼくもあいかわらず2回目なんですけど、
1回目はもう、「どーーーーっ!」で。 |
西本 |
涙が。 |
糸井 |
そうです。正直いって、
日曜日に観おわった瞬間に
「明日、どうしよう?」と思いましたから。 |
永田 |
このまま会社で2回目を観ると、ヤバいと。 |
糸井 |
ええ。だから、
真っ暗で観ることをどうやったら防げるだろう
ということを考えてました。 |
西本 |
真っ暗で観たら、
ふたりの嗚咽が聞こえてきたことでしょうね。 |
永田 |
さすがに会社で嗚咽はまずいよなあ。 |
糸井 |
涙をぬぐうくらいのことはいいけどね。 |
永田 |
ええ。「ひっく、ひっく」はマズい。 |
西本 |
ふたりに関しては2回目でよかったですね。 |
糸井 |
でもさあ、にしもっちゃん、
また観たくなるでしょ? |
西本 |
そうですね。 |
糸井 |
オレは3回目にいきたくなったよ。 |
永田 |
ぐいぐいいけちゃいますからねえ。 |
糸井 |
3杯目ですね。
お茶わんをぐっとだして。 |
永田 |
嗚咽しながら、「おかわり!」 |
西本 |
いやあ、でも、すごかった。
ほんと、もう1回観たいですわ。 |
永田 |
先週のオレといっしょだ(笑)。 |
糸井 |
ええと、もう、入り込んじゃって、
先週は忘れちゃったよ。なんでしたっけ? |
西本 |
「龍馬暗殺」ですよ。 |
糸井 |
ああ、そうだったそうだった。 |
永田 |
気持ちが上書きされちゃうんですよね、
『新選組!』って。 |
糸井 |
そうだね。でも、前回よりも、
今回のほうが格段にキたなあ。
そう考えると、あれだね、
ぼくにとって龍馬は仲間じゃなかったんだね。 |
永田 |
ああ、なるほど。 |
西本 |
わかります、それ。 |
糸井 |
やっぱり、平助は仲間だし、
ある意味、甲子太郎さえ仲間だよ。 |
永田 |
甲子太郎、仲間でしたよ!
あの、ぼくは、ここで
観柳斎のときと同じことを
言ってしまうことになるんですけど、
いいですか? |
ふたり |
どうぞどうぞ。 |
永田 |
‥‥甲子太郎、
好きになった瞬間に死んじゃいましたね。 |
糸井 |
ははははははは、そうね。 |
西本 |
好きになっちゃいましたよね、甲子太郎。
甲子太郎が岩倉卿にダメだし受けるときの
あのシーンとか、ツラかったなあ。 |
永田 |
あれ、ツラいよねー。
またさあ、ツラいのはさ、
後ろに平助がいるってことなんだよね。 |
西本 |
そうそう。新入社員の後輩を連れて営業に出て
まったく相手にされなかったような感じ。 |
糸井 |
「いいか、オレがやるのを見とけよ」
かなんか言ってね。 |
西本 |
「や、だから、そんなん、最初に大声で
バシッと言っときゃいいんだって!」
とか言ってプレゼンに後輩連れて行ってね。 |
永田 |
「ああ〜、キミは誰やったかな?」って。 |
西本 |
「あいつ、たしか、どっかの
芸能事務所のやつですよ」って。 |
永田 |
「そんなやつがなんでおんねん」と。 |
三人 |
ツラいなーー。 |
西本 |
甲子太郎の顔が
どんどん赤くなっていくところが、
ツラいながらも、よかったです。 |
永田 |
いままで表情を崩す人じゃなかっただけにね。 |
糸井 |
よかったね。人間の生理を感じたね。 |
西本 |
甲子太郎も故郷を
思い出したりするような瞬間ですよ。 |
永田 |
そしてまあ、やっぱり平助ですが。 |
糸井 |
平助ですねえ。 |
西本 |
平助です。 |
永田 |
平助ですか? |
糸井 |
平助です! |
西本 |
平助ですねえ。 |
永田 |
ちっとも話が進みませんが。 |
糸井 |
まあ、やっぱり、
「やっぱり勘太郎くんは
基礎がしっかりしている」とか、
そういう基本的な讃辞は当然のこととして。 |
永田 |
「あの顔の表情は、
隈取りが見えるかのようだった」とか。 |
西本 |
「目線の移しかたひとつとってみても
力があった」とか。 |
糸井 |
そういうのはまあ、あるわけだけど。
それだけでは足りないとも思えるわけで。
2度観て思ったのは、今回のこの演技は
歌舞伎の基礎的な修業だけでは
成立しないだろうということなんです。 |
