ほぼ日テレビガイドシリーズ  春の連ドラチェック2011  あややとふたりのプロフェッショナル

月9を軸に、ドラマ論? 恋愛論?
ずいぶん長く話しちゃいました。

あやや じゃ、荒井先生から1本どうぞ。
荒井 うーん。じゃあ、月9を行きましょうか。
あやや お、来ましたね
幸せになろうよ
フジテレビ系
毎週月曜日午後9時
荒井 はじまってますが、観ました?
あやや 観ました、観ました。
いわゆる「婚活」がテーマで、
ラブコメなのかなと思いきや、
そんなに軽くもないというか。
荒井 うん、まあ落ち着いてましたね。
あやや やっぱり、主演の香取慎吾さんがいいです。
あの、わたしが感じる香取さんの魅力を
言わせていただいていいですか。
香取さんってね、自分の体重を、
けっこうな幅で調整できるらしいんですよ。
で、今回は、かなりシュッとしてるというか、
「仕上げてきてる」感じがするんです。
このへんはプロだなというか、
ちょっとすごみを感じますよ。
いちおう、うだつの上がらない役どころなんで
いまはそんなふうに見えないですけど、
どこかでビシッとする瞬間が来るんじゃないかと。
森下 ああ、わかります、わかります。
あやや あと、この真面目な路線も
ちょっとうれしかったりしますね。
香取慎吾さんが恋愛ものを
ちゃんとやるのを観たいなと思ってたので。
けっこう、変わった役、多いじゃないですか。
森下 キャラクターもののインパクトも強かったし。
荒井 昔は『ハットリくん』とかやってましたよね。
あやや 『ハットリくん』も、『こち亀』もやって‥‥。
だから、変な言い方ですけど、
ひさびさにふつうの役をやってくれてうれしい。
キャラクターもののドラマも
おもしろければ喜んで観ちゃうんですけど。
荒井 そうですね。
で、香取さんの相手役が黒木メイサさん。
あやや 恋愛ドラマっぽい組み合わせで
すごくいいですよね。
黒木メイサさんは、
同性からの支持も高そう。
荒井 あと、ピースの人が出てるんですよね。
あやや そう、綾部祐二さん。
荒井 最近のお笑いの人って
演技ができる人が多いんですけど、
この人の演技はかなり自然で、
安心して観ていられます。
こっちが本業でもいけるんじゃないかなと。
あやや 何年かしたら、ふつうに俳優さんとして
活躍しているのかもしれないですね。
森下 そうですね。
あやや それからこれは、読者の方にとっても、
森下さんや荒井先生にとっても、
まったくうれしくない情報だと思うんですけど、
香取さんと黒木さんが出会う場面、
なんとうちの会社のすぐそばなんですよ。
荒井 えー!
森下 そうなんだ(笑)。
── え、あやちゃん、ほんと?
あやや ほんとです、ほんとです、
ほら、そこのとおりの、そこ、そこ。
ほんと、そこなんですよ、観てたら。
森下 へぇー。
荒井 へぇー。
あやや で、わたし、個人的にこのドラマは
いっそう、応援しないといけないなと。
── 地元として。
あやや 地元、地元。
── 地元じゃないけど。
あやや ほんとは大船だけど。
青山も、地元っちゃ地元。
ご当地ドラマを応援するぞと。
つぎも観るぞと。
荒井 実際、なんていうか、
つぎが観たくなるようなドラマに
仕上がってましたよね。
あやや そうそうそうそう、
丁寧で、いいセリフがたくさんあって。
荒井 うん、月9としての
安心感がうれしかったですね。
ただ、なんていうんでしょう、
「いまのこの時代の月9」って
考えてみると、すごく難しいんですよね。
あやや あ、それ、わかります。
この主人公になにをやらせて、
どこへ向かえばうれしいんだろうっていう。
森下 あー、なるほどね。
荒井 「月9的なもの」が、
時代としては、成り立ちにくいというか。
このドラマ単体の話じゃなく。
あやや そうなんですよ。
荒井 最近の月9は、その前提のところで
迷っているような感じがあるかな‥‥と。
あやや で、迷ったあげくに
とりあえず時代を追おうとして、
「いまこういう時代だよね」っていう
設定に、無理にしているような。
荒井 でも、どこかが、違うんですよね。
あやや そう、なんか、ズレてる感じはすごくある。
荒井 昔からのドラマファンとして
期待を込めていえば、やっぱり、
月9がドラマ界をリードしてほしいんですけど、
そうなってないですもんね、いま。
あやや そうなんです。
そうなんです。
荒井 地味にいいドラマ、っていうのでも
悪くはないんですけど、
でも、月9だしなぁ、っていう。
あやや そうなんですよね。
森下 ひとつひとつのドラマとしてよりも、
枠として、もっと期待しているというか、
やっぱり、応援したいんですよね。月9は。
あやや そう、そう。
森下 月9っていえば、やっぱり、
ラブストーリーじゃないですか。
でも、わたし最近のラブストーリーで、
もっともおもしろかったのって、