永田 |
といいますと? |
糸井 |
歌舞伎の基礎的な動きに、
自分なりのなにかを
明らかにプラスしていると思うんですよ。
漠然としたことばでいうと、
「テレビの時代劇の芝居」を
自分で加えてるんじゃないかと思うんです。
それをね、あの若さで
自分でできているということに感心しますね。
お父さんや先祖とのつながりによって
ここまで来たという場所から、
クロールで泳ぎ着いてますよね。
この「油小路」に向かって
ずっと準備をしてた感じがさ、感動的だね。 |
西本 |
たしかに、そういう
「若い役者さんたちの成長」
に立ち会えることは、
『新選組!』を観ているうえでの
裏のたのしみでもありますよね。
たとえば池田屋のときと較べると
今回の平助は鬼神のようでした。 |
糸井 |
思えば池田屋って、
平助のデビューだからね。
それから、いろいろありましたよね。
沖田になりすまして
舞子さんにもてようとしてたり、
なんてこともあったよねえ。 |
西本 |
ご飯粒を自分で口元につけて、
ひでの気を引こうとしてみたり。 |
永田 |
つねさんを江戸から連れてきちゃって
オロオロしてみたり。 |
西本 |
ああいうシーンがフラッシュバックで
入っていたら、今回、
さらに立ち直れないくらいに
泣けたかもしれませんね。 |
永田 |
隊士が死ぬシーンでは、
そういう演出を頑なにしてないですね。
八木邸を出て行く場面で
あったくらいかな。 |
糸井 |
演出として禁じ手にしてるのかもしれないね。
まあ、とにかく、平助の死をとおして、
また「役者」というものを見直しましたね。 |
西本 |
もう、勘太郎さんを
「勘九郎さんの息子だろ?」
という目では見れないです。 |
糸井 |
まあ、あったりまえのことですけど、
「誰かの息子だからできる」
なんてことじゃないんだよね。
今回それをあらためて思ったよ。
捨助役の中村獅童さんだってそうじゃない。
やっぱり、役者の人たちって、
「自分で考えなければできない仕事」
をしているんだよね。 |
永田 |
そうですね。
今回の平助を観て思ったんですけど、
セリフがいちいちすごいとか、
そういうわけじゃないじゃないですか。
あの、無言のときの表情というのは、
台本にいちいち
書いてあるわけじゃないですよね。
というか、表情でどうにかするしかない。
けど、今回の平助の葛藤っていうのは、
すっごく中間の感情が多くて、
むつかしいと思うんです。
迷い、驚き、呆然、決意、
みたいな感情がくるくる変化する。
けど、観てるほうは、
そういう平助の揺らぎとか、
決意した瞬間みたいなものがきちんとわかる。
「あ、やっぱ行くんだ!」って、
その瞬間に伝わるからこそ
平助に入り込んで泣ける。
それはやっぱりすごいですよね。 |
西本 |
ぼくは何度かテレビドラマの収録現場に
立ち会ったことがあるんですが、
もっとテレビドラマの収録って
淡々と撮ってますよ。
こんなにそれぞれの演技が練られているのって
テレビドラマではあまりないんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
刺激し合っているということだよね。 |
西本 |
ええ。たとえば、山南さんが死ぬシーンで
「山南さんはあそこまでやっていた」
ということが出演者たちにわかりますよね。
ああいう演技を、そばで観ながら、
楽屋で話しながら受け継いでいって
「オレが死ぬときはどうするんだろう?」
ということを隊士たちが
どんどん考え続けていくんだと思うんです。
あの演技が平助も
すぐにできるということでもなくて
山南さんの切腹が、
もっと言えば、鴨暗殺くらいから
佐藤浩市さんが楽屋に残していったものとか
そういう積み重ねたものが
平助の最後に受け継がれているんだと思います。 |
糸井 |
鴨が新選組の人たちに与えたような影響を
役者の佐藤浩市が俳優たちに同じ分量で
与えているような気がするということですよね。 |
西本 |
そうそう。 |
永田 |
堺さんもそうだし、八嶋さんもそうだし。
河合役の大倉孝二さんの最後の演技なんかも
そうとう、活きてるんじゃないかなあ。 |
西本 |
いいところだけがどんどん積み重なって
役者にフィードバックされていくと。
で、最後にそのバトンを受けるのが
香取くんになるんじゃないかと思うです。 |
糸井 |
おもしろいね。 |
西本 |
このまえ、石坂浩二さんが
おっしゃってましたけど、
どんなに売れっこスターであっても
居残り練習には役者どうしで
つき合うというのが
大河ドラマの伝統なんだそうです。
代役をたてて稽古するんじゃなくて、
本人どうしでやるんだと。 |
永田 |
部活みたいだね、ほんとに。 |
糸井 |
役者さん、ひとりひとりが、
ほんとうにつくろうとしているものが
きちんと出てるんだよね。
それが観てるオレたちにも伝わるんだ。
だから‥‥残り少なくなってさみしいね。 |
西本 |
さみしいッスねえ。 |
永田 |
ちなみに、ページ制作担当のモギちゃんは、
このテレビガイドのページの上のところにある
「第○回を観て」っていう丸いアイコンを
こないだ最後までぜんぶ一気につくって、
それだけで泣きそうになったって言ってました。 |
糸井 |
‥‥まあ、あいつもバカな子だからな。 |
永田 |
「ほぼ日テレビガイド」は、
バカな子満載でお届けしております! |
糸井 |
ちょっとほかの人物にも触れましょうか。
誰か印象に残った人はいますか? |
西本 |
ちょっとぼくは、1回目だったので、
甲子太郎と平助でいっぱいいっぱいですね。
誰だろうなあ、今週は。 |
糸井 |
先週、ちょっとクローズアップした、
大石鍬次郎はどうですか。
また、憎まれ役になってましたが。 |
永田 |
あ、ぼく、めずらしく
そこに不満があるんですよ。
こう、展開についてはっきり
不満に思ったのは初めてかもしれないんですが。 |
糸井 |
うかがいましょう。 |
永田 |
ま、ようするに鍬次郎2連発というのが
どうもちょっと引っかかったんです。
つまり、観柳斎のときと
事件の構造は同じなわけですよね。
近藤としては、その人を許して、
「生かしたい」と思う。
土方も、しぶしぶではあるけど、従う。
本人も心を入れ替える。
ところが幹部のあずかり知らないところで
若手が暴走して、鍬次郎が斬ってしまう。
史実がどうだか詳しくは知らないし、
ぼくが唯一読んでいる資料の
『新選組始末記』によれば
少なくとも甲子太郎は
鍬次郎が斬ったらしいんですが、
ぼくは史実を追うというよりも
三谷ドラマをたのしんでいるつもりなので、
斬った人物が同じというよりも、
構造が同じなのが、どうも‥‥。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。
その気持ちはわかるよ。 |
永田 |
真っ直ぐな近藤を描くというのが
このドラマのコンセプトのひとつだと思うので
いまさら「近藤、手を汚せよ」
みたいなことは、ぼくは思わないんです。
けど、それこそ、若手の暴走にするにしても、
違ったドラマを観たいというか。
それこそ、鍬次郎じゃなくて、
「斧太郎」みたいな人でもいいんですけど。 |
糸井 |
「斧太郎」なんて人がいるんですか。 |
永田 |
いるわけないでしょう。たとえですよ。 |
糸井 |
まぎらわしいたとえですね。 |
永田 |
失礼しました。
ま、そんなに大きな不満ではないんですが、
めずらしく引っかかったので、
ちょっと言ってみました。 |
糸井 |
あえてそうしたという見方もできますよね。
「若いもの一般」というのではなく、
きちんと誰かに斬らせたかったんじゃないかな。
ぼくが書く側だったら
それは考えると思うんですよ。
「若いヤツら」っていうことでくくっちゃうと、
そのままになっちゃうなということで
とんがったエッジをつける意味で、
鍬次郎に背負わせたのかもしれないですね。
逆にいうともう1回
鍬次郎にあの役割をやってほしいですね。
もしくは、この後で鍬次郎が
いい殺され方なんかをしてくれると
2連発の味が出てくると思うんです。 |
西本 |
ああ、それは出ますね。
今日の甲子太郎まではいかなくとも
それなりの味が出てくるような気がします。 |
永田 |
うん。そういうことならわかります。 |
糸井 |
ほかのキャラクターでいうと、
ぐっさんはどうでしたか?