個人的には『モテキ』なんですよ。
荒井 ああー。
あやや ああー、そうですね、そうですね。
森下 だから、おもしろいラブストーリーって、
なくなったわけじゃなくて、
やっぱり、あるんですよね。
あやや あります、あります。
森下 さがせばちゃんとあるんだけど、
ただ、月9には、昔ながらの
ラブストーリーのフォーマットみたいなものが
どうしても残っているというか、
いくら新しい設定を探しても、
その伝統的なフォーマットを
守っているような感じがしていて。
もちろん、もっと時代が過ぎると
それがほんとうに伝統としての魅力に
なっていくのかもしれませんけど。
あやや いまは過渡期なのかもしれないですね。
昔のフォーマットと、いまっぽい設定が、
なかなかうまくかみ合わないというか。
観るほうも、両方を求めていたりするし。
荒井 うん、たしかに。
あやや で、視聴者としては、
そういう、四苦八苦したようなものよりも、
『おひさま』の井上真央ちゃんみたいな、
いまの時代とはぜんぜん違う世界での
わかりやすい笑顔とかがんばり、
みたいなもののほうに、よっぽど
リアルなシンパシーを感じるというか。
森下 そうですよね。
あやや だから、たとえば、いまって、
役者さんにとっては、月9に出るよりも
NHKに出るほうがいいって
思えてるんじゃないですかね。
いや、わからないですけど、
そういうふうに感じられるようなところが
いまの月9の難しさっていうか。
森下 うーん。
荒井 そうですね。
否定するわけじゃなくて、
「月9が難しい時代ですよ」的なことは
言ってもいいかなっていう気がします。
あやや 逆に、ほかのいろんな枠は、
いろいろ自由にやって
育っているような気もしますし。
森下 その点、月9は、ちょっと
使命感みたいな感じに
なってるかもしれませんね。
ラブストーリーをやるっていう。
荒井 恋愛もので、そんなに重くなくて、
かつ、ヒットさせなきゃいけない、みたいな。
なんか、そういう閉塞感が。
── でもさ、あの、素人意見ですけど、
たとえば『モテキ』は、
ぼくのまわりの人たちもみんな褒めてるけど、
視聴率がよかったわけではないんでしょう?
あやや いってないです。
荒井 でも、あれは深夜のドラマでしたから、
数字はもともと取れないんですよ。
── そう、だから、真ん中で
誰もが認めるおもしろいものをつくることが
いまの時代の難しさであって、
あちこちでおもしろいものはあるのに
真ん中は元気ないぞっていうのは
ちょっと、話が別かなという気がする。
荒井 ああ、じゃあ、たとえば、
あの『モテキ』をそのまんま月9に
持ってきたらどうなるんだろう
っていうことですね。
森下 エッチシーンがなければいけるのかな。
荒井 いけるのかなぁ。
あやや いけるんだけども‥‥。
荒井 エッチ度を弱めれば弱めたで
いろんなバランスが‥‥。
── 深夜のヒットしたバラエティ番組を
いい時間帯にもってきたとたんに、
持ち味がなくなっちゃうっていうことが。
あやや そうそうそう。
荒井 たしかにね。
森下 ‥‥月9でやるとしたら、
男女を逆にしてやってみると、
合うかもしれない。
あやや ああー!!
荒井 おーーー。
── さすが。
森下 それは『モテキ』じゃ
なくなっちゃいますけどね。
ぜんぜんモテない女の子が
ある日突然モテだして、
でも、決められなくなったり、
あっちにもこっちにもいい顔しちゃったり。
私の私生活に「モテキ」が来たならば、
そりゃあ、もう、
どうしたらいいかわからなくなって、
やらかしちゃうと思う。
妄想レベルだなぁ。
あやや でも、そのままじゃなくて、
枠に合わせたドラマが必要なんだなっていうか、
枠とドラマの両方がぴたりと合って、
大ヒットするいいドラマって
生まれるような気がしました。
荒井 うん。
あやや 『モテキ』の大根仁さんにしても、
宮藤官九郎さんなんかにしても
そうだと思うんですけど、業界内視聴率って、
きっとめちゃくちゃ高いと思うんですよ。
でも、それってやっぱり、
視聴率とは別のものだと思うし。
荒井 そうですね。
あやや 長いあいだドラマをおもしろがって観てると、
「あ、これ、一般の人たちは
 おもしろがらないんだ?」って
思うことってあるじゃないですか。
森下 ありますね。
わたしもすごくよくあります。
荒井 あります。
あやや ありますよねー。
森下 極端にいえば、
だいたい私が「好きだ」っていうと、
そのドラマはまず当たらない(笑)。
一同 (笑)
森下 最近だと、『TAROの塔』。
めちゃめちゃおもしろかったんですけど、
視聴率は一桁だったりとかね。
あやや 『TAROの塔』、おもしろかったですよね。
うちの会社のドラマファンの分析では、
敗因は、かの子が怖すぎたからじゃないかと。
森下 かの子、怖すぎた(笑)。
たまらなかったですけどねぇ!