ぐっさんが助けなければいけないことと
戦わなければいけないことというのを
両方抱えていて、あの場では
えらいたいへんだったわけじゃないですか。 |
西本 |
ええと、ぼくはなにしろ平助で
いっぱいいっぱいだったので
ぐっさんにまで目がいかなかったですね。 |
永田 |
感じたのは、永倉新八っていうのは、
やっぱり強いんだなということですね。
というか、永倉の剣が強いというのが
きちんと貫かれてないと
今日の話は成り立たないんですよ。 |
糸井 |
斉藤が危ない、なんていう場面に
出て行くわけだから、
ものすごい強い人という役どころですよね。 |
永田 |
ええ。最後の油小路の決戦にしても、
永倉が強いからこそ、
チャンバラの最中にも
平助とやり取りができるわけだし。
つまり、剣に温情を混ぜて、
峰打ちや手加減もできるし、
斬るべきところでは斬る。
最後の、平助の一太刀を
ガチンと受け止めるところは、
そういう永倉の強さと優しさが
現れてるような気がして、泣けました。 |
糸井 |
ああ、あそこなあ。 |
永田 |
逆に、見せ方としてうまいなあと思ったのが、
平助の剣を、未熟だというふうに
見せなかったことです。
もちろん、永倉のほうが強いんだろうけど、
あのときの平助の剣は、
「ものすごく気合が入ってるんだけど、
その気合ゆえに、よれている」という感じで。 |
糸井 |
迷いがあるんでしょうね。
その場での瞬発力なのか
演技プランなのかよくわかんらないけれど、
高まりを感じさせてたよね。
沖田とか混ぜてたらえらいことになってたね。 |
西本 |
沖田が出てきてたら
もっと複雑な対決シーンが
演出されたんでしょうね。 |
永田 |
そうそう。まえのほうの回で
「対決するときは相打ちで」
みたいなやり取りがあったから、
ひょっとしたら沖田が斬るんじゃないかと
思ってドキドキしましたよ。
でも、沖田が真っ白い顔で
「あいつが逃げるわけないでしょう」
っていうところはよかったなあ。
またしても、ぶわっときました。 |
糸井 |
今日は、総合的にみて、
みなさんはどっちが印象的でしたか?
甲子太郎ですか? 平助ですか? |
永田 |
ぼくは2回目を観おわって、
甲子太郎が哀しいなあと思いましたね。 |
西本 |
ぼくは1回目なので
頭がいっぱいいっぱいなんですよね。 |
糸井 |
あなたは今日、そればっかりですね。 |
西本 |
とにかく、京都に再度、
観光に行くことだけは決めました! |
永田 |
それもさっき言ったよ。 |
西本 |
なにしろ1回しか観てませんから。 |
糸井 |
あなたいつも日曜日に観ているのに
観なかったというのは
なにか用事があったんですか? |
西本 |
ええ。じつは土曜日から広島に行ってたんです。
まず土曜日に広島市民球場で
奥田民生さんのコンサートを観まして。 |
糸井 |
あ、3万人のうちのひとりですか。 |
西本 |
そうなんです。で、そのまま1泊して、
日曜日は広島ビックアーチで
FC東京対サンフレッチェ広島の
試合を観戦してました。
これは1万人のひとりですが。 |
永田 |
へえ、広島連チャンだったんですか。 |
西本 |
結果的にそうなりました。
というのは、ヨメがまず、
奥田民生ライブのチケットを取ったと。
なにしろ、ヨメとぼくは
奥田民生の武道館ライブで偶然出会って
そのまま3週間後に結婚するわけですから、
西本家的には「奥田民生関係のもの」
というのは外せないのです。 |
永田 |
そのあたりのなれそめは
うちの事務所中の人が
何度も何度も聞いて知っている話です。 |
西本 |
なんならもう一度きちんと語りますが? |
ふたり |
けっこうです! |
西本 |
でも、さすがにそれだけで広島までは行くほど
ぼくはファンではないですから、
もうひとつイベントを加えたかったと。
そしたらいつも応援している
FC東京の試合が広島であるじゃないかと。
そりゃいいや、ということで
広島に行くことになったわけです。
しかもですねえ、来年、
義理の弟が就職なんですよ。 |
糸井 |
は? |
永田 |
奥さんの弟? |
西本 |
ええ、そうです。彼がいま大学3年生で、
就職活動をはじめなければいけないと。
じゃあ就職の相談に乗ってやろうということで
話を聞いているとですね、
どうやらマツダに興味があると。 |
糸井 |
は? |
永田 |
クルマのマツダ?