── かの子はどなたですか。
あやや 寺島しのぶさんが岡本太郎さんの
お母さん役をやってるんですけど、
超エキセントリックな演技で、怖すぎて、
よくて、でも怖くて、一般の人は
ひいたのではないかと。
森下 めちゃめちゃよくできてたと思うなぁ。
私は、おもしろかったんだけど。
あやや だから、そこでわたしが
森下さんにお訊きしたいのは、
『JINー仁ー』なんですよ。
── うん、そうだ。
あやや 『JINー仁ー』っていうのは、
その両方を、要するに、
とんがったのが好きな業界の人でも、
王道的なものが好きな人でも‥‥。
荒井 みんな巻き込んじゃってるんですよね。
あやや そう、みんな巻き込んじゃってる。
荒井 なかなかめずらしいですよ。
あやや めずらしいんです。
荒井 いろんなものが重なってないと、
それはできないでしょうね、たぶん。
あやや それは──
── いったい──
荒井 どうして──
あやや なんでしょうか?
森下 ‥‥‥‥『JINー仁ー』ってね、
めちゃめちゃオーソドックスなんですよ。
基本的なつくりとして、
人物配置からなにから、
基本的にオーソドックスなんです。
ところが、起こる出来事が、
タイムスリップだったり、
江戸時代の外科手術だったりとかで、
非常にエキセントリックなので
そういうふうには思えないんですね。
でも、進行するドラマの構造というのは
ものすごくオーソドックスなんですよ。
あやや あー、なるほど。
荒井 なるほど。
森下 なにひとつ、奇をてらってないんですよ。
主人公はナイーブで、真っ直ぐで、
友だちは、華やかで行動力があって、
ちょっと変わってるけど、愛すべき人物で。
荒井 タイムスリップの設定だけが
変わってるんですね。
森下 そうなんですよ。
あやや わたし、森下さんってすっごいなと思ったのが、
『JINー仁ー』って、現代医術の話もあって、
歴史的な要素もあって、なおかつ、
とんでもないSFなわけじゃないですか。
これだけいろんなものが混ざってて、
なのに、人の本質的な話が中心にあるのが
ほんと、すごいなと思ってたんです。
要素を並べるとめちゃくちゃ複雑なはずなのに、
『JINー仁ー』自体は、すごく普遍的で、
ふつうに受け止められるっていうのがすごい。
森下 それはもう、原作の力です。
医療にしても、歴史にしても、
村上もとか先生がものすごく
描き込んでくださっているので。
さっきいったオーソドックスな魅力についても
もともと、もとか先生がつくりあげたものです。
だから、わたしの仕事って、
それこそ枠に合わせるじゃないですけど、
テレビのドラマに合うように
味つけするというか。
荒井 ああーー。
森下 あの、もとか先生の原作って、上品なんですよ。
すごくしっかりしてるんだけど、
人と人との関係について、
あんまり感情的に追わないんですね。
奥ゆかしいんです。
だから、私の仕事は、その原作を、
「盛り上げる話」に並べ替えることなんです。
あやや ああー、なるほど。
── うーん、なるほど。
森下 だからできたんですよ。
イチからなんて、絶対書けませんよ、私に。
無理、無理、無理(笑)。
あやや だから、わたし、今回、
『JINー仁ー』を観てつくづく思ったのは、
なにかの原作者の人が、
原作の世界を大切に守りつつ、
ドラマや映画にしたいと思ったら、
森下さんという脚本家は
ものすごくありがたいというか、
いてくれてうれしいだろうなと。
森下 いえいえ(笑)。
あやや だから、原作者のみなさん!
森下さんを指名したほうがいいですよ!
原作者のみなさん!
── オレに言うなよ。
あやや 目線をどこに向けていいのか
わからないんです!