広島の会社の? |
西本 |
そうです。
でも、マツダのクルマには
乗ったことがないと言うじゃないですか。
義兄としてそれはまずいだろうと。
それじゃ、今度、広島に、
サッカーとライブを観にいくから
キミも来たまえよ、と。
つまり、キミも広島にきんしゃい、と。
誘ってみんなで行くことになったわけです。 |
糸井 |
あの、この話はいつまで続くんですか。 |
永田 |
よくぞ止めてくださいました。 |
西本 |
いや、これもおもしろい話なんですけどね。 |
糸井 |
ていうか、これ、
前回の事故の話のパターンと同じじゃないか!
大石鍬治郎2連チャンよりも
西本武司2連チャンのほうがどうかと思うよ。 |
永田 |
この話の続きは
屋上でタバコすいながら
聞いておくことにします。 |
西本 |
承知! |
永田 |
ええと、なんの話でしたっけ? |
糸井 |
甲子太郎か、平助かっていう話ですよ。
ま、2回目を観おわると、
ぼくも甲子太郎なんです。
というか、やっぱり
甲子太郎と近藤のやり取りなんですよ。
法度の撤廃とともに土方の時代が終わったと
この前言ったじゃないですか。
今回はもう、完全に近藤の時代になっていて、
「近藤というリーダーはなんなのか?」
ということをぼくはしみじみと
お風呂で考えたわけです。 |
永田 |
お風呂で考えましたか。 |
糸井 |
ええ。お風呂で考えました。 |
西本 |
うかがいましょう! |
糸井 |
思ったのは、近藤という人が
博打打ちであるということです。
甲子太郎とサシで話しているとき、
近藤は言いましたよね。
「命がけで話した」と。
つまり、命をかけるということには
ためらいがないんだけど、
絶対に勝てるというふうには思ってないし、
むしろ勝つということについて
根拠はないわけなんだよ。
思えば、「鴨爆発」のときに
炎の横に座り込んだときも、
そうだったじゃないですか。
「こうすればうまく収まる」なんていうことは
あの人はまったく思ってないじゃないですか。 |
永田 |
そうですね。根拠なく、
真っ直ぐに命をかけているだけですね。 |
糸井 |
そうなんです。
近藤という人はいつでも戦略がないんです。
信じたほうに向かって命をかけて、
ダメで死んだらしかたがない
というような博打を打つんですよ。
そこで、かけたほうが当たるから
人がついてくるんですよ。
今回の甲子太郎も、
つまりはそこに負けたわけです。
いままでもそういう場面が何度もあるんです。
打算や裏づけなく進んでいって、
「ダメだったらどうする気だったんだよ」
と終わってから聞かれるようなことを
ずーっとやってきてるんです。
たとえば、山南さんが逃げたときに
沖田を行かせたじゃないですか。
あれは助けたいから行かせたという
説明がわざわざあって収まったけど、
やっぱりぼくは、あれは賭けだったと
いまでも思ってるんですよ。
沖田というサイコロをふったときに
起きることが正しいことなんだというふうに
近藤が決めて行かせたと思うんですよ。
そして、その判断に、
ことばを交わさずにうなずけた土方も、
そういう近藤を信じてると思うんです。
つまり、サイコロを振るときの一念が
あまりにも強烈で純粋なんで、
サイコロの目が変わるんですよ。
今回もズバリそんな場面でしたよね。
だから、いわば宗教なんですよ。
近藤についていく人というのは
宗教家についていく人なんですよ。
土方というのは、自分に教祖としての
面がないということがわかっているので、
それを手伝う人として生きることを決めて、
ものすごく戦略的に、
ふつうの人ができることを全部やる。 |
永田 |
ビジネスマンですよね。 |
糸井 |
そうです。甲子太郎も同じですよね。
甲子太郎も秀才としてできることを全部やる。
彼に人がついていくというのも、
どちらかというと「理」で動いてるんですよね。
そこのあいだに揺れていたのが平助なんです。
とくに薩長が連合したあとは、
時代が揺れまくっているから、
土方というビジネスマンがどう動いても
もう、なにも止められなくて
近藤のような宗教家がやって
やっと持ちこたえられるという時期なんです。
大きい意味での国際的、戦略的な、
マーケティングの時代に、
宗教家が巻き込まれていく物語なんですよ。
で、日本人はそれが好きなんだと思うんだよね。
逆にいうと、ビジネスマンが
時代を戦略で切り開いていくのが
アメリカの物語だと思うんだけど。
そう考えるとね、人が人を認めたり
人が人についていったりするというのは、
ひとくちには説明できないなにかがあって、
そういうのはほんとにおもしろいなあと思う。
で、そういう時代との関わりのなかで、
近藤勇が初めてきちんと言いましたよね。
「私はそういう世の中にしたい」と。
ぼくはあれを香取くんがほんとうに
言えるようになった気がして、
とってもうれしかったですねえ。 |
永田 |
なるほど。ぼくはまた、
三谷さんを観ちゃうというか、
物語の構造に感心しちゃうんですけど、
「私はそういう世の中にしたい」
と言わせるタイミングが
やっぱり、いましかないんですよね。
というのは、幕府をなくしてるからこそ、
あれがきちんと言えるんですよね。 |
糸井 |
ああ、そのとおりですよ。
「こういう世の中にしたい」ということは
言っちゃいけなかったんですよ。 |
永田 |
そうなんですよね。
「薩長の人たちは、一握りのひとが
自分の利益のために動いている。
私はそれが許せない」って近藤は言うけど、
幕府があるときは説得力なくなりますからね。
もっと言うと、幕府があるときに、
「こういう世の中にしたい」って言えるのは
やっぱり龍馬なんだと思うんです。
ところがいま、幕府も龍馬もいない。
その瞬間に、それまで、
じいっと黙って耐えてきた近藤が
きちんとあれを言うことができる。 |
糸井 |
そうだね。だから、ここ数回で、
近藤の大きさというのが
どんどん出てきてますよね。 |
永田 |
ええ。新選組が「身分を問わない集団である」
ということにスポットを当てて、
「武士よりも武士らしく生きる」
と決意した多摩の百姓、近藤と、
あらためてつなげたことも大きいと思いました。
そのぶん、土方がちょっと薄くなってますけど。 |
糸井 |
土方はやりようがないでしょう。
ビジョンは誰かがつくって、
その戦術を考えるのが土方だからね。 |
西本 |
いまとなっては土方が言っていることが
ぜんぶ、時代遅れに感じるんですね。
近藤のいうような一見不器用そうなことが
新しいものに感じます。 |
糸井 |
甲子太郎みたいな策士が
顔の表情を変えるわけですからね。
近藤マジックですよね。 |
永田 |
甲子太郎って、近藤と土方の両方の要素を
持ってた人なんじゃないかなと思ったんですよ。
というか、自分では、両方の要素を持っていて、
どっちにもなれると思ってたのに、
今回、近藤にすべてを見抜かれて、
一気に自分が崩れちゃったっていような。 |
糸井 |
つまり、伊東甲子太郎という人は、
ずっと自分の大きさの見極めが
できなかったんだろうなぁ。 |
永田 |
そうですね。 |
糸井 |
土方は自分の大きさを早くに決めた人だよね。
どんなビッグなアイデアを出したとしても
自分はあくまで
「ふつうの人のなかでの
いちばん、才覚のあるやつ」
というところだと決めていて、その決めかたは、
かっこいいと思えた時代があったよね。
いまはやっぱりそうは見えないんだけど。
ずっとふつうなのは源さんだよね。 |
西本 |
うん。ぼくの今日のいちばんは
源さんの「またひとり、逝ってしまった」
というあたりです。 |
永田 |
あれは効いたなあ。 |
糸井 |
ぐっとこさせようと思っている通りに
ぐっとくるね。 |
西本 |
あの人に言わせたことがすごいなあと。
近藤は隊員のお父さん的役割もあるなかで
その近藤を見守ってきた源さんが
近藤よりも感情をあらわにするということが
ぐっときますね。 |
糸井 |
あの人は強くもないし、利口でもないし、