森下 まぁ、そういう話はともかく。
荒井 すみません、
『モテキ』をゴールデンにしたら、
みたいな話が広がっちゃいましたね。
── ええと、月9です。
『幸せになろうよ』。
もう一回、この帯を入れておこうかな。
よいしょっと。
幸せになろうよ
フジテレビ系
毎週月曜日午後9時
荒井 脇を固める人たちの話が途中でしたけど、
小林薫さんとかがちゃんと
要所を締めてるんですよね。
あやや そうですね。
原田美枝子さんとかね。
荒井 こういう人が出てくると、
ドラマ全体が締まります。
あやや そのあたりは月9の
すごく上手なところですよね。
やっぱり、押さえるとこを押さえるというか、
何をすればいいかっていうことが、
わかってらっしゃる方たちですよね。
森下 そのあたりは、枠と伝統のよさ。
あやや ですね、ですね。
荒井 でも、うーん、どうしてテーマが
また「婚活」「結婚」なんだろう。
あやや そう、最近の月9って、
よく「結婚」をテーマしますよね。
前回のも結婚ものでしたしね。
『大切なことはすべて君が教えてくれた』。
三浦春馬さんと戸田恵梨香ちゃん。
荒井 そうですね。
たしかに「結婚」はリアルな
テーマかもしれませんけど、
リアルなぶん、ちょっと地味というか。
森下 実際に婚活してる友だちの話を聞くと、
すごく現実的なんですよね。
やっぱり、年収とか学歴で、
みたいなことになるらしくて。
だから、ほんとうの「婚活」っていうのは
ドラマにしにくいんだろうなあとは思います。
荒井 たしかに、ドラマでそれを
リアルに再現しちゃうと
生々しくなりすぎそうですね。
あやや 逆に、あえてそこをリアルに追うと、
ちがったおもしろさは出そうですけど。
荒井 でも、それが月9かというと‥‥
あ、また同じ話をしちゃいそう(笑)。
あやや うーん、月9ってやっぱり
恋愛ものをやらなきゃいけないんですかね。
── 要するに、いまは「恋愛もの」が
成立しづらい時代なんですね。
あやや そうですね。
── それは糸井さんが言ってた、
「いまは男が歌う歌詞が書けない時代だ」
っていうところと通ずるところが
あるような気がするなぁ。
森下 そう、わたし、すごい不思議なことがあって
話をしてるときに、
人の恋愛話っておもしろいじゃないですか。
あやや おもしろいです!
森下 おもしろいでしょ?
でも、なんでドラマでやると、
あのおもしろさがなくなっちゃうんだろうって。
そこが、永遠の謎なんですよ。
荒井 ああー、謎ですね(笑)。
あやや なんででしょうね。
おもしろい恋話もありますけどね。
昔はおもしろかったですよね。
昔の恋愛ドラマの恋の話って。
荒井 ドラマにするとそれほど見ないっていう。
森下 なぜなんだろう。
あやや あの、直接の答えじゃないんですけど、
わたし、最近、鎌田敏夫さんの
『金曜日の妻たちへ』を観たんですよ。
そしたら、めちゃくちゃおもしろいんですよ。
森下 ああー。
荒井 『金妻』ですね。
あやや つまり、恋愛ものをちゃんと描けば、
恋愛話と同じようにおもしろいんだけど、
それができていないのか、
ああいうふうに正面から書く人が
いなくなってきているのか‥‥。
もしかしたら、実生活での経験として
濃い恋愛をしている人が
少なくなってきてるのかもしれないなって。
その、脚本家だけじゃなくて、
こういうドラマをつくろうって
考える人たちとか、視聴者とかも含めて。
荒井 ああ、なるほど。
あやや あの、去年やった
三谷幸喜さんの『わが家の歴史』で、
佐藤浩市さんが柴咲コウさんと結婚してて、
佐藤浩市さんが浮気したときに、
柴咲コウさんが謝る佐藤浩市さんに対して
怒るでもなく、泣くでもなく、
「抱いてください」って言う場面があるんです。
糸井が三谷幸喜さんと対談したときに、
あのセリフがすごくいいって言ったら、
三谷さんが、
「じつはあのセリフはプロデューサーの
 大多さんが提案したんです」
っておっしゃったんですね。
で、それにつけ加えて、
「ぼくにはあれは思いつかなかったけど、
 大多さんは経験豊富な人だから」って
おっしゃったんですよ。
森下 はははは。
あやや っていうようなことが
もしかしたら、あるのかなとかって思って。
森下 そうかもしれないですね。
あやや リアルな恋愛のかたちも、経験も、
時代によって変わってきているでしょうし。
荒井 でも、昔は、たとえば、
『ロングバケーション』とか、
おとぎ話みたいなラブストーリーが
ものすごく人気があったわけですよね。
あれが当時のリアルな恋愛だったかっていうと
そうじゃないような気がするんです。
あやや ああー、そうですねぇ。
── でも、ああいう、おとぎ話みたいな恋に、
みんなが「リアルにあこがれてた」
のかもしれないですよ。
あやや あ、それはそうかも!