今でもお茶をいれているような人で、
だけどもあの人の言うことに
いろんな人が耳を傾けるわけだよね。
あの人は大事な人だよなあ‥‥。
語ってて、ちょっと涙が出るね。
平助もそういうタイプの人でしたけどね。 |
永田 |
源さんの視線って、
ドラマを観ているぼくら一般の人の
視線が混じるんですよ。
だから、あのセリフは効いたなあ。 |
糸井 |
あとは、誰ですかねえ。 |
永田 |
あっ、忘れてた。
今回、加納がよかったですよ! |
糸井 |
加納ね。あのくらいの役って、
簡単じゃないんだよねえ。 |
永田 |
控え目なんだけど、存在感があって、
敵味方を超えて、なぜか信頼できて‥‥。
最後のところのセリフは
「そのとおり!」と膝を打ちましたよ。
新選組ではなく、御陵衛士側に
すごく強く感情移入したのがあそこです。
「ワナだろうがなんだろうが、
先生の遺体を
路上にさらしておくわけにはいかん!」と。
それはほんとうにそのとおりだと思いました。
また、あそこは、甲子太郎がツラいんだよなあ。
いつもキレイな人だけに、
道で大の字になっているだけで、
「ああ、早くカゴに入れてやってくれ」
って思っちゃう。 |
糸井 |
加納にしろ、平助にしろ、
御陵衛士の人たちは「武士」でしたよね。
負けようが勝とうがいくというあたりに
武士の道というのがあるんだろうね。
その道に対して、
「穴を掘って行ったら早いぞ」
と言うのが土方ですよね。 |
西本 |
「裏から鉄砲を撃って攻めれば絶対勝てる」
なんて言ってましたしね。
武士の時代じゃなければ、
名将なんだろうなあ。 |
糸井 |
なにかの本で読んだんだけど、
「道というのは、
人が何度も通った跡である」
っていうのがあって、
その言いかたがすごく残るんだよ。
つまり、ふつうの人にとっての道というのは、
何度も行き来しているところで、
「武士の道」というのは、
やっぱりそことは違うんだよね。 |
永田 |
その意味では、今回の平助は武士でしたねえ。
いままででいちばん
「武士」だったんじゃないかと思いました。
たとえば、斎藤が平助に
「オレはこのまま出て行って戻らない。
おまえも来い」って言う場面。
ふつうなら、「私は残ります」って言うだけで、
十分だと思うんですよ。
ところがあそこで「行けません」って
言うだけじゃなく、抜いて斬りかかってしまう。
あれはちょっとびっくりしました。
ま、あっさりやられて縛られてましたけど。 |
西本 |
あれ、峰打ちで気絶させたんでしょうね。 |
永田 |
斎藤って、気絶させたあとの
手際がすごくよさそうですよね。
納屋まで引きずっていって、
ちゃちゃっとあっという間に縄でしばって。 |
西本 |
斎藤は器用ですからね。 |
糸井 |
峰打ちっていうのも、そうとう痛いんだろうね。
ろっ骨くらいは簡単に折れるんだろうね。
あと、槍は強いんだなっていうのを
甲子太郎が刺されるところで
すごく強く感じたな。 |
永田 |
ああ、それ、思いました。
鍬次郎が剣で甲子太郎を斬ってたら、
説得力が違いますよね。 |
西本 |
甲子太郎が強いからこそ、
鍬次郎に槍を持たせて距離をとらせている。 |
永田 |
そうそうそう。 |
西本 |
甲子太郎が素手で相手を倒すあたりは
キレイでしたね。
チン、トン、シャンと日本舞踊みたいで。 |
永田 |
うん、あそこ、よかったね。
背後からの太刀をくるりと避けて、
ドンと突いて、「愚か者!」って。
いわゆる「型のキレイな」感じの強さね。
ふつう、あれを見せられて、
武士だったら、背後から突いたりしないよなあ。 |
糸井 |
だから三谷さんは、あえてあそこに
「ガキの集団」をもってきてるんですよね。
武士の道がもう途絶えて、
明治になっているんだということを、
秋の終わりに「もう冬だよね」と
言うみたいにして、見せてるんですよ。 |
永田 |
もう「冬」かあ‥‥。 |
西本 |
終わっちゃいますねえ‥‥。 |
糸井 |
終わっちゃうねえ‥‥。 |