‥‥って、永田さん、
『ロンバケ』観てるんですか?
── じつは観てるんだ。
そう、そのいきさつも含めて
つながってくる話なんですけどね、
ドラマを観ないぼくがどうして観たかというと、
あるとき、ドラマ好きの友だちが、
「これを観てみてくれ!」って
ものすごく強くすすめてきたんですよ。
たぶん、実際の放送から何年か経ったころ。
男なんだけど、いいからどうしても観ろと。
で、そこまで言うならと思って観たんだけど、
よくできてるなあとは思うものの、
彼がそこまで強くおす気持ちは
よくわからなかった。
荒井 グサグサとはささらなかった。
── そうなんです。
でね、さっき森下さんが言った、
「恋愛の話を人と話すのはおもしろいのに
 ドラマでやると魅力が薄れるのは
 なぜだろう」という話とつながるんですが、
恋愛の話を人としゃべるときっていうのは、
その話の主人公が知り合いだったりするから
もう、入り込み方が違うじゃないですか。
ていうか、すでに入ってる。
しかも、恋愛話の特別なところって、
たとえば、人の話を聞きながらも、
「自分の経験も話すかもしれない」っていう
どきどきしたものがあるんですよ。
だから、話すにしても、
聞くにしても、超おもしろい。
あやや ああーー。
── たぶん、いい恋愛ドラマって
そういうふうに巻き込まれてると思うんですよ。
だから、いくらドラマがよくできてても、
ぼくが観た『ロンバケ』みたいに
ぜんぜん巻き込まれてない状態から
「とにかく観る」だけだと、
ちっともそのよさが伝わらない。
荒井 一方的だっていうことですね。
── そうです、そうです。
ドラマだけじゃなく、ゲームもスポーツも
娯楽はぜんぶそうだと思うんですけど、
ぐるぐる渦に巻き込まれている状態が
絶対におもしろいので。
あやや そうですね。
だから、そのもののクオリティーだけじゃなく、
関わり方の問題。そういう意味では、
恋愛ものの名作をつくる人は、
視聴者を巻き込むのが上手な人です。
北川悦吏子さんの名作ドラマに
巻き込まれるのはちょっとした快感だし、
内館牧子さんなんかも、
ふつうじゃない巻き込み方をしますよね。
荒井 ああ、ふつうじゃないですねぇ。
あやや もう、無理やりにでも、
その世界に引きずり込むような
おどろおどろしさが。
森下 迫力というか、情念というかね。
荒井 だから、いま、
『ロンバケ』的なものをやっても
巻き込めないですよね、きっと。
あやや そうですね。
あのころは、たしかに、巻き込まれたかった!
『ロンバケ』は話ももちろん
おもしろかったんですけど、
ドラマのよさをどうこう言うより、
木村拓哉さんにうっとりしたい!
みたいな感じでしたよね。
もう、観てるだけでキュンキュンくる。
森下 なにを隠そう、
うちのソファーはいまだに
ロンバケソファーですからね!
あやや ええ!
森下 『ロンバケ』観てて、
ちょうどそのころ結婚して、
『ロンバケ』のソファーを
買ったんですよ(笑)。
あやや ロンバケソファーですか!
森下 うん(笑)。
あやや すごい。
尊敬します、そういうの。
荒井 それ、どんなソファーなんですか。
森下 山口智子さんの家と木村拓哉さんの家に、
両方あったやつで、南んちのが赤で、
セナくんちが黒かな、茶色かな。
荒井 ふつうの形なんですか。
森下 ふつう、ふつう、ぜんぜん。
── 巻き込まれてるわー。
森下 巻き込まれてるでしょう?
あやや だから、やっぱりたいへんですよね。
いま月9は、いまの厳しい時代の人たちを
巻き込まなきゃいけないから。
荒井 そうですねー。
「結婚」ものが多いのも
わかる気がしてきました。
あやや その意味では、大きく戻りますけど、
『幸せになろうよ』も。
荒井 うん、期待ですね。
いまのところ、観ちゃうと思います。
森下 なんか、ドラマ論みたいに
なっちゃいましたけど(笑)。


(つづきますー)

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2011-05-07-SAT